- 著者
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村上 玲
- 出版者
- 淑徳大学
- 雑誌
- 総合福祉研究 (ISSN:18818315)
- 巻号頁・発行日
- no.22, pp.197-209, 2017
イギリスにおける同性愛者に関する法状況として,同性愛行為の合法化,シヴィル・パートナーシップなど異性愛者と同等の法的地位の獲得,雇用関係から始まった性的指向による差別の禁止といった大きな動きが存在している.この一連の過程においては国内の社会情勢の変化だけでなく,EU法,欧州人権条約及び欧州人権裁判所判決が大きな影響を与えている.性的指向に基づく憎悪扇動罪はこのような流れの中で,同性愛者を中心とした性的少数者を威嚇的な表現から保護するために制定されている.この性的指向に基づく憎悪扇動罪創設に関する議論において重要な論点となったのが,いかにして同性愛者等への保護を図りつつ,同性愛等に関する信仰に基づく信念の表明や議論等の保護とのバランスをとっていくかということであった.この問題においてイギリスが採用した方策は,訴追可能性を限定するとともに,自由な言論条項によって同性愛に関する表現の自由を確保するというものであった.