著者
安井 早紀 伊谷 原一
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.128-135, 2013

タイの東北部、スリン県のタクラン村は、古くからゾウを使役に使う少数民族クイ族の住む村であり、ゾウの村として知られている。タイでは、1989年に森林伐採が禁止されると、材木運搬等に従事していた多くのゾウは仕事を失い、代わりに観光客相手の仕事をするようになった。なかでも交通量の多い都会で観光客に向けて餌を売り歩くゾウとゾウ使いが増え、動物福祉の観点から問題視されるようになっていった。2005年、スリン県行政機構により村にスリン・ゾウ研究センターが設立され、経済的援助によりスリンでの生活を保障することで、スリン出身のゾウ使いと彼らのゾウを、故郷へ呼び戻すためのプロジェクトが始まった。そして現在、約200頭のゾウがセンターに登録されている。このセンターでのゾウとマフーの生活や、現地で行われているボランティア・プロジェクトについて紹介する。
著者
豊田 英人 江口 祐輔 古谷 益朗 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.57-65, 2012

本研究では、ハクビシン被害の対策を実施する上での基礎的知見として、捕獲ハクビシンを用いて、体型と繁殖状態について調査を実施し、それらに性差や季節性、地域差があるか否かについて検証した。調査は、埼玉県で捕獲された168頭(雄:74頭、雌:94頭)の成獣ハクビシンを対象として、体の各部位の計測値と、繁殖季節、受胎数、経産率を求めた。体サイズの測定では、冬期に捕獲した個体の体重、胸囲、腰囲が他の季節に捕獲した個体に比べ増加することが示された。繁殖季節は少なくとも1-9月と推定されたが、10-12月に関しては捕獲個体数自体が少なく、ハクビシンがこの時期に繁殖可能か否かは不明であった。受胎数は2.9±0.9で、経産率は57.4%であった。また、体型や受胎数、経産率に都市部と農村部で地域差は認められなかった。本研究の結果から、移入種といわれているハクビシンが、日本の気候に順応しており、高い繁殖能力を有し、都市部のような人の生活に密接した地域でも繁殖できる状態で生息していることが示唆された。このようなハクビシンの特性が、現在、我が国で増加しているハクビシン被害の一因となっている可能性が考えられた。
著者
安江 健 金原 徹 中村 豊 松澤 安夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.101-108, 2014

無償で入手可能な米ぬかの飼料としての通年利用を検討するために,竹林内腐植と水を添加して調製した発酵米ぬかの,貯蔵中の化学的品質とヤギの嗜好性を経時的に検討した.貯蔵100日目までの発酵米ぬかを9つの時期で採取し,サイレージでの化学的品質評価法であるフリーク法とV-スコア法からその品質を評価した.加えて米ぬかや発酵飼料の摂食経験のない4頭のザーネン成雌ヤギを用い,貯蔵期間中の8つの時期での発酵米ぬかの嗜好性を,生米ぬかとのカフェテリア試験により評価した.発酵米ぬかのV-スコアは貯蔵0日目の100点から99日目の94.4点まで微減したが,フリーク法による総合得点は0日目以外常に100点を維持し,試験期間中は最高の品質を維持した.発酵米ぬかの嗜好性はその品質よりも摂食経験に影響され,生米ぬかに比べて摂食潜時は試験5日目まで長く(P<0.05),摂食量は試験6日目まで少なかった(P<0.05)ものの,その後は生米ぬかとの間に有意差はなくなった.以上から,竹林内腐植と水を添加した発酵米ぬかは長期間良好な品質を維持でき,ヤギでは長くとも1週間程度の給与でその嗜好性は生米ぬかと同程度になるものと考えられた.
著者
關 義和 小金澤 正昭
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.69-76, 2010

ハクビシンは、日本では外来種と考えられているが、行動圏に関する研究はほとんど行なわれていない。中国の飼育下のハクビシンは、冬期に程度の浅い冬眠をすることが報告されている。本研究では、冬期の極端な行動圏の減少が野外個体で初めて観察されたので、その結果について報告する。高標高域に位置する栃木県奥日光地域において、2007年7月から2008年6月にかけて、ハクビシンのオス1頭をラジオテレメトリー法により追跡した。行動圏サイズは、夏期と秋期には約1,830haで、冬期には5ha、春期には479haであった。また、冬期における1日の移動距離と1時間毎の平均移動距離は、他の季節に比べて低い値を示した。これらの結果は、追跡個体の冬期における活動性の低下を示唆する。したがって、本種の管理を行っていく上では、冬期の捕獲努力量は他の季節よりも強化しなければ十分な捕獲成績が得られない可能性がある。