著者
黒川 勲
出版者
大分大学大学院福祉社会科学研究科
雑誌
紀要 (ISSN:21859574)
巻号頁・発行日
no.8, pp.17-28, 2007

スピノザ哲学において、人間の自由は至福としての神への知的愛によって獲得されるものである。そして、この神への知的愛は「第三種の認識」あるいは「直観知」と呼ばれる認識において実現する。本稿では、この第三種の認識特徴として「起源性」、「個別性」および「直観性」を取り上げ、それらの意義の解明を試みる。そのために、『エチカ』の読解を通して、特にスピノザにおける精神の永遠性とコナトゥスの概念に注目して考察を行なう。###スピノザにおける第三種の認識は、神の自己認識であるとともに人間の自己意識を意味している。神および人間は第三種の認識において、個別的な自己自身を直接に、起源としての神から、神の能力あるいはその現象であるコナトゥスを認識しているのである。###In this paper I tried to understand Spinoza's concept of the third kind of knowledge. For this purpose I regarded the investigation into signification of three properties of the third kind of knowledge, and they are immediateness, individuality and ground of the truth. In order to solve this problem, I would consider propositions concerning the third kind of knowledge in his Ethica. And I would examine Spinoza's thoughts of conatus and the eternity of the mind. In Spinoza's philosophy, the third kind of knowledge signifies self-knowledge of God and human mind. Through their self-knowledge, each of God and human mind recognizes immediately individual themselves in the identical potency of God
著者
黒川 勲
出版者
大分大学大学院福祉社会科学研究科
雑誌
紀要 (ISSN:21859574)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-11, 2008

スピノザ哲学の目的は、感情を知性認識することで改善をはかり、至福としての神への知的愛に至ることである。そして、その改善されるべき感情は想像力によって生成するものである。本稿では、感情の生成を担う想像力の特徴を明らかにすることを目的とし、特に想像力と身体との関係に注目して考察を試みる。### スピノザにおける想像力は、まさにその身体性に特徴がある。身体の複雑性と多様な変容性の故に、想像力は非十全な認識と位置づけられるが、同時に想像力が身体に起因する故に、経験的世界において認識の現在性と総合的な自己認識が可能となるのである。###In this paper I would try to understand of properties of "imaginatio" or imagination in Spinoza's philosophy. For the purpose I would consider"idea of affection of the body" that signifies imagination.###According to Spinoza, mind is idea of the body. The body has the complicated structure in itself and is variously affected by outside objects. Such idea of the body is idea of affection of the body and has complexity and variety in itself. Namely, imagination as idea of affection of the body shows the inadequate knowledge, because human mind cannot recognize all the complexity and variety. On the other hand, the actuality of knowledge and the possibility of self-knowledge are based on imagination, even if knowledge of imagination is inadequate.
著者
黒川 勲
出版者
大分大学教育福祉科学部
雑誌
大分大学教育福祉科学部研究紀要 (ISSN:13450875)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.109-120, 2013-10

スピノザ『エチカ』第二部定理8は「存在しない個物」について論じている。本稿では,この定理8の『エチカ』第二部における意義及び「存在しない個物の本質」の特性の解明を試みる。『エチカ』第二部全体の主題は人間精神の存在論と認識論の確立である。この第二部において,「存在しない個物」に関する定理は,人間精神の存在論と認識論の原理である物心の並行論の具体的展開を担うものと考えることができる。また,「存在しない個物の本質」の特性は,神の属性に内在する現実的な潜在性を示していると見なすことができるのである。In this paper I tried to understand the signification of the proposition (E.2.P.8) of non-existing singular things and the properties of them in Spinoza's philosophy. For this purpose I investigated into Spinoza's arguments of the nature and origin of human mind in his Ethica pars 2. According to Spinoza, the parallelism between the mental and physical realms is the most important theory in his epistemology and ontology of human mind. The proposition (E.2.P.8) plays a part to give###shape to the parallelism. And the formal essence of non-existing singular things has the reality and is considered as the actual latency in attribute of God.
著者
黒川 勲
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

交付申請書の「研究の目的・研究計画」に対応した研究実績の概要は以下の通りである。1.ホッブスの物体論とスピノザのコナトゥス論との比較を通して,コナトゥスに関してホッブスがもっぱら位置の移動としての運動の意義を見いだすのに対して,スピノザはものの本質として包括的・有機的に運動を説明する方向性が見いだせる。2.デカルトの物体的世界とスピノザの物体的世界の構成に関する比較を通して,デカルトの物体論は物体の本質を不完全性のもとに位置づける伝統的な把握であるが,スピノザの物体論は延長に無限性・完全性を認める特徴的なものであることが明らかになった。3.スピノザのコナトゥス論の中世哲学との連関の検証については,関連する文献・先行研究の資料収集に努めるとともに,『Suarez Opera Omnia』の物体論・運動論及びヘールボールド『Meletemata philosophica』の著作における「原因性」・「実体性」に関する該当箇所の翻訳を試みた。4.スピノザのコナトゥス論及び物体的世界の構成に基づき,スピノザ哲学の頂点である「最高善」・「第三種の認識」について検証を行った。すなわち,最高善とは「コナトゥスの自覚化」において見いだされるものであり,第三種の認識は人間存在全体の統合的本質である「コナトゥスの認識」に他ならないのことが明らかになった。
著者
黒川 勲
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

交付申請書の「研究の目的・研究計画」に対応した研究実績の概要は以下の通りである。1.ホッブスの物体論とスピノザの物体論との比較,及びコナトゥスの意義の抽出については,ホッブスの物体論の精査と文献・先行研究の資料収集に努め,一方スピノザ哲学の成立史に関係する文献・先行研究を網羅的に収集した。コナトゥスに関してホッブスがもっぱら位置の移動としての運動の意義を見いだすのに対して,スピノザはものの本質として包括的・有機的に運動を説明する方向性が見いだせる。2.デカルトの物体的世界とスピノザの物体的世界の構成に関する比較,及びコナトゥスの位置付けについては,その結果,デカルトの物体論は物体の本質を不完全性のもとに位置づける伝統的な把握であるが,スピノザの物体論は延長に無限性・実体性を認める特徴的なものであることが明らかになった。3.スピノザの物体論の中世哲学との連関の検証については,関連する文献・先行研究の資料収集に努めるとともに,スアレス『Disputationes Metaphysicae』及びヘールボールド『Meletemata philosophica』の著作における「完全性」・「無限性」の該当箇所の翻訳を行った。4.スピノザの物体論の核心は,無限性を中心とする特徴的な神理解にあり,その根幹は実体性であることが明らかになった。
著者
黒川 勲
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究においては,スピノザの自然哲学の全体像に注目し,西洋哲学・科学の歴史的な背景を視野に入れて,スピノザのコナトゥス論の意義の解明を目指す。研究成果として,スピノザの哲学はコナトゥスの現象,力の現象の哲学であり,認識論的・倫理学的にコナトゥスは「現実性」の基盤であることが明らかとなった。また,スピノザの哲学体系・自然哲学おいて,スピノザの方法論の内的・反省的特徴を示しえた。