著者
守屋 三千代
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.98-120, 1992-03-25

小説の中では過去の出来事をのべるのに, 文末に過去形(「タ形」)を用いるだけでなく, しぱしぱ現在形(「ル形」)が用いられる.これは, 小説が語り手によって過去の出来事として語られると同時に, 読み手によって読まれた時, その出来事が再現され, 疑似体験されるという性格をもつためであると思われる.この小説中に「ル形」が現れることにより語り手の視点が登場人物へ移動し, 劇的効果や臨場感が生ずることは, 多くの先行論文によって指摘されるところであり, この指摘はたしかに直観に合うものである.しかし, 小説中の「ル形」をこの表現効果をねらった結果ととらえて, 十分記述されたことになるのだろうか.表現は文法形式を簡単に操作できるのだろうか.小稿は, この点に疑問をなげかけ, 小説中の「ル形」と「タ形」のあらわれかたに関し, 視点の移動, 表現意図という観点と文法的な観点から考察を図るものである.小稿では紙幅の都合上, 質, 量的に十分な資料にあたって分析を示すことはできなかったが, 4点の小説より部分的ではあるが性格の異なると思われる文章例をとりだし, 「ル形」「タ形」のあらわれ方, その形式の選ばれた条件一視点移動, 動詞の性質, 文章構成上の位置-を各文末について考察したその結果, 少なくとも次のことが観察された.「タ形」 : 語り時を基準とした過去時制, 状況の終了の標識, 文章中での語りの過去時制, 登場人物の回想, 語り手や登場人物による動作, 出来事の描写, 登場人物のメタ知覚の描写「ル形」 : 状況継続の標識, 読みと語りの同時進行, 超時制, 登場人物の内言の描写, 登場人物による他者の動作, 出来事描写, 登場人物のメタ視覚, メタ聴覚, メタ思考の描写
著者
佐藤 洋子
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
no.7, pp.25-76, 1995-04-01

本稿は, 雑誌『明星』『方寸』とヨーロッパ文芸雑誌5誌から, そこに展開される日欧文化の相互影響の問題を考察するものである.『明星』は, 近代詩歌の発展に, 浪漫主義の高揚をもって貢献したのみならず, 西欧の文芸思潮の吸収に, 溌刺とした対応を示した.『方寸』は, 近代創作版画により, 文学との切磋琢磨するジャンルの開拓を目ざしていた.この文学と美術の総合モデルは, 「例を泰西諸国の高尚なる雑誌に取り」と表明されているが, それらはどのような編集方針と内容を持っていたか.独英の文芸雑誌5誌は, 時代の要求とジャポニスムを反映していた.これらの比較から, 世紀転換期の日欧文化交流の様相と相互影響の問題を解明しようとする.
著者
山下 喜代
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.71-102, 1994-03-25

一般に, 語の構成要素すなわち形態素は, 単独で語を構成できるかできないかによって, 自立形式と結合形式とに分けられる.小稿では, 結合形式である語構成要素にはどのようなものがあり, どのような性格を持つのか, ということを調べるために, 「三省堂国語辞典第4版」を資料として, 国語辞典において「造語成分」として提示されている語構成要素を対象に調査した.そして, それら「造語成分」を語種別に, (1)出現度数と比率(2)構成単位数(3)自立用法の有無(4)品詞性と結合対象語基との統語的関係などの観点から分析することによって, その性格を明らかにし, 語構成要素としての位置づけを試みることにした.調査の結果, 「造語成分」は, 語種の違い, また「前部分」になるものか, 「後部分」になるものか, という結合位置の違いによって, かなり異なる性格を示すことが明らかになった.また「造語成分」が, 自立形式と結合形式, そして語基と接辞とに対立されている形態素の枠組みの中で, どのように位置づけられるかということについては, 自立形式である語基の語形と意味からの「造語成分化」という点を指摘した.つまり, ひとつは, 本来自立形式である語基が, 連濁や母音交替などの変音現象を起こし, 語形交替することによって結合形式化して「造語成分」として扱われるようになる場合である.もうひとつは, 自立形式である語基が, 結合用法でしか使われない意味を有し, 「造語成分」として機能する場合である.しかし, 自立形式の語基の造語成分化ということを考えるには, 他の要因も考慮する必要があるし, 「造語成分」の語構成要素としての位置づけをするためには, 「接辞」との相違が明確にされることが求められる.それらはすべて今後の課題と言える.
著者
川本 喬
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.29-41, 2002-04-01
著者
鈴木 義昭
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.99-110, 1997-03-31

中国において全集が出版されている作家, 例えば, 魯迅・郭沫若・郁達夫が日本に留学したのに対して, 聞一多と日本との繋がりは, アメリカ留学に赴く途中, 神戸・横浜に数日間滞在しただけで, 地縁的にも深い関係にあったとは言いがたい.ただ, 聞一多は横浜・東京を見物した折, 東京帝国大学英文科二年生の井上思外雄と知り合った.また, 1926年には小畑薫良の『李白詩集』について論評を行った.本稿では, 聞一多によって, 中国の人々の記憶に残ることとなった二人の日本人について述べたい.
著者
高橋 淑郎
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.55-76, 1999-05-31

講義や論文における次のような「自問自答形式の疑問表現」を<自問表現>と名づけ, その性格を考察した。(例)で, 今週からは, どういう勉強をするのか, っていうと, 2つの変数を同時に取り上げて分析する方法について勉強していきます。【講義】(1)<自問表現>は, 典型的な疑問表現と比べると, 表現主体が疑問を抱かず, しかも自分で答える, という特徴を持っている。(2)<自問表現>は講義, および論文の一部でよく使われる。(3)「説明要求」の<自問表現>は答えの表現と, 合わせて「x(と)はyである」という「題目提示」-「説明」関係を構成している。そのため, 講義や論文のような一方的な伝達形態の言語表現になじみやすいと考えられる。(4)「説明要求」の<自問表現>において疑問表現を用いるメリットとして, 題目を文として提示することができるので名詞句の場合のように複雑な構造になりにくい, 疑問詞による漠然とした題目提示が可能, また, 答えとして複数の文を持つことができる, さらに独立文形式のものに限っては働きかけの効果が狙える, ということが指摘できる.(5)「判定要求」の<自問表現>は答えの表現と合わせて全体で「Aである(ではない)」(Aは命題・事柄・事態など)という表現を構成している。(6)「判定要求」の<自問表現>では, 「Aである(ではない)」を強く印象づけるために疑問表現が用いられていると考えられる。「Aである(ではない)」が強調されるとその根拠・理由≡が求められる場合が多く, その結果, 「判定要求」の<自問表現>は説明・解説の表現を構成することになる。その点で「説明要求」の<自問表現>と同じく, 一方的な伝達形態の言語表現になじみやすいと考えられる.
著者
山下 喜代
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.77-108, 1995-04-01

小稿は, 結合形式の語構成要素を対象として取り上げ研究を進めていくために, データベース作成の目的で行っている国語辞典を資料とする語彙調査の報告である.本調査は, 『三省堂国語辞典第4版』([三国])と『小学館新選国語辞典第7版』([新選])の比較を中心にして, さらに1990年以降に刊行または改版された小型国語辞典6種と広辞苑第4版および日本国語大辞典を加えた計10種類の国語辞典を対象とした.[三国]あるいは[新選]において, 「接辞」または「造語成分」と表示されている1525語について, これらが国語辞典において, どのように扱われているかを「見出し語の立項」と「品詞表示」の二つの観点から調査した.そして, 国語辞典において語構成要素を扱ううえで考慮すべき8項目問題点を指摘した.(1)自立用法と結合用法の記述(2)見出し語の構成単位数(単位形の決定)(3)異形態の立項(4)省略形の立項(5)同一語か別語か(多義語の扱い)(6)字音語の扱い(7)品詞表示の揺れ(8)接辞と造語成分の表示の区別 さらに, これらの分析を通して, 国語辞典の品詞表示において接辞と造語成分を区別することに対し疑問を呈し, 語構成要素としての性格を用例も含め明確に記述することのほうがより重要であることを述べた.さらに, 非自立形態の性格を分析する視点として「形態的非自立性」と「意味的非自立性」また, 「品詞決定機能」と「意味添加機能」の4つを挙げ, これらの視点に立った非自立形態の分類の例を示し, このような分類をもとにして, 個々の語構成票素の性格を分析することが可能になるという考えを述べた.またこのような分類は, 何を接辞とし何を造語成分とするかといった国語辞典における品詞表示や意味記述を再考する上での基礎作業と位置づけられるものである.
著者
近藤 尚子
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.26-41, 1989-03-25

本稿は川端康成の「きっと」192例を対象, に意味・用法を分析する.まず国語辞典類の記述を整理し(1), その分類にそって検討をすすめ(2)分類にあわない「きっと」の例を報告(3)したうえで, 康成の「きっとを整理した。その結果は次のようである。擬態語の「きっと」4例,2「かならず」の「きっと」24例(1)事柄の実現(9)(2)意志(8)(3)勧誘(7) 3 推量のきっと164例(1)推量を強める(70)(2)確信(81)(3)やわらげる(13)本稿は, 現代語における副詞語彙の意味・用法を記述し, さらにその変化・発展のあとをたどろうという試みのひとつである。
著者
蒲谷 宏 坂本 恵
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.23-44, 1991-03-25

日本語教育における待遇表現教育について, その現状と問題点, 「待遇表現」の捉え方, 待遇表現教育のあり方の点から考察した.本稿では「待遇表現」を「表現主体」が, ある「表現意図」を, 「自分」・「相手」・「話題の人物」相互間の関係, 「表現場」の状況・雰囲気, 「表現形態」等を考慮し, それらに応じた「表現題材」, 「表現内容」, 「表現方法」を用いて, 表現する言語行為であると捉えた.このような観点から待遇表現行為の教育のために, 待遇表現に段階性を考え, 表現意図と言葉を繋ぐものとして「表現機能」を考え, さらに具体的な表現を選ぶまでの「方略」を示すという教育方針を提案した.
著者
桜井 光昭
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.80-97, 1992-03-25

昭和27年(1952)の文部省『これからの敬語』(国語審議会建議)の「敬称」の項に, (二)「さま(様)」は, あらたまった場合の形, また慣用語に見られるが, 主として手紙のあて名に使う.将来は, 公用文の「殿」も「様」に統一されることが望ましい.とある.この提言から, すでに三十数年が経過している.その間, 都道府県庁・市区役所から, 所管の地域住民あての公文書では, だいぶ様が使用されるようになり, 特に平成元年度(1989)の時点において顕薯であった.このような時点において, 全国規模でアンケートによる使用実態の調査を行い, 使用意識を考察することにした.平成2年(1990)アンケートを発送したところ, 市区役所601箇所, 都道府県庁4箇所から回答を得た.これを分析した結果, 時期的に3グループに分類でき, 第1期は散発的個別的であること, 第2期は過渡的, 第3期は地域活性化の目的から地域住民との交流を深めるため, お役所言葉改善の一環として敬称も様に切り替える傾向が見られる.この場合, 世間一般に用いない語は避ける方針であるから, それだけで, 殿は様に地位を奪われてしまう.また, アンケートの回答を見ると, 女性が特に様を支持する傾向がある.現在は女性の時代である.一方水道料金や税金の徴収に関係する窓口では, 現在まで, つねに住民との関係を円滑にしようと, 様切り替えの努力を払っており, この面では, 殿・様のいずれが適当かだけにしぽられて検討が行われている.大勢としては, 70%以上が様に切り替えており, 今後もこの傾向は続くであろう.