著者
齊藤 奈英 板倉 誠 田井中 一貴 Tom Macpherson 疋田 貴俊 山口 瞬 佐藤 朝子 大久保 直 知見 聡美 南部 篤 笹岡 俊邦
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.100-105, 2022 (Released:2022-09-25)
参考文献数
32

ドーパミン(DA)作動性神経伝達は,運動制御,認知,動機付け,学習記憶など広範な役割を持つ。DAは大脳基底核回路において,D1受容体(D1R)を介して直接路を活性化し,D2受容体(D2R)を介して間接路を抑制する。さらに詳細にD1RおよびD2Rを介したDA作動性神経伝達を理解するため,筆者らは,D1R発現を薬物投与により可逆的に制御できるコンディショナルD1Rノックダウン(D1RcKD)マウスを作製した。このマウスを用いることにより,D1Rを介する神経伝達が,大脳基底核回路の直接路の情報の流れを維持し,運動を促進することを明らかにした。また,D1Rを介したDA伝達が少なくとも部分的に大脳皮質ネットワーク内の神経活動を増加させて嫌悪記憶形成を促進することを明らかにした。本稿では筆者らのこれまでの取り組みも交えD1RcKDマウスを用いた運動制御と嫌悪記憶形成に関する研究を中心に紹介する。
著者
齊藤 奈英 多田 幸雄 岡部 隆義 長野 哲雄
出版者
情報計算化学生物学会
雑誌
Chem-Bio Informatics Journal (ISSN:13476297)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.34-37, 2017-04-08 (Released:2017-04-08)
参考文献数
11

偽性低アルドステロンII型は、常染色体優性遺伝疾患であり非常に稀な家族性高血圧症である。これは、WNK1 [with no K (lysine) protein kinase-1]あるいはWNK4の機能亢進に起因するとされている。これらのWNKは、多くのキナーゼに存在するβ3 strandのリジン残基がシステインに置き換わっており、また、ATP結合サイトのすぐ後ろにバックポケットがあるという特徴的な構造をしている。したがって、この特徴的なバックポケット及び活性に重要な役割を果たしていることも知られているグリシンリッチループにあるリジン残基(WNK1のLys233)と相互作用する化合物は、WNK1及びWNK4の選択的阻害剤であることが予測される。本研究では、フラグメントライブラリー化合物及び競合結合アッセイを用いて、ヒンジ領域ではなく、バックポケットと選択的に相互作用する化合物を選択した。得られた化合物は、1,3-イソキノリンジオールと4-メチル1,3-イソキノリンジオールであった。これらの化合物にプロトンドナーとなる置換基を導入すると、Leu369 (WNK1) に水素結合し、WNK1及びWNK4に対する選択的な阻害剤を得るためのシード化合物となると予想される。
著者
齊藤 奈英 多田 幸雄 岡部 隆義 長野 哲雄
出版者
情報計算化学生物学会
雑誌
Chem-Bio Informatics Journal (ISSN:13476297)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.30-33, 2017-03-30 (Released:2017-03-30)
参考文献数
9

偽性低アルドステロンII型は、WNK1 [with no K (lysine) protein kinase-1]あるいはWNK4に起因する非常に稀な常染色体優性遺伝疾患として知られている。これらのセリン-スレオニンキナーゼは、ATP結合サイトのすぐ後ろにバックポケットがあるという特徴的な構造をしている。さらに、グリシンリッチループにあるリジン残基(WNK1のLys233)は、活性に重要な役割を果たしていることも知られている。本研究において、我々は、WNK特異的阻害剤を創成するためのリード候補化合物を探索するため、WNK1のバックポケットと約9000化合物のフラグメントライブラリーとのドッキングシミュレーションを実施した。我々は、結合スコアに基づいてバックポケットと相互作用してヒンジ領域とは相互作用しないリード構造として、β-テトラロン(化合物5)を選択した。次に、バックポケットとβ-テトラロンとの予測できる4つのドッキングパターンに基づいて、Lys233と水素結合を形成することが予測される4つの誘導体化合物A-Dをデザインした。これらの誘導体化合物は、ドッキングシミュレーションにおいてLys233と選択的に相互作用することが示され、選択的なWNK阻害剤を開発するための潜在的リード化合物であると考えられる。