著者
末延 岑生 Mineo SUENOBU
出版者
神戸芸術工科大学
雑誌
芸術工学2012
巻号頁・発行日
2012-11-30

本稿では「ニホン英語(Open Japanese― OJ)」の形態論上の類型化を試みた。ニホン英語はこの一世紀の間に、日本人の手で従来の英米英語を日本文化・母語と照合させ、自由に取捨選択し変形しながら、現在ほぼすべての日本人が、好むと好まざるに拘らず使っている英語である。今回の類型化分析の過程から得られたニホン英語の特徴、アジア英語の特徴とは次の5つである。(1)母語(踏襲)化によって英語の中に母語の伝統を復活させ、個性化することでニホン英語に誇りを持たせた。(2)英米英語を拡大解釈化することでことばの規制を緩和し、使いやすくした。(3)簡素化で無駄な飾りを取り払い、すっきりしたデザインにした。(4)置き換え化でより理解を明快にした。(5)入念化で英語がより丁寧・親切化され、英語をよりユニバーサル・デザインに近づける言語へと磨き上げてきた。ところが日本の英語教育界は「ニホン英語」を「誤文」とみなし、完璧なアメリカ英語以外を認めない。しかし、本稿で分析した誤文1,413文のうち、1,279の文(94.7%)が冠詞やsといった些細な規範文法のズレであり、推理すれば意味が取れることが判明した。これは筆者がすでに「ニホン英語は78%以上の高率で理解される」ことを実証した(Suenobu 1988)が、それを超える確率となった。
著者
末延 岑生 Mineo SUENOBU
出版者
神戸芸術工科大学
雑誌
芸術工学2011
巻号頁・発行日
2011-11-30

人間は本来、親から自然にことばを教わる。母語の学習に失敗した人がほとんどいないのは、ことばは猿人から人類に至る歴史の中で醸造され培われてきたもので、遺伝子の一部として生まれつきその能力がそなわっており、親がそれをうまく引き出しているからだ。だから環境に合わせてデザインすれば、外国語であっても必ずできる。たとえば、奈良時代に中国大陸から入ってきた複雑な漢字文字は、平安時代の人々がうまく日本語に溶け込ませながら、思い切ったシンプルなデザインとして「ひらかな」「カタカナ」を生みだした。この便利さは今も本場の中国人たちをも羨ませる。では日本の英語教育はどうか。歴史ある日本文化と日本語を土台としながら工夫しデザインすれば、誰でもある程度はできるというのに、逆に多くの学習者たちの英語離れを生んできた。その原因は何か。本論文はこのような英語教育の状況を「世界諸英語」という視点から、さらに学生とともに授業現場の中でつぶさに分析した上で、日本人の母語である日本語と英語の接点を探りつつ、日本人にやさしい、世界に開かれた第二の母語としての日本語、すなわちOpen Japanese をデザインしようと試みるものである。