著者
阿部 洋子 八田 直美
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.38-48, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
15

本稿では,国際交流基金日本語国際センターが実施してきたノンネイティブ教師(NNT)研修の考え方と変遷を概観する。さらに,近年その必要性から開講されたNNTとネイティブ教師の協働の場である上級研修の実践とNNT参加者の成果を報告し,今後の展望と課題を述べる。 NNT研修は,NNTの特徴を生かして実践が行えるよう,参加者が自らの実践を内省し,教育現場と教師研修の場を結びつけられるような設計が求められる。上級研修は,参加者が計画した現地の問題解決を目指した研究プロジェクトを中心に行う。追跡調査の結果,帰国後プロジェクトを完成させたのはNNT回答者の約半数だったが,ほぼ全員が研修内容を活用し,その中の一部は周囲への波及効果が見られた。 海外の日本語教育の現地化の主体となる指導者を養成するために,日本語教育の多様性と普遍性を発見しつつ問題解決の方法を学ぶ研修は,今後も重要性を増していくと考えられる。
著者
来嶋 洋美 柴原 智代 八田 直美 Hiromi KIJIMA Tomoyo SHIBAHARA Naomi HATTA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.10, pp.115-129, 2014

『まるごと 日本のことばと文化』は国際交流基金が開発中の相互理解のための日本語教科書である。本稿では『まるごと』が、日本語の運用力と異文化理解をどう捉え、教材化したかを述べた。まずJF日本語教育スタンダードで従来の日本語教育におけるレベル設定を見直し、これまで認識されていなかったA1レベルという熟達度を取り入れた。また、学習目標は具体的な言語行動の形(Can-do)で表わし、これによって運用力も評価する。次に日本語の教え方を見直し、学習活動を考える上では習得の認知的プロセスを参照し、言語インプットを重視した指導法を取り入れた。異文化理解能力を養うためには、知識、技能、態度の側面に働きかけた。さらに本稿では相互理解につなげるために『まるごと』で学習する談話の例についてもとりあげる。現在、海外で本書を試用している教師からは、学習者に聴解力がついてきた、積極的に話そうとするなど、肯定的な反応を得ている。
著者
古内 綾子 三本 智哉 五十嵐 裕佳 八田 直美 エフィ ルシアナ
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.13, pp.87-100, 2017

筆者らは、インドネシアの日本語教育支援の一環として、2013年に発表された国家カリキュラム(以下、K2013)に準拠した高校教科書『にほんご☆キラキラ』(以下、本書)の開発を行ってきた。K2013では、将来、国内外で活躍する人材育成のために、教育文化省が定めた能力(コンピテンシー)の育成を目指しているが、教科・科目で取り上げられる知識や技能とともに、規律や協調性、創造性、責任感といった態度面のコンピテンシーの育成も目標とされている。本稿では、目的・目標と学習プロセス、学習評価の点からK2013を概観した上で、本書の概要を紹介し、その特徴である、態度面のコンピテンシーの育成と日本語学習の統合を目指したプロジェクトワークについて述べる。本書は、インドネシア人教師による試用を行っており、試用結果を踏まえた改善を行い、現在、出版の準備を進めている。今後の課題として、教師を対象としたワークショップの実施と、学習評価の方法の検討が挙げられる。
著者
来嶋 洋美 柴原 智代 八田 直美 Hiromi KIJIMA Tomoyo SHIBAHARA Naomi HATTA
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.8, pp.103-117, 2012

国際交流基金ではJF日本語教育スタンダードを教育現場でどう適用するか具現化すると同時に、海外拠点における日本語講座での使用のために、準拠教科書の開発に取り組んでいる。新しい教科書は相互理解のための日本語教育を実践するために、日本語だけでなく異文化理解の学びを取り入れる。学習対象は海外の成人学習者である。JFスタンダードに準拠するために、レベル設定、Can-doによる学習目標、トピック、異文化理解の学習、ポートフォリオを取り入れ、2011年5月には『まるごと-日本のことばと文化- 入門A1』試用版を刊行した。コミュニケーション言語活動中心の「活動編」と、言語能力(語彙、文型など)を中心にした「理解編」、そしてトピック別語彙集で構成される。活動編と理解編は各々主教材として開発したが、トピック構成が共通で、相互補完的にも使用できる。本稿ではその開発の枠組みと内容・構成について報告する。