著者
張 紅
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.149, 2019 (Released:2019-09-24)

歴史的街並み景観にみられる地域アイデンティティの創出メカニズムCreation mechanism of residents’ regional identity in the historical street landscape張 紅(筑波大・院)Hong ZHANG(Graduate Student of Tsukuba Univ.)キーワード:歴史的街並み景観 地域アイデンティティ 経済性 公共性 社会性Keywords:Historical street landscape, Regional identity, Economic viewpoint, Public viewpoint, Social viewpoint 歴史的街並み景観は,歴史の積み重ねの中で地域住民が取捨選択を繰り返し,作り出してきたものであり,住民の量的/質的な変化に対して敏感に反応する。そのため,現在日本において進行中の少子高齢化は,歴史的街並み景観に対しても大きな影響を及ぼし,それが顕著な中山間地域の歴史的街並み景観は崩壊の危機に瀕している。それが崩壊することは,地域アイデンティティの崩壊を意味する。景観を望ましい形で保全するためには,地域アイデンティティの創出メカニズムを知り,住民に適切な地域アイデンティティを根付かせるような方法を考えていかなければならない。そこで,本研究では,福島県南会津郡に位置する下郷町の大内宿と南会津町前沢を事例にして,地域特性の異なる2つの地区の保全方法を明らかにした上で,そこから生まれる地域アイデンティティを比較することによって,望ましい地域アイデンティティを創出する保全方法を提案することを目的とした。研究方法は,両地区の住民と行政側に景観保全の経緯や現状などを聞き取り調査し,これらに基づいて地域アイデンティティを決定する因子を抽出し,相互に比較を行い分析した。 大内宿は宿場町で,地区を南北に走る会津西街道の両側に茅葺きの寄棟造の住居が軒を連ね,全戸の妻壁が街道に面するというような景観を呈している。前沢は山村集落で,茅葺きの曲家が集まっている。冬の北風が強くて,そのほとんどが南東向きである。 この2つの地区では3種類の地域アイデンティティが創出されている。大内宿は,観光地化から生まれる経済効果を追求し,活気のある街並みを形成,維持することによって,「生活できる」という実感から経済的な地域アイデンティティが創出され,街並み景観を保全している。しかし,一部の景観が犠牲になり,「形だけの街並み」になりかねないという問題点もある。また,重伝建地区の意味が見失われ,地域アイデンティティの本質も見失われやすい。これに対して前沢は,住民の意見を尊重し,景観保全に重点を置き,急激な観光開発を行わなかったため,経済性に基づく地域アイデンティティが低いまま推移してきた。けれども,このように行政が住民を巻き込み,政策を実施する中で公共的な地域アイデンティティが誘導され,街並み景観が保全される。公共性による地域アイデンティティは最も有力であるが,住民意識の高揚が課題となる。政策提言の出発点への妥協や,担当者の交代による政策実施の不徹底が住民の不公平感を招き,反発が起きる恐れがある。最後に,共有意識や地区への憂慮などによって住民主体に社会的な地域アイデンティティが育まれ,街並み景観が保全されていくといえる。これには,コミュニティ内の中心的人物による牽引,または住民個々人の自覚が必要である。このような社会性に基づく保全の効果は経済性に基づく保全より強いが,少子高齢化の背景があり,現状では社会性だけに頼ることは難しい。 結論として,地域特性や歴史的経緯が異なる大内宿,前沢では,それぞれに地域アイデンティティの創出に作用する因子(経済性・公共性・社会性)のバランスが異なるため,結果的に現地で感じる住民のアイデンティティには大きな差異が生じていると考えられる。経済性・公共性・社会性によって創出される地域アイデンティティは,それぞれ独立したものではなく,相互に関連がある。社会性による地域アイデンティティの創出が望ましいが,その主体である住民の継続的な関与が難しい状況にある中では,生活が確保されなければ(経済性),行政による誘導(公共性)を進めていくことはできない。3つのうちどれか1つに頼らずに,それぞれのメリットを最大限に発揮し,デメリットを抑え,行政と住民が一体となって複合的な対策を取ることで,当該地域の特性に合わせた地域アイデンティティが創出され,歴史的街並み景観を望ましい形で継続的に保全することができると考えられる。
著者
金子 洋子 楊川 堯基 林 苑子 張 紅 塚原 知樹 松永 恒明 多留 賀功 石津 隆 小林 正貴 野口 雅之
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.5, pp.999-1006, 2019-05-10 (Released:2020-05-10)
参考文献数
6

53歳,男性.浮腫にて受診.蛋白尿,心肥大,四肢疼痛ならびに腎不全を認め,αガラクトシダーゼA(α-galactosidase A:GLA)酵素活性の低下,腎生検にて糸球体上皮細胞内に高電子密度物質の沈着,責任遺伝子変異を認め,Fabry病と診断した.末期腎不全のため透析導入し,酵素補充療法(enzyme replacement therapy:ERT)を開始したが,心肥大は進行し,心不全のため死亡した.病理解剖にて多臓器に高電子密度沈着物を認めた.近親者3症例にERTを継続している.本疾患は,早期に診断し加療介入することが重要である.
著者
鈴木 修斗 黄 璐 張 紅 佐藤 大輔 山下 亜紀郎 呉羽 正昭 堤 純
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.113-128, 2020 (Released:2021-02-28)
参考文献数
6

本稿は,コロナ禍の中において実施された筑波大学大学院におけるフィールドワーク実習(上田巡検)の事例報告である。新型コロナウイルス(COVID-19)の流行下においては,聞き取り調査などの対面接触を伴う実習形式の講義(巡検)の遂行が困難である。そこで筆者らは,感染対策を伴う新たな巡検スタイルの構築を模索・実践した。コロナ禍の中で巡検を実施するにあたり,事前ミーティングや事務連絡はオンライン上で完結させることが可能である。調査時には徹底した感染対策を行うとともに,食事の分散化やゼミのオンライン化によって宿泊場所での感染拡大を防ぐことができる。また,現地調査を円滑に進めるためには,今まで以上に綿密な事前準備が重要である。以上のような対応をとることで,コロナ禍の中においても高い教育効果をもった巡検を遂行することが可能であった。こうした実践の成果は,ウィズコロナの時代におけるフィールドワーク実習の実施に際して,有益な示唆を与える。