著者
小長谷 有紀 Yuki Konagaya
出版者
河出書房新社
巻号頁・発行日
1997-12-15
著者
小長谷 有紀 Yuki Konagaya
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.9-138, 2010-11-15

モンゴル国では,近年,農業開発のための政策が実施され,成果を挙げている。一方,農耕放棄地にはヨモギがはえてアレルギー源となり,人々に健康被害をもたらしている。したがって,農業をめぐり開発と保全のバランスをいかにとるかが今後の大きな課題となる。この目標に貢献するために,本稿で筆者は,モンゴル高原北部における農業に関する知見について,人々の知識と経験という観点から整理した。 知見は4 領域から構成される。1 つめは,考古学や歴史学の成果。とくに元朝時代は他の時代に比べて資料が多く,研究も進んでいるので,より詳しく記した。2 つめは民族学が提供するいわゆる伝統的知識。用いたモンゴル語資料は日本語に翻訳して末尾に添付した。3 つめは社会主義時代の人びとの経験。筆者自身が集めた口述史の資料を利用した。また,国営農場のリストの作成を試みた(モンゴル農牧省にもない)。4 つめは統計。 これらの整理から得られることは多いが,結論は以下の通り。 1.匈奴以来,モンゴル高原では外来の農民によって農業開発がしばしば行われた。とくにウイグル時代には積極的に都城が建設されたが,この時期は中世の温暖期に相当しており,有利な気象条件に恵まれていたと思われる。 2.モンゴル国西部ではオイラート・モンゴル人による農耕が発達していた。その技術は,牛による犂,灌漑,大麦など,休閑期があることなどの特徴がある。 3.社会主義的近代化の過程で導入された農業は,伝統的な技術と異なる,大規模乾燥農法であった。作付面積が40 万ヘクタールを超えると,規模の経済のメリットが得られるが,非常に投機的なビジネスとなり,社会的に安定的ではなくなる。 4.歴史的に農業開発はそれぞれの時代の政策によって実施されてきたので,断続的であるにすぎず,カラコルム地区を除いて決して持続的ではない。にもかかわらず,現実に農業開発は行われ,牧畜の定着化を同時に促進しているので,今後は,遊牧に適した非均衡モデルではなく,むしろ均衡モデルを適用した考察が必要になっている。