著者
黒崎 直子
出版者
千葉工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、血液中にあるエイズウイルス(HIV-1)が宿主であるヒトの死後、どの程度の期間感染力を有しているのかを検証し、また血液の死後変化(変性や腐敗)がその感染力の維持にどのように影響するのかを明らかにすることである。本年度は、温度条件や保存期間を複数のパターンに設定してHIV感染者の血液を保存し、溶血や変性を起こした血液中において、ウイルス感染が可能であるかについて検証した。具体的には、3種類の温度条件下(4℃,室温(22℃〜23℃),37℃)で保存したエイズウイルス感染血液中のウイルスタンパク質(HIV-1_<gag>p24)を経時的に定量した。その結果、室温保存の血中のウイルスタンパク質量は20日間増加しなかったが、37℃で保存した血中では1日目で一度増加するが、その後減少した。しかし、4℃で保存した血中では15日間に渡ってウイルスタンパク質量が増加し、その後20日目で減少した。つぎにウイルス感染血液を新鮮血液(ウイルス非感染血液)と接触(共培養)させて、新鮮血液にウイルスを感染させる二次感染モデルを作成し、保存血液からも二次感染が成立するか検討した。その結果、3種類の温度条件下で感染9日目までウイルスRNAが検出された。4℃で保存したウイルス感染血液は13日目でもウイルスRNAが検出された。以上のことから、ウイルス感染血液は複数の温度条件で保存された場合でも、感染能力を維持されることを示唆している。血液検体に存在するウイルス量により、本研究で行った保存期間より長期間感染能力を維持していることが考えられるので、司法解剖などの死後日数の経過した死体を解剖する際にもウイルス感染の危険性を十分注意する必要があると考えられる。
著者
黒崎 直 岩本 正二
出版者
奈良国立文化財研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1.宮殿・宮衛遺跡や寺院跡の発掘調査で確認できる「造営尺」には、高麗尺(1尺=約35.6cm)と唐尺(1尺=約29.8cm)がある。前者は飛鳥寺や法隆寺の造営に使われ、後者は7世紀中ごろの前期難波宮の造営に使われている。高麗尺は後に「大尺」、唐尺は「小尺」と整理され、「大尺」は主として「測地尺」として使われている。藤原・平城京の条坊は、この「大尺」による。ただし7世紀前半に、再び「尺」の整理が行なわれ、地割り・建築遺構とも、1尺=約29.8cmが基準となっていく。2.出土品としての「物差」は、平城宮跡出土のそれは1寸が2.95cm、平安京跡では5寸が15.3cmで、1尺に換算するとそれぞれ29.5と30.6cmとなる。時代が下がるほど、基準尺が伸びる傾向がここでも裏ずけられる。3.木製容器(主として曲げ物)や土器から当時の基準の容量を復原しようとした。曲げ物の場合、直径15cm前後、高さ6cmのものが主流であることが判明したが、これをもって、基準容量とすることはできない。「令制」にみえる銅製升の実物が発掘調査で発見されることを期待したい。4.鉄製釘の寸法と重量を計測して、「鉄」についての実際の重量を考察し、あわせて鉄釘の名称を復原した。この作業に関連して、『延喜木工寮式』にみえる「打合釘・平釘」の鉄使用料の記載に齟齬を認めた。5.なお、重量復原の手がかりとして、「分銅」や「おもり」が出土しているが、最近平城京跡で発掘された「分銅型銅製品」は重さ329gで、ほぼ8両=半両に相当する。貴重な考古資料として注目できる。