著者
松田 裕之
出版者
甲子園大学
雑誌
甲子園大学紀要 (ISSN:18815731)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.123-155, 2007-03-31
被引用文献数
1

南北戦争を戦史のなかに定置すれば、近代的な総力戦の先駆と捉えうるが、じつはこの側面を象徴する出来事として、当時の先端テクノロジーたる電信の本格的な軍事使用をクローズアップできる。国家の再統一を大義に掲げる北部連邦=USAにとって、広範に展開した大規摸な軍隊と、それに対応する長い兵站補給線を維持すべく、効率的な通信体制の整備は必要不可欠となる。行政府と各方面軍、軍同士、軍司令部と麾下の諸部隊、部隊同士のあいだに情報を短時間で廻らせたのが、戦場に派遣された連邦陸軍電信隊(USMTCs)。飛び交う銃弾と炸裂する砲弾のなかで、隊員たちは電線を架設・保守・修復し、モールス電信機を操作して暗号通信文を迅速に送受する。争乱によって授けられたその寿命わずかに5年、アメリカ史の分水嶺に流星の如き光芒を映じて消えたUSMTCs-裏方ともいうべき存在をあえて歴史の表舞台に立たせるのは、情報通信テクノロジーが戦争という禁断領域に使用された「事始め」をあきらかにするためだけではない。USMTCsという存在自体が後世に対して発する問いかけにもよる。すなわち、「一朝有事に際して、誰のために誰の血が流れるのか?」という……。
著者
小泉 修平
出版者
甲子園大学
雑誌
甲子園大学紀要 (ISSN:18815731)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.55-61, 2007-03-31

研究者の道を歩む予定であった佐治敬三は、実兄の急死により洋酒の寿屋(後のサントリー)の後継者となった。後継者に就任すると学究肌の性格も一変させ、社名を「サントリー」に変更し、苦難の事業であるビール事業を手がけるのである。これは、当初道楽事業と揶揄されたが、実は自らが描いた新しいタイプの財閥を形成するための序章であった。また、同族大企業のトップであった佐治の戦略をみると、同族企業が長期的に繁栄する条件が浮かび上がってきた。それは、一族の経営トップ間の分担方法、健全なる赤字事業の推進姿勢、人々の生活文化への貢献などである。
著者
松田 裕之
出版者
甲子園大学
雑誌
甲子園大学紀要 (ISSN:18815731)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.123-162, 2007
被引用文献数
1

電気を利用して遠隔地間で情報交換を行う画期的なイノヴェーション=モールス電信方式は、自然条件や距離の制約に煩(わずら)わされることなく、地球上どこにいてもリアルタイムでのコミュニケーションが可能な現代型情報通信の起源に位置付けられる。それはまた、電信士という新種の専門技能職も生み出した。彼らは、短点(ドット)と長点(ダッシュ)でアルファベットや数字を表したモールス符号を自在に操り、世界規模で展開した巨大な情報通信網を機能させる。本稿では、電信士という職業が現代の情報通信労働といかなるつながりをもち、そこにどのような影響をとどめているのかについて、アメリカ合衆国を舞台として検討を加えたい。
著者
白樫 三四郎
出版者
甲子園大学
雑誌
甲子園大学紀要 (ISSN:18815731)
巻号頁・発行日
no.34, pp.157-172, 2006

リーダーシップ研究史において対照的にも思われる三隅二不二の「リーダーシップPM理論」とフレッド・E・フィードラーの「リーダーシップ効果性の条件即応モデル」および「認知的資源理論」とを比較検討しながら、リーダーシップ効果牲をめぐる2つのアプローチの問題点を考察する。三隅は集団-課題状況の相違を相対的に重視せず、Performance(課題遂行)およびMaintenance(集団維持)の2つの集団機能に着目して、リーダーシップ現象を解明しようとする。これに対してフィードラーは条件即応モデルあるいは認知的資源理論において、リーダーのパーソナリティ、仕事指示的行動、集団-課題状況の統制力レベル、上司との対人ストレス、部下集団からの支持などさまざまな変数のかかわりにおいてリーダーシップ現象をとらえようとする。両理論の対比において、リーダーシップ研究の将来を探索する。