- 著者
-
髙杉 洋平
- 出版者
- 日本政治学会
- 雑誌
- 年報政治学 (ISSN:05494192)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.1, pp.1_270-1_292, 2018 (Released:2021-07-16)
- 参考文献数
- 37
本稿の目的は 「新体制試案要綱」 の策定に関わる民間シンク・タンク国策研究会と陸軍省軍務局幕僚の関係を再評価すると共に, 軍務局幕僚の新体制構想の実像を明らかにすることにある。従来, 国策研究会は陸軍のブレーン・トラストと考えられており, 同会が策定した 「新体制試案要綱」 は, 未発見の陸軍の新体制構想を代替するものと明確な根拠を欠いたまま推測されてきた。しかし 「新体制試案要綱」 の策定過程を確認すると, 同要綱が多様性に富んだメンバーによって立案され, 審議の過程や結論が広く公開されたこと, その内容も議会や旧政党を尊重するものであったことが分かる。この事実は同要綱と軍務局幕僚の関係を一見否定するものである。にもかかわらず, 既存研究はこの矛盾について全く説明しえていない。本稿は, 当該期に軍務局幕僚が陥っていた政治的苦境を指摘し, 軍務局幕僚にとっては国策研究会の 「中立性」 や 「公開性」 にこそ同会の利用価値の本質があったことを指摘する。そしてこの考察の過程で, 当該期の軍務局幕僚の新体制構想が, 議会政治や政党政治に肯定的評価を与えるものであったことを明らかにする。