著者
宇田 篤史 吉田 都 原口 珠実 櫨川 舞 水本 篤志 山本 和宏 平野 剛 内田 享弘 平井 みどり
出版者
日本病院薬剤師会
雑誌
日本病院薬剤師会雑誌 (ISSN:13418815)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.529-532, 2016-05

現代の日本人における不眠症の有病率は、成人で約20%と言われている。睡眠治療にはベンゾジアゼピン系睡眠薬が主に使用されているが、より依存性が低い非ベンゾジアゼピン系睡眠薬として、ゾピクロン錠やエスゾピクロン錠が広く使用されている。両剤はともに味覚異常を示すことで知られているが、エスゾピクロン錠は、ラセミ体であるゾピクロンから、活性を有するS体のみを精製して開発されており、明確な違いは明らかではない。そこで本研究では、両剤の苦味を比較することを目的に検討を行った。その結果、苦味特異的な物質に反応を示す味覚センサ試験で、ゾピクロン錠がより強い苦味を示した。さらに健康成人を対象としたヒト官能試験でも、ゾピクロン錠でより強い苦味を示すことが認められた。本検討は薬剤の苦味強度を示すものであるが、エスゾピクロン錠に比べてゾピクロン錠がより強い苦味強度を有する可能性が示唆された。
著者
高野 晋吾
出版者
日本病院薬剤師会
雑誌
日本病院薬剤師会雑誌 (ISSN:13418815)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.835-840, 2007-06

脳実質内腫瘍の中で最も頻度の高い悪性グリオーマ(膠芽腫, 退形成性星細胞腫)に対する化学療法は、1970 年代に米国で行われた大規模臨床試験から始まった。米国では手術後に放射線単独と放射線照射に化学療法(BCNU)を併用する方法が35)、日本では化学療法としてACNU を併用する方法が34)検証された。有意な生存期間延長効果は認められなかったが、腫瘍縮小率が放射線照射単独群に比べて優れていたことから、膠芽腫・退形成性星細胞腫の術後治療には放射線照射とBCNU あるいはACNU を併用する方法がスタンダードとして行われてきた。さらに、膠芽腫・退形成性星細胞腫の術後放射線照射に化学療法を併用する治療法が、12 のランダム化比較試験、3004 例の症例を集めて解析された結果、化学療法併用による有意の生存期間延長効果(1年生存率で6%の増加、平均生存期間で2 ヶ月の延長)が示された12)。しかし残念ながら、これらの第3 相試験も個々では、統計学的に有意な生存期間延長効果を示したものはなかった。Stupp ら33)が発表した初発の膠芽腫に対するテモゾロミドの併用効果は統計学的に有意に生存期間を延長すると認められた初めての臨床試験として、脳腫瘍医に大きな衝撃を与えた。欧州ではこのデータにより初発の膠芽腫に対するテモゾロミドと放射線治療の併用療法とその後の最長6 クールのテモゾロミドの単独療法が承認された33)。さらに米国でも同様のプロトコール治療が承認された9)。このたび、本邦でも2006 年9月にテモゾロミドが悪性グリオーマの適応で承認されたことにより、悪性グリオーマの化学療法は新しい時代に向かっている。今回はわが国における新しい化学療法剤であるテモゾロミドについて概説する。