- 著者
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杉本 良男
Yoshio Sugimoto
- 出版者
- 国立民族学博物館
- 雑誌
- 国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
- 巻号頁・発行日
- vol.36, no.3, pp.285-351, 2012-02-27
小論は,スリランカの仏教改革者でかつ闘う民族主義者としてのアナガーリカ・ダルマパーラの流転の生涯,およびそれ以後のシンハラ仏教ナショナリズムの展開に関する人類学的系譜学的研究である。小論ではダルマパーラの改革理念のもつ曖昧性や不協和にこだわり,あらたに再編されたシンハラ仏教を,近代西欧的,キリスト教的モデルを否定しながらその影響を強くうけたものとして,その理想と現実との食い違いを明らかにする。こうした改革仏教はオベーセーカラによって2 つの意味を持つ「プロテスタント仏教」と名づけられた。ひとつには英国植民地支配に「プロテスト」するためのシンハラ仏教ナショナリズムと深く関わっている。ふたつには,マックス・ウェーバーのいう在家信者を主体とするプロテスタント的な現世内禁欲主義を仏教に応用しようとしたものである。しかしながら,ダルマパーラの急進的なナショナリスト的改革はいったん頓挫し,1950 年代半ばのバーダーラナーヤカ政権の「シンハラ唯一」政策などによって実質化されることになった。そのさい仏陀一仏信仰を旨とするプロテスタント的仏教は,宗教的に儀礼主義と偶像崇拝を排除し,また政治的にはタミル・ヒンドゥー教徒などの少数派を排除する論理を提供した。もともとナショナリズムと親和的なプロテスタンティズムの論理が貫徹したシンハラ仏教ナショナリズムはそれまであいまいであった民族間,宗教間の対立を実体化し深刻化する結果を招いた。ダルマパーラの改革仏教はそうした紛争の一因を提供した意味においても評価されなければならない。