著者
江島 尚俊
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.137-151, 2016-03

本稿においては,“日本倫理学史”を大学という視点から明らかにしていくべく,1874(明治7)年度から1881(明治14)年度の東京大学(前史を含む)における「ethics」の教育課程に着眼し調査を行った。その結果,この時期では「倫理学」という名称の科目は設置されておらず,「修身学」,「道義学」という名称であったこと,かつ,それらの科目はサイルやクーパーといった外国人教師が担当していたことを明らかにした。なお,そこでの内容は現在でいう「史学」,「心理学」が教授されていた。「倫理学」概念が大きく変化したのが1881(明治14)年度であり,井上哲次郎によってであった。井上は,「倫理問題」ではなく「倫理学問題」を解決するための学問として「倫理学」を定義し,「倫理学」の学問領域の確定を試みていたが,その背景には,「東洋」の再発見という文化史的な背景が存在していたことを論じた。
著者
横尾 暁子 竹内 美香 鈴木 晶夫
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletion of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.13, pp.149-159, 2019-03

青年期女子の「痩せ」の多さが問題視されている。本研究では,首都圏の大学に在籍する女子学生115人を対象に調査を実施し,中学から現在までのダイエット経験やBMI,食習慣,自尊感情,栄養知識の関連について調査した。今回の調査からは,青年期女子の痩身願望や痩身化の高さが明らかになり,体型の不満足感と自尊感情の間に有意な負の相関関係が見られた。また,ダイエット経験者の多さが明らかになったとともに,ダイエットを実施した理由について,発達段階ごとの特徴が示された。さらに,これまでのダイエット経験のパターンによって,食意識や栄養知識およびBMIに差異のあることが示唆された。これらの結果をもとに若年女子の過度な痩せを防ぎ,心身ともに健康な状態を維持するための適切な介入方法の在り方について検討し,今後に向けた課題を示した。
著者
増田 いづみ 生田 久美子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.91-109, 2016-03

福祉における「自立」についての重要性は倫理的側面を含めて,様々な形で論じられており,その重要性については誰もが認めるものである。しかしながら,その「じりつ」には,同じ読み方でも「自立」と「自律」が存在し,両者の概念の違いについてはこれまで明確な形で議論されてこなかった。そしてそのことが,実践における「じりつ」をめぐる様々な在り様を現出させてきたと言えよう。そこで本論では,介護の中で用いられる「自立」「自律」という概念に注目し,各々の概念の意味するところを整理するとともに,特に高齢者介護その目指すべきものはなにかということについて,哲学・教育・介護の領域における文献分析を基に考察していく。
著者
鈴木 文治
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.8, pp.17-48, 2014-03-25

特別支援学校では,児童生徒の教育的ニーズや学校の置かれた地域性を考慮して,教育課程を編成することが学習指導要領に記されている。それは,児童生徒を取り巻く様々な環境的要因を考慮し,また保護者や地域住民の要望,さらには時代的要請などを盛り込んだ教育目標の設定,教育の展開が求められているからである。教育の持つ普遍的な価値の実践をふまえつつ,一方で学校独自の教育の展開が期待されている。私は8年前に「神奈川県の特別支援学校のモデル校」として開設された神奈川県立麻生養護学校の初代校長を務め,学校独自の教育の展開を試みてきたが,本論は,その独自性の一つである全国初の「高等部の芸術コース」を取り上げ,「芸術コース」の意図する背景にあるもの,またその教育的成果について考察するものである。障害児教育における「美術・音楽・工芸」という芸術活動は,特別支援学校のみでなく,卒業後の福祉施設でも重要な位置づけとなっている。そのような芸術活動を高等部の教育の中核として位置づけた背景にあるものや,8年間の教育実践で見られる教育的成果について改めて検討したい。また,本論で取り上げる内容は,特別支援学校での教育実践だけでなく,インクルージョンの理念から見る芸術活動の意義についても考察している。これには次のような背景がある。開校以来,全国から教員を始めとする関係機関の人々が学校見学に訪れ,その中に文部科学省や厚生労働省の担当者がいた。彼らは芸術コースの取組を見学した後,このような活動が社会自立を目ざす障害児の教育に相応しいものかと発言し,障害者にとって,就労や自立のために労働意欲や体力を培う教育が本筋であり,芸術活動の取組は重要ではないと言い切った。障害者にとっての芸術活動は,教育的な意義においても社会自立のためにも極めて重要であるとの主張は認めてもらえなかった。従来から教育現場においては,芸術科目は基礎教科(国語,数学等)に比して一般大学の入試科目からも外されていることもあり,重要な教科と認められていない傾向がある。障害者にとっても「癒しの活動」と位置づけられるため,その活動の本来的な意義は十分に認識されていない。芸術活動は人間形成の上で最も重要な要素であり,教育上必須のものであるが,一般的にも専門家の間でも十分には理解されていない。その背景には,知育教育の偏重の根幹にある受験教育がある。全国初の芸術コースの設置を疑問視したことは,文部科学省や厚生労働省での,また一般社会における芸術活動への無理解が示されたものと見て取れる。しかし,開校後7年経った全国の特別支援学校校長会の冒頭の挨拶で,文部科学省の調査官は麻生養護学校の芸術コース設置の取組を紹介し,その意義を高く評価する発言をした。7年経って再評価された背景にはいったい何があるのだろうか。障害者の芸術活動の取組の拡大や,東日本大震災後のアートによるワークショップの充実が知れ渡ったこともあるのだろう。だが,文部科学省の芸術コースの評価が芸術活動への高揚には結びつかず,全国には芸術コースの置かれた特別支援学校は,その後一校だけ増えたに過ぎない。そのことは障害者のみならず,一般の教育における芸術活動への低い評価が払拭されていないことを示している。古く障害者や高齢者などの様々なニーズのある人々を対象に行われてきた芸術活動は,「芸術療法」として行われてきた。音楽療法や絵画療法,演劇療法,創作療法(俳句・短歌),工芸療法(工作や手芸)などがそれに当たる。これらは学校や福祉施設,病院などで広範に行われているが,「療法」として位置づけされている背景には,「病んでいる人」を対象に「社会自立」のための一環とされているからである。病人や障害者を対象とすることは,その活動を通して社会自立させる要因を内部に生じさせ,健常な人間を育成するという動機が伺えるからである。人間そのものを作り上げていく重要な教育的観点としての芸術活動からは,「癒しの芸術療法」とは依って立つ基盤が根底から異なっている。インクルーシブな社会を目指す今日的な考え方では,「療法」という用語には,「病人や障害者を癒すことにより,健常者に近づけ,社会自立を目指す」という発想が見て取ることができる。つまり障害者を健常者にするための芸術活動という考え方がある。しかし,そもそも芸術活動とは何か,また障害者を対象にした場合には「療法」として位置づけられているが,芸術活動は本質的に「療法」という領域に押し込められるものであるのか。とりわけ「インクルージョン」の理念による社会のあり方が求められている現在,障害者の芸術活動の意義を探ってみたい。
著者
喜始 照宣
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.285-296, 2016-03

本稿の目的は,2013 年に美術系大学4 校の学生を対象に実施された質問紙調査をもとに,大学入学以前での予備校・画塾経験の差異が,学生の大学生活に与える影響について検討することである。具体的には,つぎの分析課題を設定し,検証する。 分析課題1:予備校・画塾経験は,大学生活での諸活動への熱心さを高めるのか 分析課題2:予備校・画塾経験は,大学生活での悩みや消極性を低減するのか分析の結果,クロス集計レベルでは,予備校・画塾経験者のほうが,大学生活における,制作活動での熱心さが高い一方で,制作・研究面で悩みを抱く傾向があることが確認される。しかし,多変量解析によって,他の変数の効果を統制した上では,予備校・画塾経験は,1)制作活動での熱心さを高める効果を持たないが,2)制作・研究での悩みをもたらす効果を持つことが示される。よって,予備校・画塾での経験が,その後の学生の生活に及ぼす影響範囲は限定的であり,それは必ずしも正に働かないことが明らかとなる。
著者
喜始 照宣 長江 侑紀
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.11, pp.189-208, 2017-03

本稿の目的は,下記の2つの問い(RQ)について,長年にわたり多文化保育を行ってきた横浜中華保育園を事例とし,おもに保育者へのインタビュー調査をもとに明らかにすることである。特に本稿では,保育者ストラテジーの観点から,保育者の問題対処の仕方を描き出す。 RQ1:外国につながりのある子どもに関して,現在どのような問題が生じているのか RQ2:保育者たちは,そうした問題に対して,日常的にどのように対処しているのか分析の結果,以下の知見が見出された。第1に,横浜中華保育園では,認可園への移行後,園環境及び子ども・保護者の変化が見られた。子どもや保護者の文化的・経済的背景の変容である。特に幼児クラスでは,新たに中国から来た日本語が分からない子どもが増加していた。第2に,そうした言語に関わる問題に対して,保育者は,「子どもは自然と慣れていく」といった乳幼児観に基づき,過度な援助・介入は行わない,「見守る」基本姿勢をストラテジーとして採用し,子どもの成長・発達,自発的な互助に委ねた対処をしていた。第3に,それと同時に,同僚の保育者や園長,幼児,保護者といった「他者」を資源として活用する「協働ストラテジー」を駆使し,日本語が分からない子どもや保護者への対応という,日常的に生じる問題の解決も行っていた。また,協働ストラテジーは,園内の限られた構造的条件の中で,保育者が自らの目的・目標を達成する上で有効に活用されていることが示された。