著者
大里 俊晴 木下 長宏 BERNDT Jaqueline 榑沼 範久 大里 俊晴
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1 大里俊晴 全ての抑圧に抗して -コレット・マニーその生涯と芸術-フランスの女性作詞家-作曲家-歌手である、コレット・マニー(1926-1997)の作品を、年代を追って分祈することで、その特異性、重要性を浮き彫りにする。彼女は、キューバ革命、ベトナム戦争、パリの5月革命、チリ・クーデターなど、世界的な政治的抑圧に対して鋭く反応し、左翼的意見を表明した歌詞と、前衛的手法を大胆に導入した音楽で、抵抗の声を上げた。2 ジャクリーヌ・ベルント 大戦下の美術-芸術論への挑発 2006年のアルノ・ブレーカー展覧会を中心に-2006年にドイツで開催されたアルノ・ブレーカー(1900-1901)の回顧展やその人気を例に、1940年前後ファシズム系国策下で生み出された芸術をめぐる言説を追究する。その美術を「真正」や「自律」から問うよりも、鑑賞者が抱く期待の地平に加え作品の流通やそこでのメディアの役割といった関係性に焦点を当てる方が今日的芸術論に相応しいことを示す。具体的には、ブレーカー作品の「古典美」や、それを活かす広告写真に近い撮影を考察する。3 榑沼範久 快感原則の彼岸 -感覚/知覚の戦場-主として、アメリカの知覚心理学者ジェームズ・ギブソン(James J.Gibson)が第二次世界大戦期に陸軍航空軍(U.S.Army Air Force)で行っていた知覚研究・映画研究を、第一次世界大戦と第二次世界大戦における人間の感覚/知覚の歴史のなかに位置づける。この作業から抽出されるのは、二十世紀の二つの世界戦争があらわにした二つの「快感原則の彼岸」である。そして、この「快感原則の彼岸」に幾つかの芸術・芸術論も吸引されていくのを見るだろう。
著者
BERNDT JAQUELINE GUDRUN GRAWE 野口 メアリ 仲間 裕子 山根 宏 山下 高行
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、他文化的視角を自文化的視角と結び付け、美学から社会学に至るまでの研究分野を考慮しながら、キッチュというキーワードのもとに「かわいい」現象に接近した。西洋近代に起因する否定的概念である「キッチュ」が日本では一般的にあまり定着していないという状態が、近代・現代日本における美的文化の特殊性に注目を向けさせた。それは、近代的制度として自律する芸術だけでなく、日本文化内の自己像や他者像に使われる日常的表象とその文脈をなしている社会的価値体系としても取り上げられた。具体的研究対象となったのは、意識調査や女性雑誌の分析に基づいた「可愛らしさ」と「女性らしさ」との関係の追求、西洋語と中国語と日本語の比較による語源や現代的言葉遣いについての考察、大衆文化的表現や美術における「可愛らしさ」の分析、マーケティングにおける「かわいい」戦略の検討、近代日本特有の文化的アポリアの取り扱いについての論証などである。その際、「キッチュ」も「かわいい」も物事の性質を指す概念としてではなく、むしろ関係概念として用い、キッッチュ」あるいは「かわいい」とは何かというよりも、それが近代・現代日本文化において如何なる役割を果しているかの方に重点を置いた。本研究では「かわいい」を特定の年代や特定の時代に限定することに異議を唱え、日本文化における中心的価値観の一つとして取り上げた。弱者の美学でもある「かわいい」現象は、分裂状態を「中立化」させる閉じられた共同体の特質に起因し、自分のアイデンティティとして「女性性」を重視する日本文化と根底において合体することが明らかにされた。さらに「かわいい」から「キッチュ」へと向いつつある女子・女性雑誌を手がかりに、「キッチュ」がその歴史性を奪われた形で通用するようになっていることが示される一方、「キッチュ」という用語の肯定的用法が近年の現象でははく、訳語として導入されて以来肯定的な言葉であったということが指摘される。