著者
猪熊 浩子
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.23, pp.75-86, 2013-03-31 (Released:2017-05-26)
参考文献数
19

国境を超えた企業活動が活発になることに伴い,会計基準・監査基準も世界標準化が求められ,会計プロフェッショナルにかかる教育や資格要件も国際化していく傾向にある。一方で,会計・監査制度が周辺の制度と密接な関係にある以上,各国の地域性が容易に解消されるわけではない。グローバル化とは単に制度の標準化・共通化を意味するだけでなく,絶えず地域性との摩擦と調和の下,進展していく過程であると考えられる。監査についてみれば,当面は各国固有の制度に基づく監査業務が重要である状況には変わりないとしても,会計基準・監査基準の国際標準化が進むにつれ,諸基準の標準化に対応して世界で活躍できる会計プロフェッショナルを育成していかなくてはならない。会計・監査制度は企業の活動基盤を支える社会的インフラであり,企業の国際競争力を支えている。今後,会計プロフェッショナルについても共通化や資格の相互承認が進展することが予想され,その時に備え会計プロフェッショナルにかかる確固たる将来像の構築が求められる。
著者
藤岡 英治
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.21, pp.93-102, 2011-03-31 (Released:2017-05-04)
参考文献数
19

わが国監査基準における適正に表示(適正性:fairness)とは,国際監査基準に規定の監査意見の形態のうち,適正表示の枠組みにもとづくものか,それとも準拠の枠組みにもとづくものであるのかは明確ではない。一般的には適正表示の枠組みにもとづき意見表明を行っていると捉えるべきであるが,実務では監査人の責任と絡んで,基準への準拠性のみを考慮した準拠の枠組みと捉えられかねないこともある。そもそも,一般に公正妥当と認められる会計原則(以下,GAAP)に準拠すれば適正であるとした見解が示され,後にGAAP準拠のみでは適正性を満たさないGAAP準拠性≠適正性とする見解が出てきた歴史的な経緯がある。そこで本稿では,GAAP準拠性≠適正性に対して,アメリカでは,GAAPの拡大による対応,イギリスでは,GAAPの枠組みを超える経営者,監査人の積極的な判断にもとづく対応について検討し,その検討にもとづく適正性の位置づけを明らかにする。さらに,わが国の適正性のあり方について若干の示唆を示することにする。
著者
武田 和夫
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.23, pp.35-42, 2013-03-31 (Released:2017-05-21)
参考文献数
8

わが国の「公認会計士法」の起源は,明治42年の日糖事件とその後の『公許会計士制度調査書』にみることができる。そこで,公認会計士法制定までの経緯と平成15年改正の内容を考察することにより,当時の職業会計士の業務内容を詳らかにし,公認会計士の使命がパブリックの概念を意識することにあり,その結果,経済主体のガバナンスの支援と内部統制のチェックを遂行することが業務の本質になることを解明した。その上で公認会計士による監査業務と内部監査の共通性を指摘し,公認会計士の内部監査への関与方法について,外部者と内部者の2つの立場から検討を加えている。前者としての立場からは,内部監査部門との共同実施の形態をとり,専門的知見に基づいた内部監査サービスを提供しなければならない。また後者の立場からは,パブリックの概念を保持することの重要性を指摘した。
著者
猪熊 浩子
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.23, pp.75-86, 2013

<p></p><p>国境を超えた企業活動が活発になることに伴い,会計基準・監査基準も世界標準化が求められ,会計プロフェッショナルにかかる教育や資格要件も国際化していく傾向にある。一方で,会計・監査制度が周辺の制度と密接な関係にある以上,各国の地域性が容易に解消されるわけではない。</p><p>グローバル化とは単に制度の標準化・共通化を意味するだけでなく,絶えず地域性との摩擦と調和の下,進展していく過程であると考えられる。監査についてみれば,当面は各国固有の制度に基づく監査業務が重要である状況には変わりないとしても,会計基準・監査基準の国際標準化が進むにつれ,諸基準の標準化に対応して世界で活躍できる会計プロフェッショナルを育成していかなくてはならない。</p><p>会計・監査制度は企業の活動基盤を支える社会的インフラであり,企業の国際競争力を支えている。今後,会計プロフェッショナルについても共通化や資格の相互承認が進展することが予想され,その時に備え会計プロフェッショナルにかかる確固たる将来像の構築が求められる。</p>
著者
住田 清芽
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.25, pp.50-61, 2015-03-31 (Released:2017-06-27)
参考文献数
13

2015年1月に,監査報告書の記載内容を大幅に変更する国際監査基準(ISA)が公表される見込みである。改正ISAは,監査意見に加えて,監査人が被監査会社の当期の監査において最も重要と判断した事項(監査上の主要な事項(KAM))を上場企業の監査報告書に追加的に記載することを求めており,被監査会社の監査に特有の情報が記載されることになる。これは,従来の定型的な監査報告書からの大きな変革であり,監査実務だけでなく,財務報告プロセス全体に大きな影響を及ぼすことが想定される。KAMに象徴される監査報告の改善は,経済社会における財務諸表監査の価値及び目的適合性を維持する上で重要と位置づけられている。利用者の視点に立って監査報告書の情報価値を高め,同時に,監査の透明性の向上により監査品質,最終的には財務報告の質の向上をもたらすことが期待されている。その際,ISAに先行して,企業開示制度全体を見直し,コーポレート・ガバナンスの強化とともに監査報告書の改正を行っているUKの取組みが参考になる。
著者
甘粕 潔
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.20, pp.26-34, 2010-03-31 (Released:2016-05-09)
参考文献数
8

日本公認会計士協会が財務諸表監査における不正への対応指針として示した監査基準委員会報告書第40号は,「不正リスク要因」すなわち「不正に関与しようとする動機やプレッシャーの存在を示す,又は不正を実行する機会を与える事象や状況」の識別を重視している。不正リスク要因は,米国の犯罪学者クレッシーによる横領の発生要因に関する仮説に基づく概念である。クレッシーの仮説は,横領は信頼に背く行為であり,不正リスク要因は個々人の主観的認知により生じるなど,監査人が不正への対応力を高めるうえで有効な示唆を与える。不正は意図的に隠ぺいされ,その発見は容易ではない。そのため,不正対策の要点は,的確なリスク評価に基づく未然防止にある。監査人は,不正リスク要因の理解に裏打ちされた想定力・察知力・質問力を高めるとともに,不正防止・発見への対応強化に向けて,他の関係者との連携をより積極的に図らなければならない。
著者
森 公高
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.17-25, 2014-03-31 (Released:2017-06-08)

経済社会のグローバリゼーションは既に始まっており,我が国の公認会計士はその対応が求められている。将来的には,会計士資格の相互承認により我が国企業の海外進出に伴う海外での監査・会計業務が拡大するとともに,海外の会計士が我が国に参入することも想定される。経済の重要なインフラである会計や監査の質の維持,公認会計士,会計事務所,監査事務所の国際競争力の強化が求められることになる。このような状況の下,我が国の会計・監査制度,公認会計士制度等の現状を踏まえ,グローバリゼーションによる影響を考察し,今後の経済社会における,これらの制度に対する期待を分析し,公認会計士等の果たすべき役割,会計プロフェッションの育成の在り方,さらに,我が国における公認会計士の行う税務業務の国際標準の在り方について検討を行った。
著者
岡田 譲治
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.40-46, 2017-03-31 (Released:2017-08-10)
参考文献数
1

2015年は会社法の改正,コーポレートガバナンス・コードの施行と相次ぎ,日本のコーポレートガバナンス元年とも言うべき年であった。日本企業が取るガバナンス体制は,監査役会設置会社,指名委員会等設置会社,監査等委員会設置会社という異なる形態の併存が認められているが,改正会社法で導入されたガバナンス体制もコーポレートガバナンス・コードも,いずれも欧米のガバナンススタイルをそのまま輸入したものであり,これに魂を入れるのはこれからである。形を入れてこと足れりとせず,本質的な問題に正面から対応しないと,導入した制度が形骸化することにもなりかねないと危惧する。ここでは企業不正防止という監査役の使命を踏まえ,企業不正の類型と夫々に対応する監査役の役割を概説した上で,現代の監査役に求められる役割及び資質について論じたい。