著者
丸橋 珠樹 NILPAUNG Warayut 濱田 穣 MALAIVIJITNONG Suchinda
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.25, pp.46, 2009

ベニガオザルの採食生態を半野生群で現地調査した。調査地は,Khao Krapuk Khao Taomo保護区で,東経99度44分,北緯12度48分に位置している。現地調査は,2007年12月5日から2008年2月10日までの乾季の盛りに66日間実施した。<br> Ting群を対象として個体追跡を行った。この群れは人に対して警戒心が低く約2週間で観察者に慣れて,森林内でも追跡できるようになった。ただし,森林の一部は植生が非常に密生していて個体追跡するのが困難な場所が繰り返し出現するので,連続する個体追跡時間はさほど長くはなかった。<br> 食物は以下の4タイプに分類できる。(1)寺で出される食事の残りと道路沿いでの人からの餌,(2)バナナ,マンゴー,サトウキビなどの栽培果実,(3)二次林構成種である木本やつる植物,(4)昆虫,クモ,カタツムリなどの動物質。果実や種子食が主体であり,葉食は量的にも少なかった。<br> 2ヶ月あまりの調査期間に,二次林での果実の結実に応じて,群れは次々に食物を変化させていた。調査初期の最重要食物は<i>Zizyphus oenoplia</i> (L.) Mill. (Rhamnaceae)で,二次林の林縁に多数分布していた。調査期間の後半には<i>Leucaena leuccocephala</i> (Lam.) de Wit (Leguminosae-Mimosoideae)が長期間利用された。この豆は家畜を放牧する草原の周辺や道路沿い,あるいは農家周りなどに多数みられ,大きな群落をつくっていた。本種では,若い未熟果実も,完熟した硬い豆も利用され,長期間に渡って若葉を利用していた。分布密度は低いが訪れると多量に食べる食物種としては,大木となる<i>Ficus</i> sp.と<i>Manilkara hexandra</i> (Roxb.) Dubard (Sapotaceae)であり,この木を求めて遊動することも見られた。
著者
丸橋 珠樹 岡崎 祥子 小川 秀司 Nilpaung Warayut 浜田 穣 Malaivijitnond Suchinda
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

2007年12月5日から2008年2月10日までの乾季66日間、158時間の観察時間のデータから、樹上活動時間割合は3%で、ほとんどすべての時間を地上で過ごし、移動は地上移動である。採食部位別時間構成は、果実50%、葉25%、種子24%である。昆虫食は頻繁にみられる。なお、石をひっくり返してカタツムリを採食しようとする行動がみられるが、実際に採食したのは観察158時間で4回に過ぎなかった。また、カエル(未同定)採食も1度観察され、内臓の一部を食べて遺棄した。<br> このような採食生態をもっているベニガオザルの、ウサギの捕獲、肉食が観察された。ウサギ捕食あるいは試みの3例の事例を報告する。2008年1月9日に、何か振り回して捨てていった所に近づいたところ、背中の皮を剥がれたウサギが残され、ウサギは飛び跳ねて森へ逃げていった(丸橋)。2011年10月14日、5歳雄のウサギ捕獲・肉食のVIDEO撮影に成功した(岡崎)。また、2011年12月29日にオトナ雌のウサギ肉食が観察され短時間のVIDEO撮影に成功した(小川)。<br> ベニガオザルのウサギ肉食行動観察の特徴として以下の点を指摘できる。1)肉食対象種はビルマノウサギ (<i>Lepus peguensis</i>) Blyth. 1855 (from Mammals of Thailand) である。2)ウサギが生きている状態で肉食が始まり、つまり捕獲し、その時点でウサギは断末魔の悲鳴を上げていた。3)ウサギの大部分、内臓も含めて消費され、観察時間内では、毛皮は食べられなかった。4)捕獲した個体がだけが継続して、移動しながら肉食し、最低7分半は継続していた。5)他個体の近接や近接個体の追随は見られるが、他の優位個体による奪取や残渣の拾い食いなどは見られなかった。議論では、同じ程度の大きさであるロリスとベニガオザルとの異種間行動についても報告し、反撃を行うロリス<i>Nycticebus coucang</i> (from Mammals of Thailand) では捕食にいたらなかった事例観察(丸橋)との比較を行う。<br> ベニガオザルにとって、ウサギ肉食行動は頻度が低い行動であると考えられ、群のなかで肉食経験のある個体は少なく、食物としての共有認識は低いと考えられ、その影響は個体間での競争や追随はほとんどみられなかったことにも現れている。