著者
市井 吉興 山下 高行
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.55-72, 2011-03-20 (Released:2016-09-13)
参考文献数
36

本稿では、日本のマルクス主義のスポーツ研究の特徴を明らかにすることを試みる。この目的のため Carrington and McDonald により編集された近年のマルクス主義のスポーツ研究を分析した著作をとおし、英語圏のマルクス主義のスポーツ研究の推移を明らかにし、日本のマルクス主義のスポーツ研究と比較する。また日本のマルクス主義のスポーツ研究史を簡単に要約する。 私たちが結論とするのは、第一に、日本のマルクス主義のスポーツ研究は、実践的な観点から日本の資本主義社会で克服する必要のあるものとして、より多くスポーツそのものの課題に焦点を当てているように思える。第二に、スポーツに関して、たとえば日本共産党のような左翼政党とともに取り組むスポーツ運動が少なからず存在し続けていたことにある。初期において、それらはプロレタリア・スポーツ運動として始まったこと。そして、それらの諸運動は、日本のマルクス主義研究に影響を与え、アカデミックな研究においてさえ、その重要な背景の役割を果たしたことである。すなわち、そのことは日本のマルクス主義研究に実践的な性格を付与し、結果として、マルクス主義は他のスポーツ組織や学問と首尾よく共同することができたことである。 私たちは、変化する社会の中で現在のマルクス主義が、実践的レベルでも理論的レベルでも、直面している困難な課題に対して示唆することとしたい。
著者
遠藤 保子 八村 広三郎 仲間 裕子 山下 高行 崔 雄 古川 耕平 松田 凡 高橋 京子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

舞踊人類学やアフリカの舞踊に関する研究動向を概観し、舞踊の最新の記録法としてモーションキャプチャを利用したデジタル記録を指摘した。アフリカで人類学的なフィールドワークを行いつつ、モーションキャプチャしたデジタルデータからアフリカの舞踊の特徴(多中心的な動作や性差による相違点等)を考察した。アフリカの舞踊の教材化について論じ、小学校高学年を対象にした開発教育のための教材(DVD、指導計画)を制作した。
著者
BERNDT JAQUELINE GUDRUN GRAWE 野口 メアリ 仲間 裕子 山根 宏 山下 高行
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、他文化的視角を自文化的視角と結び付け、美学から社会学に至るまでの研究分野を考慮しながら、キッチュというキーワードのもとに「かわいい」現象に接近した。西洋近代に起因する否定的概念である「キッチュ」が日本では一般的にあまり定着していないという状態が、近代・現代日本における美的文化の特殊性に注目を向けさせた。それは、近代的制度として自律する芸術だけでなく、日本文化内の自己像や他者像に使われる日常的表象とその文脈をなしている社会的価値体系としても取り上げられた。具体的研究対象となったのは、意識調査や女性雑誌の分析に基づいた「可愛らしさ」と「女性らしさ」との関係の追求、西洋語と中国語と日本語の比較による語源や現代的言葉遣いについての考察、大衆文化的表現や美術における「可愛らしさ」の分析、マーケティングにおける「かわいい」戦略の検討、近代日本特有の文化的アポリアの取り扱いについての論証などである。その際、「キッチュ」も「かわいい」も物事の性質を指す概念としてではなく、むしろ関係概念として用い、キッッチュ」あるいは「かわいい」とは何かというよりも、それが近代・現代日本文化において如何なる役割を果しているかの方に重点を置いた。本研究では「かわいい」を特定の年代や特定の時代に限定することに異議を唱え、日本文化における中心的価値観の一つとして取り上げた。弱者の美学でもある「かわいい」現象は、分裂状態を「中立化」させる閉じられた共同体の特質に起因し、自分のアイデンティティとして「女性性」を重視する日本文化と根底において合体することが明らかにされた。さらに「かわいい」から「キッチュ」へと向いつつある女子・女性雑誌を手がかりに、「キッチュ」がその歴史性を奪われた形で通用するようになっていることが示される一方、「キッチュ」という用語の肯定的用法が近年の現象でははく、訳語として導入されて以来肯定的な言葉であったということが指摘される。