著者
岩本 光雄 渡辺 毅 浜田 穣
出版者
Primate Society of Japan
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.18-28, 1987 (Released:2009-09-07)
参考文献数
20
被引用文献数
35 36

A total of 406 observations on dental eruption was obtained from 343 Japanese monkeys (Macaca fuscata) of known birthdays (Table 1).The order of the beginning of eruption was estimated as (M1, M1), (I1, I1), (I2, I2), (M2, M2), (PPPP), (C, , C'), (M3, M3) for male and (M1, M1), (I1, I1), (I2, I2), (M2, M2), (C, , P3, P3, C', P4, P4), (M3, M3) for female.Among 406 observations, 270 were used for statistics of the eruption age, because the remaining 136 which were obtained from monkeys of Shiga and Koshima show a fair degree of delay in the eruption age as a whole. The statistical results were shown in Tables 2 and 3, and a norm of the eruption age as a tentative interpretation was given in Table 4 with a footnote concerning the delay of eruption in monkeys of Shiga and Koshima. Interpretation of the delay in these monkeys is difficult, though the delay in monkeys of Koshima may be related to the general delay of their growth which has been caused by their isolation on a small islet.From the comparison of the present results and related reports on macaques (Table 5), it is apparent that among four species, M. fascicularis, M. mulatta, M. nemestrina and M. fuscata, the eruption is comparatively late in M. fuscata for most teeth, and it is generally earlier in female than male for every tooth except for M3 which erupts at similar age in both sexes or earlier in male than female especially in M. mulatta. Sexual difference in the eruption age of C, and possibly of P3, is relatively small in M. fascicularis and large in M. nemestrina. It seems that these interspecific differences are more or less related to those in body size and canine size.
著者
丸橋 珠樹 岡崎 祥子 小川 秀司 Nilpaung Warayut 浜田 穣 Malaivijitnond Suchinda
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

2007年12月5日から2008年2月10日までの乾季66日間、158時間の観察時間のデータから、樹上活動時間割合は3%で、ほとんどすべての時間を地上で過ごし、移動は地上移動である。採食部位別時間構成は、果実50%、葉25%、種子24%である。昆虫食は頻繁にみられる。なお、石をひっくり返してカタツムリを採食しようとする行動がみられるが、実際に採食したのは観察158時間で4回に過ぎなかった。また、カエル(未同定)採食も1度観察され、内臓の一部を食べて遺棄した。<br> このような採食生態をもっているベニガオザルの、ウサギの捕獲、肉食が観察された。ウサギ捕食あるいは試みの3例の事例を報告する。2008年1月9日に、何か振り回して捨てていった所に近づいたところ、背中の皮を剥がれたウサギが残され、ウサギは飛び跳ねて森へ逃げていった(丸橋)。2011年10月14日、5歳雄のウサギ捕獲・肉食のVIDEO撮影に成功した(岡崎)。また、2011年12月29日にオトナ雌のウサギ肉食が観察され短時間のVIDEO撮影に成功した(小川)。<br> ベニガオザルのウサギ肉食行動観察の特徴として以下の点を指摘できる。1)肉食対象種はビルマノウサギ (<i>Lepus peguensis</i>) Blyth. 1855 (from Mammals of Thailand) である。2)ウサギが生きている状態で肉食が始まり、つまり捕獲し、その時点でウサギは断末魔の悲鳴を上げていた。3)ウサギの大部分、内臓も含めて消費され、観察時間内では、毛皮は食べられなかった。4)捕獲した個体がだけが継続して、移動しながら肉食し、最低7分半は継続していた。5)他個体の近接や近接個体の追随は見られるが、他の優位個体による奪取や残渣の拾い食いなどは見られなかった。議論では、同じ程度の大きさであるロリスとベニガオザルとの異種間行動についても報告し、反撃を行うロリス<i>Nycticebus coucang</i> (from Mammals of Thailand) では捕食にいたらなかった事例観察(丸橋)との比較を行う。<br> ベニガオザルにとって、ウサギ肉食行動は頻度が低い行動であると考えられ、群のなかで肉食経験のある個体は少なく、食物としての共有認識は低いと考えられ、その影響は個体間での競争や追随はほとんどみられなかったことにも現れている。
著者
渡辺 毅 浜田 穣 渡辺 邦夫 WATANABE Tsuyoshi
出版者
椙山女学園大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

スラウェシマカクに関する調査研究は,日本の調査隊によって,1981年以来継続されてきた。当初の問題点は,いくつの種が分布しているのかにあり,形態学的・行動学的・生化学的・遺伝学的研究の総合の結果,7種であるとの結論に達っした。ところが,オ-ストラリアのGroves(1984)と本研究分担者渡辺(1990)によって,雑種の存在が観察・記載され,新たな問題点が発生するに至った。自然条件下での雑種形成に関する研究が必要となり,本研究が計画されたのである。今回の研究は,以下の3点にわたっておこなわれた。1)スラウェシ島中央部に生息するMacaca tonkeanaと南東部のM.ochreataの分布境界域を確定するため,現地を踏破した。自動車を借用して現地を移動しながら,生息するサルたちの直接観察と,現地住民にペットとして飼育されているサルたちの観察調査により,捕獲地点を特定し,また雑種の有無,その程度を記載することで,分布境界線と雑種のゾ-ンを決定していった。今回の調査により,境界線の南西域にあたる100km相当が確認され,雑種と思われる個体の観察もなされた。調査期間の最後に,分担者の渡辺と浜田の2名は,最南西部のM.ochreataとM.brunescensの分布境界域で同様の調査をおこなったが,日数の関係上,将来への予察的調査となった。2)スラウェシ島南部のカレンタ自然保護区に生息するM.maurus(ム-アモンキ-)の1群が餌づけられていて,長期継続観察が可能となっている。この群れは,分担者渡辺によって個体識別が進められ,今回現地参加の松村が長期観察にとりかかった。研究の目的は,社会構造の解明,行動特性の解明にあるが,長期観察により,繁殖の季節性,個体の成長パタ-ン,個体の移出入などが明らかになりつつある。スラウェシマカク7種のうちで,もっとも特殊化の進んだ種は,M.nigra(クロザル)とされているが,この両種の詳細な行動比較は,スラウェシマカクの種分化を解明する上での,キ-ポイントの一つとなっている。3)スラウェシ島の最北端に生息するクロザルは,激しい人為的環境破壊により,分布が寸断され,存続が危ぶまれている。ハルマヘラ群島の一つであるバチャン島にクロザルが生息しているとの情報があり,その生息状況を調べるために,分担者の浜田がバチャン島へおもむいた。アプロ-チに日数のかかる離島であるが,調査の結果,数千頭のクロザルが生息しており,島民のサルへの態度も敵対的ではないため,クロザルの種の保存や今後の研究にとって良好のフィ-ルドであることが判明した。今回の調査により,スラウェシ島において自然条件下で雑種が形成されていることは,ほぼ間違いなく確認された。しかも雑種が1代限りでないこと,つまり妊性のある雑種が形成されていることも確実だ。これは,いわゆる生物学的種(biological species)の定義に反する。それならば,雑種形成をとげている両種は,別種ではなく同種と分類しなければならないのだろうか?スラウェシ島以外の地域において,自然条件下での雑種が存在しているのだろうか?アフリカのヒヒ類とグエノン類,南米のオマキザルなどで雑種の存在が報告されている。これらすべてをそれぞれ同種に変更すれば,生物学的種と矛盾はしなくなる。しかし,われわれは,形態も行動も社会も異なる2種の霊長類を同種と認めるわけにいかない。ここで生起する大問題は,「種とはなにか?」である。これまでの研究成果をふまえてのわたしの見解は,ヒトという動物が一般の動物とややおもむきを異にしているのと同様に,霊長類というヒトも含む分類群もまた,他の動物とやや異なった存在ではないか,とするものだ。このような見解は,当然のことながら,激しい反論を呼ばずにはいられない。近々,発表する予定のこの見解が議論を惹起し,霊長類学,生物学の発展の一助になれば,と期待している。