著者
紺野 卓
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.176-187, 2017-03-31 (Released:2017-08-31)
参考文献数
20

地方公共団体のステークホルダーである住民の目を,いかにして行政運営に役立てるか,その一つの鍵となるのが住民監査請求である。住民からの適正な監査請求は,行政のムダをなくし,効率的な組織運営に寄与すると考える。しかしながら,仮に適正な監査請求がなされたとしても,監査請求を受ける監査委員の対応が不適当である場合には,同請求は組織の改善等には役立たない。もしも監査請求に際して,監査委員の適当とはいえない対応が見られる場合には,監査委員には法的ペナルティーも検討されるべきである。本稿では,監査委員の法的責任追及の可能性について,これまでの議論を踏まえて概観するとともに,同責任を明確化する目的で会社法の規定を参考とする。特に会社法で規定する「不提訴理由通知書」は,株主からの請求に対して,株式会社の監査役に実効性を伴った監査を実施させる動機づけとして有効であり,併せてどのような監査が実施されたのかが明らかとなるため,ステークホルダーである株主にとって有用な資料となる。地方公共団体の監査委員の法的責任を明らかにするためにも,同通知書に相当する文書の,地方自治法における導入が強く望まれる。併せて,住民監査請求における監査請求期間の制限について,現行の1年から,民事規定も参考にして拡大すべきことを提言する。
著者
丸山 恭司
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.28, pp.57-68, 2018-03-31 (Released:2019-08-17)
参考文献数
8

自治体では不正経理が忘れた頃に発覚し,監査の実効性が問われてきた。自治体監査の実効性向上の一方策として監査業務の外部委託や共同化がある。わが国の都道府県,政令指定都市および中核市に対して監査組織の実態,外部委託および共同化の現状についてアンケート調査をした。監査組織については,民間企業の内部監査部門に比較して同等の人数が監査委員事務局に配属されていた。だが,監査実務経験年数が3年未満の監査担当職員が多く,会計や監査に係る専門的資格の保有者が少ないことが明らかとなった。外部委託については,公共工事の工事監査を外部委託する事例は,多数確認されたものの,会計専門職や監査法人に財務に関する監査業務を委託する事例は少なかった。共同化については,ほとんどの自治体で検討すらなされていないことが明らかとなった。自治体の会計基準や監査基準を民間企業に適用されている会計基準や監査基準に近づけるなどの環境整備,国からの財政的・技術的な支援が重要となる。
著者
丸山 恭司
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.115-126, 2020-03-31 (Released:2021-02-27)
参考文献数
19

地方自治法が改正され,地方自治体の監査委員監査において監査基準を設定することが明文化された。しかし,従来の監査委員監査では,各自治体において策定した監査基準で監査が行われており,改正後においても,監査委員自身が,自らの行為規範である監査基準を設定するとされている。これまでの監査基準と地方自治法改正で総務省が示している監査基準には大きな相違点がある。監査基準の運用状況や地方自治法改正前に市が準拠する都市監査基準の策定経緯を踏まえると,改正法により策定される監査基準では,監査人の懐疑心や独立性が強調されるべきである。また,専門性が十分でない小規模自治体の監査組織などを前提としたとき,例えば,行政監査の実施基準などについて,さらなる具体化を行う必要がある。町村などの小規模自治体であっても,公金の説明責任は,自治体の規模とは関係なく必要とされる。監査の品質確保は,すべての自治体において共通の課題である。監査品質の最低限について共通認識の醸成が今後の課題となる。
著者
松本 祥尚 町田 祥弘
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.115-125, 2014-03-31 (Released:2017-06-21)
参考文献数
18

わが国の四半期レビューは,国際レビュー基準やアメリカのレビュー基準と同様に,質問と分析的手続を中心としながらも,最終成果として業務報告書が強制されたり,継続企業の前提への対応が求められたり,といったわが国固有の特徴を有している。本研究では,そうした状況の下,わが国監査人が,実際に,いかなる対象項目にどのような手続を実施し,最終的にいかなる程度の保証水準を確保したと認識しているのかについて,四半期レビューの業務実施者である監査人(公認会計士)を被験者とする実験的調査を実施した。結果として,監査人は,業績の悪い企業では,主に基本的かつ必須の四半期レビュー手続である質問,分析的手続の実施にウェイトを置いているのに対して,業績の良い企業では,四半期レビュー手続を効率化して,実証手続にヨリ多くの監査資源を割いていることが明らかとなった。
著者
小松 義明
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.32-41, 2019

<p>世界的な経済危機以降,国際的な監査規範の設定主体,特に欧州委員会や国際監査・保証基準審議会(IAASB)は,監査報告の改革を加速した。また,イギリスやオランダは監査報告の改革にいち早く着手し,フランス,ドイツおよび米国,そして日本においても改革が進行している。本稿は,各国の監査報告制度の改革の動向を示し,監査報告制度の新しい構造の形成を明らかにするものである。検討の対象となるのは,監査上の主要な検討事項(KAM)の基準化の取り組みである。その前提には,監査報告書におけるKAMの情報が資本市場にとって有意味であり,その結果,監査の品質が高められることにある。考察の結果,各国がISA701を模範とし,EU加盟国は関係する規則を取り入れ,監査報告書の改革を進めている状況が明らかになり,全体として,各国の監査報告書の形式と内容上のきわめて密接な関連性をみることができる。</p>
著者
小松 義明
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.32-41, 2019-03-31 (Released:2019-09-04)
参考文献数
43

世界的な経済危機以降,国際的な監査規範の設定主体,特に欧州委員会や国際監査・保証基準審議会(IAASB)は,監査報告の改革を加速した。また,イギリスやオランダは監査報告の改革にいち早く着手し,フランス,ドイツおよび米国,そして日本においても改革が進行している。本稿は,各国の監査報告制度の改革の動向を示し,監査報告制度の新しい構造の形成を明らかにするものである。検討の対象となるのは,監査上の主要な検討事項(KAM)の基準化の取り組みである。その前提には,監査報告書におけるKAMの情報が資本市場にとって有意味であり,その結果,監査の品質が高められることにある。考察の結果,各国がISA701を模範とし,EU加盟国は関係する規則を取り入れ,監査報告書の改革を進めている状況が明らかになり,全体として,各国の監査報告書の形式と内容上のきわめて密接な関連性をみることができる。
著者
一ノ宮 士郎
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.21, pp.103-111, 2011-03-31 (Released:2017-05-04)
参考文献数
22

デジタル分析は,Benfordの法則を応用したデータマイニング手法であり,財務数値のみならず,自然科学分野での実験データの信ぴょう性検証にも使用されている。会計監査分野では,不正検出等のツールとして活用され,海外での研究発表は数多い。知名度は高いにもかかわらず,我が国では先行研究も少なく,比較的なじみが薄い。本稿は,分析的手続きの一環としてのデジタル分析の適用可能性を実験的に検証したものである。数値の上1桁・2桁目を対象とする通例の手順に加え,追加的な分析手順を実施した点も,本稿の特色であろう。デジタル分析には,一定の限界があるものの,手法としての簡易性等を踏まえ,実務での活用を期待したい。
著者
中村 元彦
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.28, pp.30-36, 2018-03-31 (Released:2019-08-17)
参考文献数
14

会計監査において,ITの利用はすでに一般的となってきている。例えば,CAATを利用した仕訳テストなど,精査的な手法での利用は広く実施されているが,定型的な業務が中心である。見積りの監査へのITの活用は,貸倒・賞与引当金などの見積りの不確実性に関して,客観的な評価方法やデータが利用可能で主観性が少ない場合は実施されているが,繰延税金資産の回収可能性など主観性が強い場面におけるITの適用は,必ずしも深い利用に至っていない。AI(人工知能)などの技術を監査においても取り込むべきであり,特に主観性が強い場面において,監査人の判断に資する情報を提供することは有用である。また,過去データ,外部データ,非財務情報の活用も有用である。さらに,監査のリアルタイム化と監査における付加価値の提供も実現可能と考える。但し,被監査会社から提供される情報の信頼性,被監査会社におけるITの活用状況,データの標準化と守秘義務の問題が課題となっている。
著者
榎本 成一
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.19, pp.50-56, 2009-03-31 (Released:2016-05-09)
参考文献数
7
著者
林 隆敏
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.32, pp.54-64, 2022-03-31 (Released:2023-09-02)
参考文献数
12

日本の上場会社が公表する非財務情報(およびその基礎にある企業活動)に対して実施されている保証業務の実態を把握し,研究課題を明らかにすることを目的として,TOPIX100構成銘柄発行会社を対象として非財務情報保証業務の実施状況を調査し,入手した94件の保証報告書を分析した。確認した非財務保証業務のほとんどは,国際会計士連盟の枠組みまたはそれに準じる枠組みに準拠したサステナビリティ情報(数値)の基準準拠性または算定の正確性等に関する保証業務であるが,業務実施者ごと,あるいは業務実施基準ごとに特徴的な保証業務も確認された。現行実務の分析結果に基づき,国際会計士連盟の枠組みとは大きく異なるAA1000保証基準に準拠したAA1000アカウンタビリティ原則への準拠性・適合性の保証業務との対比を通じて,記述情報を含む報告書全体の基準準拠性や表示の適正性等の保証に関する研究課題を提示した。
著者
酒井 絢美
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.103-114, 2014-03-31 (Released:2017-06-21)
参考文献数
21

本稿の目的は,監査人の交代という情報の公開が被監査企業の資本市場における評価に対してどのような影響を及ぼすかについて検証することである。本稿で取り上げるのは,株主総会の普通決議を経ず期中に監査人の交代があり,それに伴って一時会計監査人が選任される(期中交代)ケースである。期中交代は,米国にはない日本の監査人交代の大きな特徴の1つであるが,投資家にとってはBad Newsとなる可能性がある。そこで本稿では,累積異常リターン(CAR)を用いて期中交代と通常の交代との比較を行い,期中交代が被監査企業の株価にどのような影響を与えるかについて検討した。その結果,資本市場は通常の交代よりも期中交代についてよりネガティブに反応することを示唆する証拠が得られた。すなわち,期中交代という情報は投資家にとってネガティブな情報価値を有しており,ネガティブな投資行動を引き起こす要因となり得ることを意味している。
著者
小林 靖
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.22, pp.61-65, 2012-03-31 (Released:2017-05-14)
参考文献数
2

監査には,批判的機能と指導的機能があると言われるが,比較的規模の小さな中堅企業にとっては指導的機能が重要である。それはこの領域の企業の経理能力は大企業のそれに比較して低い傾向があり,公認会計士の助言・指導を必要としているからである。公認会計士の助言・指導について,公認会計士側の認識と企業側の認識にズレがあることがある。企業側の考える助言・指導業務に傾倒しすぎる場合,依頼人に対する非保証業務の提供に抵触する可能性があり,事実公認会計士法に基づく処分事例が出ているところである。我々公認会計士は,監査の指導的機能に対するこの期待ギャップを克服し,企業側に十分な説明と理解を求め,強い信念をもって,独立性を保持し指導的機能を発揮していかなければならない。
著者
島 信夫
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.25, pp.182-190, 2015-03-31 (Released:2017-07-15)
参考文献数
19

会計監査人の損害賠償責任の有無をめぐる判例では,委任の規定が適用される会計監査人の法的立場を重視した判断を下してきた。その法理を示すために,①会計監査人が受任した監査証明の内容を定める判決の手続き,②会計監査人が受任した監査証明を合理的に履行するのに必要な善管注意義務の水準を定める手続きおよび③「二重責任の原則」の下での会計監査人の損害賠償責任の範囲を確定する手続きから検討を加えてきた。その特徴は,権威ある基準等に範を求めて監査証明の一般的性質を明らかにしつつ,会計監査人に明白に瑕疵が認められる場合に善管注意義務違反による法的責任を認める立場を判例は採り続けている。また「二重責任の原則」の適用をめぐる判例には検討の余地があるものの,会計監査人の法的責任をめぐる判例の立場は,法の趣旨を実現するものといえる。
著者
紺野 卓
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.176-187, 2017

<p>地方公共団体のステークホルダーである住民の目を,いかにして行政運営に役立てるか,その一つの鍵となるのが住民監査請求である。住民からの適正な監査請求は,行政のムダをなくし,効率的な組織運営に寄与すると考える。しかしながら,仮に適正な監査請求がなされたとしても,監査請求を受ける監査委員の対応が不適当である場合には,同請求は組織の改善等には役立たない。もしも監査請求に際して,監査委員の適当とはいえない対応が見られる場合には,監査委員には法的ペナルティーも検討されるべきである。本稿では,監査委員の法的責任追及の可能性について,これまでの議論を踏まえて概観するとともに,同責任を明確化する目的で会社法の規定を参考とする。特に会社法で規定する「不提訴理由通知書」は,株主からの請求に対して,株式会社の監査役に実効性を伴った監査を実施させる動機づけとして有効であり,併せてどのような監査が実施されたのかが明らかとなるため,ステークホルダーである株主にとって有用な資料となる。地方公共団体の監査委員の法的責任を明らかにするためにも,同通知書に相当する文書の,地方自治法における導入が強く望まれる。併せて,住民監査請求における監査請求期間の制限について,現行の1年から,民事規定も参考にして拡大すべきことを提言する。</p>
著者
松﨑 堅太朗
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.99-110, 2017-03-31 (Released:2017-08-15)
参考文献数
25

調整(コンピレーション)業務は非保証業務であるが,会計士が財務諸表に一定の信頼性を付与する業務として,諸外国では主として中小企業を対象に広く実施されている。わが国には調整業務に関する基準は存在しないが,2012年3月にIFACより,ISRS4410(調整業務に関する基準書)が公表され,今後の国内基準化も期待される。また,AICPAは2014年10月に,調整業務を含む最新の業務基準書,SSARS No.21を公表したが,ISRS4410とSSARSにおける調整業務は,会計士の独立性の違いにより,報告書(レポーティング)の記載内容が異なっている。一方,わが国では,調整業務に類似する業務として,会計参与報告,税理士による書面添付制度,中小会計要領(中小指針)のチェックリストの添付といった実務がすでに定着しているが,国際的な調和は図られていない。このような事実をふまえ,今後,わが国の中小企業の属性に配慮した,「中小企業の財務諸表作成証明制度」といった,新たな調整業務に関する基準作成が望まれる。
著者
甘粕 潔
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.20, pp.26-34, 2010

日本公認会計士協会が財務諸表監査における不正への対応指針として示した監査基準委員会報告書第40号は,「不正リスク要因」すなわち「不正に関与しようとする動機やプレッシャーの存在を示す,又は不正を実行する機会を与える事象や状況」の識別を重視している。不正リスク要因は,米国の犯罪学者クレッシーによる横領の発生要因に関する仮説に基づく概念である。クレッシーの仮説は,横領は信頼に背く行為であり,不正リスク要因は個々人の主観的認知により生じるなど,監査人が不正への対応力を高めるうえで有効な示唆を与える。不正は意図的に隠ぺいされ,その発見は容易ではない。そのため,不正対策の要点は,的確なリスク評価に基づく未然防止にある。監査人は,不正リスク要因の理解に裏打ちされた想定力・察知力・質問力を高めるとともに,不正防止・発見への対応強化に向けて,他の関係者との連携をより積極的に図らなければならない。
著者
小澤 義昭
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.23, pp.132-142, 2013

<p></p><p>近年,欧米を中心に職業的懐疑心の在り方が改めて問われており,規制当局と監査事務所の間で議論が重ねられている。この職業的懐疑心に係る議論の内容を公表されている資料等に基づき,時系列的に規制当局の立場と監査事務所側のそれぞれの立場から,英国の議論を中心に整理を行った。そして,規制当局が何をもって監査事務所の職業的懐疑心の欠如を憂慮し,どのような改善を求めているのか,それに対して,監査事務所はどのように反論し,グローバルベースでどのように対処しようとしているのかについて考察を行った。更に,この目に見えない職業的懐疑心に対して,規制当局は具体的にどのような実務的対応を監査人,監査チーム及び監査事務所に求めているのかを見ていくことにより,規制当局が求めている「正しい職業的懐疑心の発揮」とは何かを 筆者の35年間の監査実務経験を踏まえて,明らかにしていった。そして,最後に我が国監査実務に与える影響について検討した。</p>