著者
寺田 玲
出版者
コミュニティ政策学会
雑誌
コミュニティ政策 (ISSN:1348608X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.144-165, 2008 (Released:2013-03-28)
参考文献数
38

本稿では、近年の地域福祉の政策における地域住民への期待を批判的にとらえ、社協に関わる政策の動向や全社協が提起する方針を軸にしてそのことを浮き彫りにしている。住民同士での小地域での福祉活動に過度な期待が寄せられるのは、2000年以降、社会福祉制度が国民階層の上層部にターゲットをあてた利用契約となったことからであり、そこから抜け落ちる低所得者層を地域社会で対応するためであるとみている。そのことを論証するために国が提起する「ソーシャル・インクルージョン」や貧困問題対策についても述べることとする。
著者
倉沢 進
出版者
コミュニティ政策学会
雑誌
コミュニティ政策 (ISSN:1348608X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.35-51, 2008 (Released:2013-03-28)
被引用文献数
1

本稿の主たる論点は、以下の3点である。(1)1960 ~ 70年代のコミュニティ政策の経緯と背景 (1969年の国民生活審議会コミュニティ小委員会の成立・報告の経緯、背景としての社会開発、日本の状況に対する適用、自治省コミュニティ研究会の成立と各界の反応など)。(2)自治省コミュニティ研究会の論議と施策の展開(特に施設計画と活動計画、センター設置の制度化・全国配置をめぐる都市工学者と社会学者の意見の相違など)。(3)1970年代コミュニティ政策の評価と社会学の寄与 (親交的コミュニティと自治的コミュニティ (問題解決型)、センター建設への矮小化、専門処理システムと相互扶助システムの理論など)。
著者
谷口 功
出版者
コミュニティ政策学会
雑誌
コミュニティ政策 (ISSN:1348608X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.173-189, 2004 (Released:2014-07-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1

NPOは、地域社会が直面する高齢者・障害者介護、リサイクル、防災・防犯対策、環境保全、外国人の雇用定住対策など地域生活の様々な領域において、専門性を活かした実践を展開している。そして、こうしたNPOと町内会や自治会に代表される地域住民組織が連携し、コミュニティ形成を目指す様子が各地で見られるようになってきた。事実、コミュニティ政策学会・研究フォーラムの設立以来、主体間の連携の問題は、コミュニティ政策をめぐるテーマの一つとして取り上げられている。コミュニティの形成あるいは再生過程において、NPOが主体としてどのような役割を担いうるのかを継続的に捉える必要がある。本稿では、その前提として、NPOが主体的力量を形成していく社会的背景を問うていく。コミュニティの担い手として制度的狽J面からと、担い手自身の内的動機によって、主体的力量を高められようとしており、そこでは、複数の主体間の連携も課題となる。さらに、NPOや地域住民組織といった集団を構成する個人の主体性の獲得についての議論を深化させることは、各種団体が抱える担い手育成の問題を政策として論じていく手がかりにもなる。
著者
鳥越 皓之
出版者
コミュニティ政策学会
雑誌
コミュニティ政策 (ISSN:1348608X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.52-65, 2005 (Released:2014-07-31)
参考文献数
6

現在のコミュニティ施策として、市民による参画と協働が期待され、実践されてもいる。ある住民がコミュニティ活動に熱心に参加したら、行政は評価し、また、そのような参加者の多いコミュニティを望ましいコミュニティと見なしている。そのこと自体は否定すべきではないが、私は人類学者ジーン・レイブと認知科学者エティエンヌ・ウェンガーが「学習」の研究から使い始めた「実践コミュニティ」 (Community of Practice) という考え方が従来のコミュニティ政策の考え方と異なっており、その違いが今後の政策に役に立つのではないかと思い始めた。その考え方は、市民がコミュニティに貢献するという従来の考え方ではなく、コミュニティが住民に価値あるものを与えるという考え方である。彼らはフィールド調査からそのようなことを得たと言う。本稿では、彼らの考え方に依拠しつつ、もう一歩進み、コミュニティが文化を所有しており、その文化を市民が享受しているという考え方を、神戸市の事例を用いて証明しようとした。レイブとウェンガーが使っているキーワードとして「正統的周辺参加」 (Legitimate Peripheral Participation) という概念があるが、神戸市の事例では、それを子どもたちに当てはめて考えてみた。
著者
倉沢 進
出版者
Japan Association for Community Policy
雑誌
コミュニティ政策 (ISSN:1348608X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.35-51, 2008

本稿の主たる論点は、以下の3点である。(1)1960 ~ 70年代のコミュニティ政策の経緯と背景 (1969年の国民生活審議会コミュニティ小委員会の成立・報告の経緯、背景としての社会開発、日本の状況に対する適用、自治省コミュニティ研究会の成立と各界の反応など)。(2)自治省コミュニティ研究会の論議と施策の展開(特に施設計画と活動計画、センター設置の制度化・全国配置をめぐる都市工学者と社会学者の意見の相違など)。(3)1970年代コミュニティ政策の評価と社会学の寄与 (親交的コミュニティと自治的コミュニティ (問題解決型)、センター建設への矮小化、専門処理システムと相互扶助システムの理論など)。
著者
田中 志敬
出版者
コミュニティ政策学会
雑誌
コミュニティ政策 (ISSN:1348608X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.95-116, 2010 (Released:2012-01-31)
参考文献数
13

都心部を中心にマンションストックが増え続ける中で、地域コミュニティでは2つのリスクが存在している。1つは元々の地域コミュニティの担い手が不足し、地域運営ができなくなった結果おこりうる、地域のスラム化のリスクである。もう1つは、マンション内コミュニティが形成されず、適正なマンション管理運営ができなくなった結果起こりうる、マンションのスラム化のリスクである。マンション居住者が地域コミュニティの運営に参画することで地域コミュニティの再生がはかられ、地域での交流がマンション内コミュニティの形成の一助となる好循環が実現すれば、論理的あるいは長期展望では、両者のリスク回避へとつながっていく。本稿では、このマンションストックの増加に伴う地域コミュニティの運営のあり方に着目し、京都市都心部の町内・元学区を事例として、その課題と展望を指摘する。
著者
鄭 南
出版者
コミュニティ政策学会
雑誌
コミュニティ政策 (ISSN:1348608X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.205-228, 2005 (Released:2014-07-31)
参考文献数
29

20年以上の国有企業改革と市場経済の進行に伴い、中国の社会保障体制は大きな変容に直面するようになった。急激な階層化、地域間の経済格差の拡大と地方分権化の進行は中国の社会保障に独自の様相をもたらしている。中国の社会保障体制の変容を理解するために、本論文は社会保障の体制比較に関する理論を参照して、計画経済時代の社会保障、市場経済化の展開に伴う現在の社会保障改革を位置付け、比較体制論の見地から理論的に検討する。さらに、中国社会保障システムの市場化過程中の変容の独自性を提えるために、本論文は「地域コーポラティズム」という概念を用いて地域間の社会保障における格差の発生要因を説明する。すなわち、計画経済時代に単位は平等主義という原則で社会保障において大きな役割を果たしてきたが、現在では地方分権化によって地域は再分配に関わるシステムに変化しつつある。地方政府というローカルな権威は大きな役割を果たし、そのイニシアチブの大きさは経済発展のみならず社会保障においても異なる結果をもたらしている。地域コーポラティズムの形成は一時的なものではなく、これからも社会保障に大きく影響するだろう。単位保障の後退によって、都市部においても家族(親族)保障の役割もますます大きくなるだろう。
著者
金谷 信子
出版者
コミュニティ政策学会
雑誌
コミュニティ政策 (ISSN:1348608X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.124-143, 2008 (Released:2013-03-28)
参考文献数
49
被引用文献数
1

ソーシャル・キャピタルの形成には、市民活動が大きな影響を持つことが知られている。ただ日本の市民社会論では、現代的で自律型の市民活動に関心が集中し、伝統的な地縁団体や行政系ボランティアがつくる地縁ネットワークの役割や意義についての研究はまだ少ない。このため本論では、ソーシャル・キャピタル論とその背景にある市民社会論の関係を再考した上で、地域の安全や福祉に取り組む地縁ネットワークの意義を再確認し、これが顔の見える関係の基盤を造り、ソーシャル・キャピタルの要素である信頼の源泉として機能する可能性について考察する。
著者
牧田 実
出版者
コミュニティ政策学会
雑誌
コミュニティ政策 (ISSN:1348608X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.156-173, 2006 (Released:2013-03-28)
参考文献数
24

本稿は、沖縄県宜野湾市を事例に、地域共同管理と「公共性」の関係を考察することを目的とする。那覇市の北部に位置する宜野湾市は人口約9万の地方都市であり、市域の中央部には普天間飛行場、北部にはキャンプ端慶覧があり、これら軍用地の面積が市域の3割以上を占めている。またインテンシブな事例調査の対象とする宜野湾区は、行政区でありまた自治会の範域でもあるが、戦前の集落をほぼ全面的に普天間飛行場に接収され、戦後あらたに集落を再建した地区である。宜野湾市とりわけ宜野湾区の住民は、いまも基地と隣り合わせに住み、基地という日常的なリスクと向き合って生活する一方、基地雇用や軍用地料に生活を依存する状態にある。ここにみられるのは、基地に象徴されるグローバルおよびナショナルなレベルの「公共性」の論理の地域社会への浸透であり、宜野湾市および宜野湾区の地域共同管理の課題は「公共性」問題と不可分に結びついている。本稿では、普天間飛行場の返還が日程にのぼりつつある宜野湾市の事例をとおして、地域共同管理と「公共性」の重層的関係について考察する。