著者
柴 眞理子 小高 直樹 宇津木 成介 魚住 和晃 萱 のり子 米谷 淳 菊池 雅春
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、舞踊,音楽(ピアノ),書という異なる芸術分野に共通する基本的感情検証と、日・韓・中の異文化間比較によりその基本的感情が文化を超えて共通であることを確かめ,それと同時に,それぞれの芸術や文化に固有な感情表現についても明らかにすることであった。そのために、3つの評価実験を行い、その結果、次のような知見を得た。舞踊・音楽・書(漢字・かな)の3つの分野に共通する感情は「美しい」「きれい」「なめらか」「力強い(強い)」のみであった。3つの分野のうち,舞踊と音楽間では,例えば「楽しい」「悲しい」「こわい」など多くの感情が共通しているのに対し,書は他の2分野と共通する感情が少なく、いわゆる「快・不快」の感情を表現(伝達)しにくい。しかし、かなの書では「悲しみ」の感情は表現(伝達)されており,かなの表現性(表現力)が漢字とは異なる点があることも示唆された。異文化間比較では、各舞踊刺激、音楽刺激を視聴させ、その感情にふさわしい書をマッピングさせるという方法をもちいた。その結果、舞踊の場合のほうが音楽に比べ,「異文化的」な評価が少ない傾向がみられた。また,漢字とかなについては、漢字の方が,「文化差が小さい」ように見える。この点については、かなが我が国に固有の表現媒体であること,したがって舞踊なり音楽なりの感性的印象を評価する場合,漢字を用いるほうが「文化的共通性」を生み出しやすいことが推察される。以上のような知見と同時に、本研究を通して「感性評価の異文化間比較」は,単に,学術的な研究の対象となるばかりではないことを再認した。たとえば日本の芸術作品の海外における評価が日本的な感性による評価と一致するものかどうか,換言すれば,日本において高く評価される芸術的表現が他文化において同一基準で評価されるかどうかという,実際的な場面にも応用が可能であろうと思われる。