著者
柴 眞理子 田中 朱美
出版者
人体科学会
雑誌
人体科学 (ISSN:09182489)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.37-47, 1993-04-30
被引用文献数
1

本研究は、創造的自己表現を主目的にして、精神病院入院中の患者を対象に、1991年から2週間に一度の割合で実践してきたダンスセラピーについて、その展開と経過について検討することであった。セラピーとしてのダンスの機能を、心身の開放、個人を創造的に表現する、他人とのコミュニケーションをはかる、と捉え、これを軸として1回のセッション(60分)を5つのパートで構成した。(フォークダンス、身体のいろいろな動かし方の研究、表現の課題、個人発表、感想)毎回のセッションをVTRに記録し、指導者による患者の観察・ダンスの評価、患者の感想、及び主治医の所見・VTRをみての感想、医師(共著者)とのインタビューを資料とした。今回は33歳と、42歳の女性患者の場合を事例として取りあげた。その結果、二人は共に、音楽に敏感であり、自由に自分を表現することに喜びを感じ、他の人ダンスをみて、それぞれをすばらしいと感じ、更にそれを自分の中に生かしたいと感じているが、これらは、患者のダンス体験が学生のダンス体験と同じであり、ダンスは、自分の内との、また他の人々とのコミュニケーションであり、同時に自己実現の欲求と充足をもたらすものであることを意味する。また、二人の主治医が、患者のダンスをみることは、医師が今まで知らなかった意外な面に接する機会となるし、ダンスは患者の感情面や行動面に一時的な効果があると述べている。従って、筆者らが展開したダンスの活動は、患者が創造的自己表現の喜びを体験することにより、精神科の治療としての可能性が認められ、その意味から、今回のダンスの活動はセラピーと呼びうると言うことが明らかになった。以上のように、本研究の結果、創造的自己表現に立脚し、また気の場(心の交流)大切にする筆者らのダンスセッションは、ダンスセラピーとしての可能性が認められたので、今後は、「場」の問題にアプローチすると共にダンスセラピーと疾患の経過、治療的意義などについて検討する予定である。
著者
柴 眞理子
出版者
人体科学会
雑誌
人体科学 (ISSN:09182489)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.79-88, 1992-04-30

The purpose of this study is to investigate how students cultivate essential humanness -"self-acutualization"- by a learning of creative dance and to inspect that it is not "instrumental learning", but "personality change" which is said by Maslow. The subjects are the 43 university students majoring in pedagogy of primary education. Before and after the 12 creative dance classes, the subjects are required to write about the following questions. 1. About the experience of education which makes the most of individuality 2. What must teachers do in order to make the most of pupiles' individuality? 3. What is creativity? 4. Evaluate self creativity and write the reason 5. Finishing a learning, what did yor understand or obtain? (only after classes) 6. About the significance of creative dance (only after classes) Their descriptions about each question are classified and analized by the K-Jmethod. Before and after results were compared with Maslow's basic needs and their hierarchical arrangement. The results are summerized as follw. Before a learning of creative dance, most students have had education which is far from making the most of individuality; Maslow said "instrumental learning";. After taking 12 creative dance classes, such students improved in their various ability on creative dance, such as sensitivity, observation, thinking power, imagination, individuality, creativity and body movement. At the same time, they were able to be judged that they recognized the creativity as essential humanness. Consequently, a learning of crative dance is concerned in self-acutualization and growth and then it was inspected that a learning of creative dance can be "peresonality change" as Msalow said.
著者
柴 眞理子 小高 直樹 宇津木 成介 魚住 和晃 萱 のり子 米谷 淳 菊池 雅春
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、舞踊,音楽(ピアノ),書という異なる芸術分野に共通する基本的感情検証と、日・韓・中の異文化間比較によりその基本的感情が文化を超えて共通であることを確かめ,それと同時に,それぞれの芸術や文化に固有な感情表現についても明らかにすることであった。そのために、3つの評価実験を行い、その結果、次のような知見を得た。舞踊・音楽・書(漢字・かな)の3つの分野に共通する感情は「美しい」「きれい」「なめらか」「力強い(強い)」のみであった。3つの分野のうち,舞踊と音楽間では,例えば「楽しい」「悲しい」「こわい」など多くの感情が共通しているのに対し,書は他の2分野と共通する感情が少なく、いわゆる「快・不快」の感情を表現(伝達)しにくい。しかし、かなの書では「悲しみ」の感情は表現(伝達)されており,かなの表現性(表現力)が漢字とは異なる点があることも示唆された。異文化間比較では、各舞踊刺激、音楽刺激を視聴させ、その感情にふさわしい書をマッピングさせるという方法をもちいた。その結果、舞踊の場合のほうが音楽に比べ,「異文化的」な評価が少ない傾向がみられた。また,漢字とかなについては、漢字の方が,「文化差が小さい」ように見える。この点については、かなが我が国に固有の表現媒体であること,したがって舞踊なり音楽なりの感性的印象を評価する場合,漢字を用いるほうが「文化的共通性」を生み出しやすいことが推察される。以上のような知見と同時に、本研究を通して「感性評価の異文化間比較」は,単に,学術的な研究の対象となるばかりではないことを再認した。たとえば日本の芸術作品の海外における評価が日本的な感性による評価と一致するものかどうか,換言すれば,日本において高く評価される芸術的表現が他文化において同一基準で評価されるかどうかという,実際的な場面にも応用が可能であろうと思われる。
著者
柴 眞理子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.124-128, 2005-08-01
被引用文献数
2

現代社会における子ども達(大人にも同じことが言えるだろう)の感情表現の乏しさを象徴的に言うならば「メチャ楽しい-すぐキレル」という両極端にあり,子ども達はその間にある彩り豊かな感情に気づいていないように思われる.人間が本来もっている感情の豊かさを感じず表現できない子どもたちに,舞踊は,身体感覚や身体感情に気づかせ,それらを磨くという機能をもっている.とりわけ,舞踊運動の体感を原点とすることによって,踊る者は,自分の動きの感覚に鋭敏になり,ちょっとした動き方の違いが異なる感情体験をもたらすことを感じ取ることを可能にする.本稿では,筆者の舞踊系運動方法論実習の受講生を対象にした舞踊運動の体感に関する実験に基づいて,舞踊運動の体感の変化のプロセスは,日常気づかない感情体験の場であり,そのことによって自己理解・他者理解がもたらされ,それが豊かなコミュニケーションに繋がっていくことを解説する.
著者
川瀬 新司 大崎 章弘 金子 哲治 三輪 敬之 柴 眞理子 田中 朱美
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.552, pp.21-24, 2008-03-15

リハビリ施設や精神科病院などで機能的な運動支援が行われているが持続性に問題があり,自発的な身体運動を創出する手法が求められている.そこで筆者らがこれまで開発してきた空中に3次元的に描画できる空中描画システムを,ダンスセラピーに活用することを考え,ダンス教室における鏡をイメージし,スクリーン上に使用者の姿と同時に身体の動作軌跡を合成して投影する手法を考案開発した.そして,精神科病院で行われているセラピーの現場において患者に対する効果について検証した結果,本手法が患者の身体運動を引き出す動機付けになるだけでなく,自発的に動いて表現する能動性と描線によって動きが引き出される受動性を循環させる可能性を見出した.