著者
黄 璐
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>2016(平成28)年熊本地震では,震度7を2回記録する地震が発生し,熊本市全地域における住宅は多くの被害を受けた.被災地の生活を再建するに当たり,住宅再建は重要な課題の一つである.そのため,2016年4月以降に発生した熊本地震における地域コミュニティの被害と復興過程について検討してきた.とくに被災地の中,住民主導による速やかに生活が再建できた東無田集落を対象にし,主体間の関係性を着目しながら,復興の主体の関係づくりはいかに震災復興に影響したのかを分析することを目的とする.</p><p> 本報告は,熊本地震による被害の概要を振り返ったうえで,熊本地震の被災地で見られた地域コミュニティが地震直後からどのように生活を再建したのか,また,長期的な復興過程でどのように他の復興主体と関係づくりをしたのかについて検討しながら,地域コミュニティの自主行動にみられる主体性,とりわけ状況に応じて臨機応変にとられた行動について検討した.</p><p> そこで,まず行政,マスメディア,外部支援者など関係当事者が,被災地住民を支援する体制を表現する枠組みとして提起された「減災の四面体モデル」を援用し,この四つの関係当事者を災害復興の主体として主体関係を考察する.また,災害から復旧・復興の過程についての古典的なモデルに基づき,震災復興過程を①生活・住宅再建期,②復興主体形成期,③復興課題解決期3つの期間ごとに分析した.さらに,住民主導型災害復興に着目しながら,各段階の主体行動と関係性から震災復興における主体関係性とその形成要因を明らかにした.</p><p> 対象地域(東無田集落)の被害状況は以下の通りである.①集落全体の住宅被害が顕著し,約7割以上は全半壊を受けた.②集落住民の7割は高齢者であり,自力再建世帯は約60戸であった.③仮設住宅入居数は76戸中192名であった.集落の復旧・復興のために,どのように自発的に取り組んでいるのかとその効果,これらの活動を通して,他の主体との間にどのような関係を構築したのかを明らかにするため,2020と2021年に復興と関わる重要な人物と集落住民に向けた聞き取り調査とアンケート調査を実施した.</p><p> その結果として,東無田集落の復興特徴は以下の3点が挙げられる。①生活再建期(2016年4月-2016年6月):この期間は,独自のボランティアを受け入れた集落住民は外部支援者との双方向関係が構築することができ,ボランティア団体の作業効率化したうえ,集落の住宅解体作業が他地区よりも相対的に早く進んだ.②復興主体形成期(2016年-2017年2月):この時期は,東無田復興委員会の活躍を通じて,集落住民が復興の活動に主体的に取り組み外部から来る人々との交流を通じて主体性を回復させ,復興を自らの問題として取り組む時期である.とくにインターネットの活用,マスメディア団体を依頼と東無田独自の災害スタディーツアーなど積極的な活動を通じて,集落住民・復興組織とマスメディアとの双方向関係を促進できた.このような外部との交流の事業化は,外部へ発信しながら,積極的に行動を起こす住民の存在特に高齢住民の生きがいを発見しながら,集落と外部の関係だけでなく,集落内部関係も緊密に結びつけた.このような関係づくりはその後の復興課題の解決に多大な影響を与えた.③復興の課題解決期(2017年-2019年10月):この時期は,住民を主体としてまちづくり協議会と連動し,復興の目標を実現するための活動時期である.その典型例としては,災害公営住宅の建設問題について,協議会と意識高い住民を中心として展開より意識的課題解決に向けた能動的活動を行い,成果を取得した.さらに,この段階には行政との関係は以前の単一関係から双方向関係へ進化したことも明らかになった。</p><p> 主体性の立場から対象地域の復興過程の全体像を捉えるうえで,主体関係性からみた震災復興過程の地理学視点は次の3点が有効である.第1に,平時からの住民自治によるコミュニティづくりの取組が,住民同士の間,住民と行政または他の主体との信頼関係を築くことに有益である.第2に,地域住民は他の主体間の双方向関係は地域の復興効果を高めていると推測できる。特に本報告の場合,住民と外部支援者・マスメディアと支援したり支援されたり双方向関係の支え合い関係が災害復興に強い地域社会をつくることと繋がっている.また,住民主体的な復興といっても,行政や他の主体の役割も大きい.第3に,住民内部の相互関係づくりが震災復興の前提となり,住民主体の内発的意識と行動を呼び起こす中心人物が重要であることが指摘できる.</p>
著者
鈴木 修斗 黄 璐 張 紅 佐藤 大輔 山下 亜紀郎 呉羽 正昭 堤 純
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.113-128, 2020 (Released:2021-02-28)
参考文献数
6

本稿は,コロナ禍の中において実施された筑波大学大学院におけるフィールドワーク実習(上田巡検)の事例報告である。新型コロナウイルス(COVID-19)の流行下においては,聞き取り調査などの対面接触を伴う実習形式の講義(巡検)の遂行が困難である。そこで筆者らは,感染対策を伴う新たな巡検スタイルの構築を模索・実践した。コロナ禍の中で巡検を実施するにあたり,事前ミーティングや事務連絡はオンライン上で完結させることが可能である。調査時には徹底した感染対策を行うとともに,食事の分散化やゼミのオンライン化によって宿泊場所での感染拡大を防ぐことができる。また,現地調査を円滑に進めるためには,今まで以上に綿密な事前準備が重要である。以上のような対応をとることで,コロナ禍の中においても高い教育効果をもった巡検を遂行することが可能であった。こうした実践の成果は,ウィズコロナの時代におけるフィールドワーク実習の実施に際して,有益な示唆を与える。