著者
川村 覚昭
出版者
京都産業大学教職課程講座センター
雑誌
京都産業大学教職研究紀要 (ISSN:18839509)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.13-29, 2008-03

今日、我が国の人間形成は、不透明感を増している。このため、教職教育の原理も明確ではないが、それは、近代教育を支えている思惟構造に根本的な原因があると考えられる。その思惟構造は、基本的に近代世界を支えるものであり、教育によって強化されていくが、本稿では、その思惟構造と、それを生み出す背景、即ち文化に注目して近代の人間形成の問題を明らかにした。 その際、現代哲学の重要な方法論である現象学を使い、我が国の近代化の過程で忘却されてきた東洋的思惟、特に西田哲学が明らかにした主客未分の論理が、これからの人間形成と教職教育を考える重要なファクターになることを明らかにした。
著者
植松 茂男
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学教職研究紀要 (ISSN:18839509)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.19-42,44, 2011-03
被引用文献数
2

本編では、小学校英語活動を特区として既に導入している大阪府寝屋川市内で、それがどのように中学生の英語スキルと情意面に影響を及ぼしているのかを4 年間継続調査する科研費研究の3 年目の中間報告をする。語彙・文法、リーディング、リスニングからなる英語力指標テストとインタビューテストを併用して英語力を測定するとともに、23 項目からなる情意アンケートも併せて実施し、小学校英語活動の長期的効果の検証を試みている。つまり、小学校英語活動の開始学年や履修時間が変われば英語力や情意にどのような影響を及ぼすのかを、中学1 年生、2 年生、3 年生の各学年で毎年調べることによって知ろうとする研究である。最終年度の2010 年度調査(2011 年3 月)を目前にして、これまでの流れと発見をまとめてみた。2009 年度終了時(2010 年3 月)に得られたデータを2007 年、2008 年分と比較分析した結果、小学校英語活動開始学年が下がり、履修時間が増えるにつれて、中学1 年生では全ての英語力指標テストの結果が向上していることがわかった。また、中学2 年生のみで実施しているスピーキングテストに於いては、そのスコアが毎年統計的有意に向上している。一方、情意面では履修時間にかかわる統計的な差は検出できなかった。
著者
西川 信廣 前馬 晋策
出版者
京都産業大学教職課程講座センター
雑誌
京都産業大学教職研究紀要 (ISSN:18839509)
巻号頁・発行日
no.1, pp.47-61, 2006-03

1999年に制定された「地方分権一括法」により、教育行政の地方分権化も促進される事が期待されている。しかし、実態は行政的分権のレベルに留まり、財政的分権、立法的分権は遅々として進まないという現状である。教育改革が学校レベルまで浸透したものになりにくいことの理由の一つがここにある。 教育、とりわけ義務教育は本来地域と子どもの実態に応じた柔軟で創意工夫溢れるものでなければならない。そのためには、地方政府のリーダーシップに基づく地方による地方のための改革が進められる必要がある。本論は、大阪府摂津市の教育改革への取組を取り上げ、教育改革における地方教育委員会の果たしうる役割について考察する事を目的としている。摂津市は教育長のリーダーシップのもと、「せっつ・スクール広場」「学校経営研究会(管理職対象)」「教育フォーラム」「学力実態調査」等々の施策を展開し、積極的な教育改革を展開している。取組から3年を経過した現在は、それらの取組の成果に対する評価(check)の段階でもある。 摂津市と京都産業大学は平成 16年3月に包括連携協定を締結し、摂津市立小中学校の教員研修や校内研修会への本学教員の派遣や、摂津市教育委員会指導主事による本学教職課程履修者に対する講座開催等の協力関係が構築されている。本論もその連携活動の一環に位置付くものである。本論は5章構成であり、第1章、第5章は西川信康が、第2章、第3章、第4章は前馬晋策がそれぞれ分担執筆した。
著者
ギリス・フルタカ アマンダ・ジョアン
出版者
京都産業大学教職課程講座センター
雑誌
京都産業大学教職研究紀要 (ISSN:18839509)
巻号頁・発行日
no.4, pp.17-40, 2009-03

世界中の学校でいじめはおきている。近年メディアでは、日本の学校における行き過ぎたいじめの事例が大きな注目を集めている。子供たちがいじめを行う原因は多くある。日本のように集団と同ーの基準をもつことが求められる集団的社会で、最もー般的ないじめの対象は、多数派とは明らかに違う子供である。外国人労働力の規模拡大と国際結婚の増加に伴い、民族的、文化的、言語的に日本人の同級生とは異なる背景をもつ子供の割合が増加している。こうした子供たちは、日本の学校の生徒、教師集団、管理運営の中で、おのずといじめの対象になる。本稿は2007年9月に行われたフォーラムで紹介された証拠と、新規に立ち上げられたネットワーク「いじめゼロ」で収集された証拠に基づいて、現在のいじめ状況を検証するものである。著者は人種の違いへの理解を深め、寛容さをはぐくみ、非日本人生徒を対象とするいじめ傾向を減らすために、いくつかの教育上のアプローチと教材を推薦する。
著者
日野 純一
出版者
京都産業大学教職課程教育センター
雑誌
京都産業大学教職研究紀要 (ISSN:18839509)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.19-49, 2016-03

近年の科学技術の進展のスピードは著しく、テクノロジー格差が人類の富の格差を生み、人類の幸不幸さえ決めている感がある。人間にとって科学技術の在り方がこれほど問われる時代はない。さらに大規模な自然災害や地球温暖化、エネルギー、食糧、水資源等にまつわる問題は、世界各国が協調、協力して英知を生み出し取り組まなければならない人類的課題である。阪神淡路大震災や東北大震災、福島原発事故問題を経験した我が国にとって、こうした人類的課題へ挑戦することが、我が国の科学技術の使命であり、世界の平和・共生に貢献するものであると考えられる。我が国がこうした使命を自覚し、これからも科学技術創造立国として持続可能な発展を続けるためには、小・中・高等学校における日本の理科教育を常に検証し、発展させていく必要がある。京都産業大学が創立50周年を迎えるにあたり、理学部に宇宙物理・気象学科を新設する。高等学校理科教育の中で最も低迷していると指摘されている物理・地学分野における教育の底上げに向けた取り組みに期待したい。 また次期学習指導要領の改訂骨子案では、従来の数学と理科の枠を超え、双方の知識や技能を総合的に活用する新たな選択科目「数理探究」を高等学校で創設するとも言われている。 そこで今一度公教育として行われてきた日本の理科教育の変遷を振り返るとともに、これからの理科教育の展望について考察してみる。
著者
西村 佳子 村上 恵子
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学教職研究紀要 (ISSN:18839509)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.49-74, 2008-03

本稿の目的は、わが国の中学校・高等学校で行われている金融教育の現状と課題を明らかにした上で、大学生361名を対象として実施した記述式アンケート調査をもとに、学校における金融教育の進むべき方向について考察することである。アンケート調査では、ほとんどの学生が、高等学校卒業期までの金融知識の水準のままで社会に出ることに不安を感じていることが示される。特に、年金保険制度や健康保険制度の詳細な知識、多重債務をかかえないための知識、金融商品の特性やリスクとリターンの関係についての知識が不足しており、ローンや預貯金金利の単利や複利の計算についても理解する必要があると考えていることが明らかになる。リスクと冷静に向き合う道具として、金融に関する基礎知識を効率的に習得できる時期は、ほとんどの国民が就学している高等学校までの時期である。現段階では共通の到達目標を持っているとは言い難い学校関係者と金融業界が協力し、学校教育にふさわしい教育内容についての議論を深め、さらには優れた教材の開発を行うことができれば、時代の要請に応じた国民の金融知識の向上や意志決定能力の向上が期待できる。