著者
長山 恵一 Nagayama Keiichi
出版者
法政大学現代福祉学部現代福祉研究編集委員会
雑誌
現代福祉研究 (ISSN:13463349)
巻号頁・発行日
no.14, pp.11-41, 2014-03

ヴェーバーの支配論を『経済と社会』の「新稿」と「旧稿」を比較しつつ検証した。「新稿」の支配論では、上(支配者)から正当的秩序が下(被支配者大衆)に向けて流出論的に天下るように記述され、一方、下から上へのモーメントは「正当性信仰」という概念規定の曖昧な用語が使われている。新稿の支配論では上下双方の支配のモーメントがうまく結び付いた形で説明されておらず、そこに理論的な飛躍・解離が見られる点が従来から批判されてきた。それに対して、旧稿の支配論は諒解概念や「自己義認・自己正当化」論で論理が緻密に組み立てられていると考えられてきた。新稿と旧稿の支配論を検証した結果、ヴェーバーの支配論は上から下へのモーメント(イ)と下から上へのモーメント(ニ)という垂直のファクター(すなわち(イ / ニ))と、より水平的なモーメントで価値準拠的行為・慣習律にかかわる(ロ)と予想準拠的行為・利害得失にかかわるゲーム論的な(ハ)の水平のファクター(すなわち(ロ・ハ))の二つがあり、それが[イ /(ロ・ハ) / ニ]という形で、ヴェーバー支配論の全体を構成していることが分かった。ヴェーバーは人間の道具の使用にかかわる習熟・自動化の過程や道具の授与などをベースに支配という現象を説明しようとした。しかし、彼が諒解や授与で説明できているのは全体図の中の[イ / (ロ・ハ) / ★]の部分のみである。被支配者大衆が上からの命令に対して自発的に納得・承認、服従する意識性・規範性の高い出来事(つまり[★ / (★・★) / ニ])についてはヴェーバーの理論ではうまく説明されていない。これは道具の使用の例で言えば、ヴェーバーが例示した学習の習熟プロセスとはまったく異質な洞察学習( = 脱構築のメカニズム)と関係している。人間の道具の使用の全体像は習熟・自動化のプロセス(構築化のモーメント)と洞察学習のプロセス(脱構築のモーメント)という相反する二つの事象の力動的関係が見えたとき初めて理解できる。しかし、ヴェーバーの行為論的社会学はドイツ歴史学派経済学に潜む全体論的・流出論的な価値判断を排斥・否定する苦闘の中から生み出されたものであり、認識論的にもディルタイやブントなどの直観的、集合的な価値要素を排除することで構成されている。つまり、ヴェーバーの社会学的方法論は人間の価値の構築性の側面にもっぱら焦点を当てた診断学的なものとなっており、支配論に引き付けて言うならば、それは正当化の機制にかかわっている。旧稿の支配論が自己正当化・自己義認や諒解といった構築性の原理で専ら説明されているのはこれ故である。正当性(脱構築)と正当化(構築化)は現象として相反するものであり、互いに相入れない関係にある。ヴェーバーは方法論上の原理的な制約から、支配の正当性をうまく説明できないのであり、旧稿の「理解社会学のカテゴリー」では、支配の正当性を「正当性」諒解( = 適法性に対する特有の信仰)という奇妙な造語によって概念規定が曖昧なまま説明しようとしている。しかし、支配の原理的な説明部分には、この「正当性」諒解は一切登場せず、支配は専ら正当化・自己義認、諒解で説明されている。一方、旧稿の「支配社会学」から場所的にやや離れたところにある「政治ゲマインシャフト」や関連する諸項、あるいは「種族的ゲマインシャフト」の項においては、この「正当性」諒解( = 適法性への特有の信仰)が説明の中心概念として登場し、今度は逆に正当化論の話しがきれいに抜け落ちている。こうした旧稿全体の論理構成を見ると、ヴェーバー自身が「正当性」と「正当化」の違いを明確に自覚しながらも、支配の正当性を方法論的な制約から説明しあぐねている様子が伝わってくる。つまり、新稿のみならず、旧稿の支配論においても、理論的な飛躍や解離が起きているのである。
著者
図司 直也 zushi Naoya
出版者
法政大学現代福祉学部
雑誌
現代福祉研究 (ISSN:13463349)
巻号頁・発行日
no.13, pp.127-145, 2013-03

現代日本の農山村地域は、過疎化、高齢化が全国に先んじて進み、そこでは集落機能の維持に必要な人手が不足し、次世代の確保が危ぶまれている。その反面、2000年代に入り、農山村地域に向かう若者の存在が目立ち始め、近年では国主導のもとで、「地域おこし協力隊」のように地域サポート人材導入事業が施策化され、急激な広がりを見せる。しかし、「人」を施策対象に据えているために、受入地域と若者のマッチングや、若者と地域の成長を意識したプログラムづくりなど、民間の先発的な取り組みの工夫に学ぶ必要があり、若者移住を目指す以前に、まず若者が地域に馴染む最初の段階を大事にする姿勢が求められる。さらに、地域サポート人材を志す若者の目的や動機、任期中の展開、さらに任期後の動向について、相互を結び付けて検討する動態分析が未着手であり、本研究では、応募動機と任期後の進路展開に関する実態調査から今後求められる分析視角を検討した。
著者
岩田 美香
出版者
法政大学現代福祉学部
雑誌
現代福祉研究 (ISSN:13463349)
巻号頁・発行日
no.11, pp.223-240, 2011-03

本報告は、児童自立支援施設入所児童に関する入所前の生活実態と意識について、同様の調査を行った少年院生との比較から分析を行った。その結果、児童自立支援施設入所児童は、親と一緒に暮らしていても、児童から見ると不十分なケアしか受けておらず、そのために具体的な生活場面においての不満が多くあがっていた。また、その保護者が十分に機能できない中で、児童にとって学校の先生や施設の先生の存在は大きく、家族以上に頼りにされていた。今後は、施設退所に向けた、さらには退所後の家族援助が重要になると同時に、予防的な視点から、施設を利用する前の学校や、それ以前であれば保育所や幼稚園といった段階における、教育や保育に加えたソーシャルワークとしての家族援助の展開が要請される。