- 著者
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榎本 福寿
- 出版者
- 佛教大学
- 雑誌
- 京都語文 (ISSN:13424254)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, pp.122-165, 2012-11-24
本稿は、日本書紀と古事記が共につたえる神話を採りあげる。日本書紀の神代巻第五段から第六段にかけては、所伝が大きく転変する。第五段は本伝に日神、一書に天照大神を登場させるが、第六段になると、天照大神を本伝に、また日神を一書につたえるというように逆転する。そうした転変の実態を、所伝の読解を通して究明することが第一の課題である。この転変には、本伝と一書との関係が不可分にかかわる。本伝をもとに一書が成るという筆者の従来の見解を、該当所伝の実証的な比較研究により可能な限り精細に検証する。これが第二の課題である。これら課題への取り組みの成果を踏まえ、神代巻を古事記が引き継ぐその具体的な筋道を、本伝と一書の各所伝にわたり古事記の所伝とつき合わせながら探り、古事記の成り立ちの実態に迫ること、これが第三の課題である。そしてどの課題にも、文献学的研究や構造分析などを方法として取り組む一つの実践として、本稿は努めて自覚的であろうとする。