著者
西山 孝樹 知野 泰明
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集D2(土木史) (ISSN:21856532)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.11-21, 2012
被引用文献数
2 1

江戸幕府の河川技術流派である"紀州流"の出所である和歌山県,その北部を西流する紀の川両岸は河岸段丘が拡がり,近世初頭まで溜池と紀の川に注ぎ込む中小河川に堰を設けて灌漑が行われて来た.本研究では,"紀州流"の原点を見出すことを最終目的とし,紀の川上・中流域において荘園が形成された11世紀末以降から近世中期までの灌漑水利の変遷について研究を行った.本研究の結論として16世紀頃から荘園制度が消滅していき,近世初頭の応其上人による溜池の築堤や改修,紀州藩の事業として紀の川の堤防築堤や用水路開削が行われ,紀の川に対して横断方向の開発から本格的に大規模な縦断方向の新田開発へ転化していったことが明らかとなった.
著者
山口 敬太 田中 倫希 川崎 雅史
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D2(土木史) = Journal of Japan Society of Civil Engineers, Ser. D2 (Historical Studies in Civil Engineering) (ISSN:21856532)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.39-54, 2015
被引用文献数
3

本研究は,戦前の大津における都市計画街路と湖岸埋立及び遊覧施設計画の内容と策定意図,実現過程を明らかにし,これらを通じて近代大津の都市建設の理念,実現の手段と主体のはたらきを明らかにするものである.大津では明治末年以降,市会を中心に湖岸埋立・道路整備構想が数度立案され,昭和初期には琵琶湖の風致整備を基軸とした近代的「遊覧都市」の建設という理念が確立し,このもとに都市計画街路網・埋立計画や遊覧施設計画が策定された.これらの計画は名勝地の連絡による遊覧交通系統の充実と,遊覧施設や湖岸の風致の整備を意図したものであった.湖岸埋立と逍遙道路は公有地の売却益による事業収入をもとに戦前から戦後にかけて実現した.これは市,県の遊覧都市建設という理念の共有に基づいた長期にわたる協働的推進によるものであった.
著者
山中 孝文 田中 尚人 星野 裕司 本田 泰寛
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D2(土木史) (ISSN:21856532)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.82-95, 2012 (Released:2012-08-20)
参考文献数
27

熊本大学工学部の前身である第五高等学校工学部,のちの熊本高等工業学校は1897(明治30)年,1906(明治39)年に実業専門学校として設立された.上記の学校の卒業生は高等専門学を教授され,工学得業士の称号を授与された.本研究では,まず土木分野における五高工学部・熊本高工の位置づけを整理し,実社会における工学得業士の割合を示した.さらに,卒業時点の進路と勤務先の変遷に関するデータベースを作成することにより,工学得業士の主な勤務先が地方官庁だったことを明らかにした.最終的に,地方官庁の勤務者を抽出してその就業状況について分析することにより,その特徴を考察した.
著者
松木 洋忠 江崎 哲郎 三谷 泰浩 池見 洋明
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D2(土木史) (ISSN:21856532)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1-8, 2011 (Released:2011-08-19)
参考文献数
27
被引用文献数
1

河川流域の土地利用は過去の人間の働きかけの蓄積である.本論は,遠賀川の河川・流域の特性を理解するため,人為的開発が始まった古代の土地開発の変遷を把握しようとするものである.検討にあたっては,地質と地形による基本的な自然条件を整理した上で,縄文時代,弥生時代,古墳時代の各時代の最先端の土木施工技術を勘案しながら,遺跡等の分布と考古学的な研究成果に解釈を加えている.分析の結果,弥生時代の木製の鍬と鋤,古墳時代の鉄製刃先は,水田稲作の伝来以来,沖積地の開発に寄与したといえる.そして開発の対象地は,古墳時代までの土木施工技術に発達に伴って,干潟周辺の低平地から,上流の盆地や源流域に移っている.このような古代の土地開発の歴史は,今後の河川・流域管理を考える上で考慮するべき情報である.