著者
田中 寛
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.41-62, 1998-03-31

「テモ」構文はこれまで「ノニ」との比較もふ<めて多岐に考察されてきたが, 意志性とのかかわりで出現する「テデモ」などの周辺的な形式についての意味特徴は明らかにされていない.本稿では「テデモ」, 「ナイマデモ」, 「テマデ」の用法をとりあげ, それらの関連性について考察した.まず「テデモ」では, 手段行為を最大許容範囲として, 他の想定しうる複数の条件から唯一行為を取り立てる構成において, 「テモ」の譲歩, 逆接条件とはちがった局面をあらわしている.「ナイマデモ」は「テデモ」の前接否定の形態として, 「ナイニシテモ」と等しく最大許容範囲の打ち消し表現となっている.「ナイマデモ」と隣接する「マデモナク」, ならびに文末の限定表現「マデダ」の用法との関係においても考察した.さらに, 「テマデ」の用法をみると, 「テデモ」と一部重なりを見せながら, 主としての主文における否定をみちび<形式としてあらわれる傾向がある.このように, 「テデモ」形式の否定形式は前件においては, 「ナイマデモ〜スル」の形式に, 後件においては「テマデ(モ)〜ナイ」の形式にという相互に連続した特徴がみとめられる.またこれらの形式には「デモ」「マデ(モ)」という取り立て助詞がともない, 話し手の意志性をコントロールする機能を有している.以上の比較考察から, これらの形式が「テミモ」構文のもつ譲歩, 逆条件文という特徴から, 意志的な行為手段をみちびく注釈的な機能へと連続していることを明らかにした.
著者
田中 妙子
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.47-67, 1997-03-31

繰り返し表現(以下, 本稿の規定によるものを<くりかえし>と呼ぶ.)は, 会話の相手の発話を繰り返すことで, その発話に対する何らかの心的反応を示す会話特有の表現である.本稿は, <くりかえし>を・<くりかえし>の機能(会話の相手にどのような性質の働きかけを行っているか.)・会話の展開における<くりかえし>の効果(会話の流れの中で, 先行発話をどのように受け継ぎ, 次の発話者へどのように引き継いでいくか.)という二つの点から分析するという方法を採り, 会話において<くりかえし>表現が果たす役割を明らかにすることを目的とする.<くりかえし>の機能については, 相手の発話を受信・認識したという合図, 相手の発話のどの部分に注意を向けているかの表示という二つの基本的機能のほかに, 相手の発話への感想を表現する機能, 自分の思考・感情が相手と同じであることを示す機能, 相手が質問や共感要求をしてきた事柄について肯定する機能, からかい・ことば遊びの機能が認められる.<くりかえし>の効果については, 会話の展開上, 相手の発話方向を決める, 自分の発話を進めるという二点が指摘できる.後者の場合, <くりかえし>は相手から発話権を得る, 相手の発話を利用して自分の発話を補う, 相手の発話に自分の発話を合わせる, ということのために行われる.<くりかえし>は, それによって相手に事柄的な情報を提供することはできないが, 受け取った情報に対する様々な心的反応を相手に伝達するという機能を持つ.また, その機能を利用して, 会話を先へ進めようとする意識的な働きかけも見られる.
著者
野村 雅昭
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.21-54, 1999-05-31

現代日本語研究および日本語教育研究に資する基礎資料として, 「現代漢語データベース」を作成している.このデータベースには, 現代日本語で使用される約22,000語の漢語が収録され, その一々に品詞性, 語構成, 出現頻度, 意味コードなどの情報が付されている.このうち, 基本度の高い語を選び, 語誌情報を付ける作業を優先することにした.選定の条件としては, 出現頻度の情報を用いた.国立国語研究所が行った, 新聞・雑誌・中学教科書・高校教科書の4種の語彙調査の共出現率をもとに, 3,000語が抽出された.選定にあたっては, 同研究所が作成した「日本語教育のための基本語彙(6,000語)」をも参照した.この基本三千漢語(二字漢語)を, 基本度の観点から, 上記の「日本語教育のための基本語彙(6,000語)」のほか, 国立国語研究所の『分類語彙表』, 早稲田大学日本語研究教育センターの教科書『分野別用語集』と比較し, 分析を試みた.品詞性の面からは, 基本三千漢語にはサ変動詞の語幹になるような動作性の語彙が多いことがわかった.また, 意味分野の面からは, <抽象的関係>を表す語彙が多く含まれ, <生産物><自然>など, 具体物を表す語彙が少ないことが指摘された.このような傾向は, 特に外国人のための教科書に収録された語彙との比較から, 顕著である.以上の選定方法の説明, 収録語の分析のほか, 末尾には『分類語彙表』の分野別項目順に配列した「基本三千漢語一覧」を掲げた.