著者
島田 徳子 古川 嘉子 麦谷 真理子
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
日本語国際センター紀要 (ISSN:09172939)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-18, 2003-03-15
被引用文献数
1

国際交流基金日本語国際センターでは、海外の日本語教育支援事業の一環として、2001年4月より海外の日本語教材制作を支援するためのウェブサイト「みんなの教材サイト」の構築に着手し、2002年5月に第一次開発を終了し運用を開始した。本サイトの趣旨および目的は、(1)世界のいかなる地域の日本語教師でも活用できること、(2)著作権許諾の手続きを必要とせず、自由に活用できる日本語教育用素材を提供すること、(3)利用者が素材・情報を受容するだけでなく発信もできる双方向性を確保すること、(4)教材に関する日本語教師間の相互交流を促進させ、教師の専門性発達に寄与すること、の四つにまとめることができる。本サイトのデザインおよび開発においては、コンピュータによる協調学習支援(Computer Supported Collaborative Learning:CSCL)研究の知見を理論的枠組みとし、教材制作を通しての教師の専門性発達を支援するために、教師教育における内省アプローチの考え方を取り入れた。開発段階においては、利用者にとって使いやすいウェブデザインをどのように実現するか(ウェブユーザビリティ)を重視した。まず、「みんなの教材サイト」の開発背景とそれに基づく機能概要について述べ、次に、第一次開発の実際とそこで行われた「状況に埋め込まれた評価」の試みを報告する。さらに、サイトの継続性を保つことを旨とした運用の実際と運用に関する評価について述べる。それらの結果をふまえ第二次開発では、(1)コンテンツの拡充、(2)利用者検索の充実、(3)利用者同士の双方向的やりとり機能の追加を行っている。最後に、今後の課題として、非母語話者利用者への支援のありかた、そして海外の日本語センターとの連携、さらに内外の教師支援サイトとの連携を考えていく必要がある。
著者
高 偉建 長坂 水晶 Wei-jian GAO Miaki NAGASAKA
出版者
国際交流基金日本語国際センタ-
雑誌
日本語国際センタ-紀要 (ISSN:09172939)
巻号頁・発行日
no.10, pp.51-67, 2000

タイ中等学校日本語教師研修では、アシスタントを導入したプロジェクトワークを取り入れてきた。一般 にプロジェクトワークは運用力の安定し始めた中級以上の学習者に効果的であるとされるが、プロジェクトの一つ「食生活:タイ料理」に関するアンケート結果 から、初級から中級前半の段階にある学習者を対象にした場合でも、学習者は自由に楽しく話せると感じ、プロジェクトワークを日本語の実際使用場面 を獲得する機会として評価していることが分かった。ただし、必ずしも発話量 が普段の教室での授業より増えるという自覚を持つわけではなく、プロジェクトワークは日本語運用力以外の個人の様々な能力を発揮できる異文化接触の機会として評価されたと見ることができる。 また、多くの学習者がプロジェクトワークを自分の授業にも取り入れたいと感じており、教授活動への参考になっていることがわかった。更に、学習者のアシスタントに対する期待が多様であるという結果 も得られた。
著者
浜田 麻里
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
日本語国際センター紀要 (ISSN:09172939)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.57-69, 1993-03-29

本稿は指示詞ソレと助詞ガの単純な和では説明できない接続語としてのソレガの機能と基本的な性質について考察するものである。ソレガは「PソレガQ」のPの内容から予想される結果が後続のQ部の内容と異なっていることを、事柄の生起の順に、話し手の判断を交えず述べていく逆接の機能がある。対話で用いられる場合には、ソレガは相手が持つ期待に反する内容の発話をすることを示す。また、逆接以外の機能として、情報が続けて提示される時に後続部が情報価値の高いものであることを示すというものもある。これらは全てソレガが「物語性」という特性を持つことにより説明される。 このようなソレガの機能に共通する基本的な性質は「ここからあなたの知らない話を始めるよ」ということを話し相手に伝えることである。
著者
金田一 秀穂
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
日本語国際センター紀要 (ISSN:09172939)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.181-193, 1991-03-30

現在の日本語教育界で行なわれている授業を検討し、一般 的な日本事情についての基本的な考え方をしめす。そのうえで、長期研修会で行なってきた日本事情の授業の位 置づけを行ない、その基本的な考え方と内容を紹介する。 日本事情は日本文化を教授する授業であり、その目的は日本についての理解を深めることにあるが、そのための手段を提供することが重要なのであって、単なる知識を与えることであってはならない。エスノセントリズム(自文化中心主義)からの脱却と相対的価値観の獲得がその際に求められる。究極的な目的は、学習者が自身の文化について知ることである。
著者
上田 和子/羽太 園 羽太 園
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
日本語国際センター紀要 (ISSN:09172939)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.19-36, 1999-03-20

関西国際センターでは、1997年10月より9カ月間、外交官日本語研修および公務員日本語研修を実施した。同研修では学習者の多様な背景やニーズに応え、継続学習に向けた自己学習能力獲得を支援するために、「パフォーマンス・チャート」を作成し、運用した。パフォーマンス・チャートとは、目標言語技能(ターゲット・スキル)を項目別 、到達レベル別に分類し、「———ができる」という具体的な記述で行動目標を明示したもので、これにより学習者は自分で学習目標を立て、それを実現していく過程がわかる。パフォーマンス・チャート作成にあたっては、はじめに過去の研修参加者及び現職外交官への聞き取り調査を行い、職務場面 、日常生活場面での言語使用状況を得て、そのニーズにもとづき目標言語技能項目を立てて系列化した。 研修中、パフォーマンス・チャートは日本語研修のイメージ作り、短期、長期目標の設定、到達度の確認、授業の選択のめやす、学習カウンセリングなどの場面 で活用された。また大使館実習では学習者自身が、日本語ニーズを分析し、継続学習を計画する際に利用した。 実践を通じて以下の点からパフォーマンス・チャートの有効性が認められた。まず、(1)学習者が最も必要とする職務的日本語領域を自分で見きわめ、そのために必要な項目を選択するという学習における「意志決定」が容易になる点、(2)シラバス、カリキュラム、評価などコース設計の各場面 での目標が明確になり、研修内容の一貫性が維持しやすくなること、(3)学習カウンセリングの場面で、パフォーマンス・チャートの具体性が教師と学習者に活発な議論をもたらし、両者がインターアクションする場を提供していた点である。 学習者が自律的に日本語学習を進めるためには、学習スタイルも含めたより広い枠組みでパフォーマンス・チャートをとらえ、その内容や運用方法について検討し、さらに改良していかなければならない。