著者
早坂 信哉 三橋 浩之 亀田 佐知子 早坂 健杜 石田 心
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
pp.202142G07, (Released:2021-02-09)
参考文献数
13

背景・目的 一般公衆浴場である銭湯を定期的に利用する者は幸福度が高いなどの心身への関連をこれまで筆者らは横断研究で報告してきた。銭湯は浴槽が複数あり温水単体による通常入浴の他、冷水浴を用いた温冷交代浴をしやすい環境にあるが、銭湯におけるこれらの入浴の効果を測定した研究は少ない。本研究では銭湯における通常入浴及び温冷交代浴の心身への影響を介入研究によって明らかにすることを目的とした。方法 同一被験者内前後比較試験として、成人男女10名を対象に、銭湯で通常入浴 (40℃10分全身浴)、温冷交代浴(40℃3分全身浴→25℃1分四肢末端シャワー浴(2度繰り返し)→40℃4分全身浴で終了)をそれぞれ単回行い、入浴前後で16項目の心身の主観的評価項目、体温、唾液コルチゾール、オキシトシンを測定した。結果 前後比較では、心身の主観的評価項目では通常入浴は幸福感など11項目、温冷交代浴では13項目が入浴後に好評価となった。通常入浴では唾液コルチゾールが入浴後に有意に低下し(p=0.005)、前後の変化量は群間比較で温冷交代浴と比べて通常入浴が大きかった(p=0.049)。考察 通常入浴、温冷交代浴とも心身への主観的評価は入浴後に好評価となりいずれの入浴法でも心身へ良い影響を与えることが推測された。温冷交代浴の優位性が報告されることがあるが、本研究では通常入浴でも好影響が確認できた。
著者
田村 優樹
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.39-45, 2017 (Released:2019-10-19)
参考文献数
13

【背景と目的】我々は、世界に先駆けて、温熱刺激が生体の骨格筋ミトコンドリアを増加させることや、外傷性神経損傷や老齢による骨格筋ミトコンドリアの機能不全を温熱刺激が改善することを明らかにした。本研究では温熱刺激によって骨格筋ミトコンドリアの量および機能が向上する分子メカニズムの解明を目指して、仮説「一過性の温熱刺激は、ミトコンドリア関連遺伝子の転写過程を活性化する」を検証した。本研究の仮説が支持されたため、さらなる上流制御因子として、がん抑制遺伝子としても知られているp53が関与した可能性も検証した。【方法】本研究では、マウス(ICR, 8週齢, 雄性)を対象に暑熱環境への曝露による温熱刺激を与え、温熱刺激直後および温熱刺激3時間後に腓腹筋を摘出した。腓腹筋を対象に細胞分画の単離、mRNA発現量の測定、タンパク質量の測定などの生化学分析を行った。【結果と考察】本研究では、温熱刺激3時間後にミトコンドリア関連遺伝子群が増加することを明らかにした。ミトコンドリア関連遺伝子が増加したメカニズムを探るために、がん抑制遺伝子とも知られているp53が温熱刺激によって活性化した可能性を検証した。その結果、温熱刺激によるp53の活性化(リン酸化、細胞質から核およびミトコンドリアへの移行)は認められなかった。温熱刺激によってp53が活性が変化しなかった理由として、p53を活性化する上流因子であるp38 MAPKが温熱刺激によって活性化したものの、AMPKが温熱刺激によって不活性化したことが原因と考えられる。【結論】本研究では、一過性の温熱刺激によってミトコンドリア関連遺伝子が増加することを明らかにした。また、そのメカニズムとして、がん抑制遺伝子としても知られているp53は関与しない可能性が示唆された。
著者
木村 美也子 尾島 俊之 近藤 克則
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
pp.20200602, (Released:2020-06-02)
参考文献数
51

背景・目的 新型コロナウイルス感染症がパンデミック(世界的な大流行)となり,外出や人との交流が難しくなっている.こうした状況の長期化は,閉じこもりや社会的孤立の増加につながりうるが,それによる健康への弊害にはどのようなものが予想されるであろうか.本稿では,日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study: JAGES)で蓄積されてきた研究から,高齢者の社会的行動と健康に関する知見を概括し,新型コロナウイルス感染症流行時の高齢者の健康の維持・向上に望ましい生活への示唆を得ることを目的とした.方法 JAGESによる研究の中から,高齢者の社会的行動と健康の関連を示した46件の論文(2009年~2020年発表)を抽出し,その知見を概括し,新型コロナウイルス感染症流行時に可能な健康対策について考察した.結果 介護,認知症,転倒,うつなどを予防し,高齢者の健康を維持・向上するためには,外出や他者との交流,運動や社会参加が重要であることが示された.それらの機会が制限されることで,要介護,認知症,早期死亡へのリスクが高まり,また要介護状態も重症化することが予測された.考察 社会的行動制限は感染リスクを抑えるために必要なことではあるものの,健康を損なうデメリットもあるため,感染リスクを抑えつつ,人との交流,社会参加の機会を設ける必要があると考えられた.密閉,密接,密集を回避しつつ,他者との交流を続けることで,感染リスクと将来の健康リスクが減じ得るだろう.
著者
久田 孝
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.22-29, 2018 (Released:2019-10-26)
参考文献数
8

背景・目的 日本国内の沿岸地域で、海藻風呂、特にカジメ風呂が伝統的に利用されてきた。カジメ類はミネラル、海藻ポリフェノール含量が高く、機能性食品の素材として非常に有望である。これらの機能性成分は海藻風呂でも有効と考えられるが、まだ詳細な検討はされていない。そこで本研究では、これらの機能性成分について、海藻風呂濃度での生理活性を明らかにすることを目的とした。方法 文献やウェブ情報より全国で海藻風呂を提供している機関、使用法、現地の様子を調査した。乾燥アラメEisenia bycyclisの熱水抽出液について、海藻風呂濃度における表皮菌数、肌水分に及ぼす影響、また抗酸化特性を検討した。結果 千葉県、茨城県、三重県、石川県などでカジメ風呂が提供されており、太平洋側ではアラメが多く使用されている。アラメ風呂の濃度において、粘度、抗菌性、肌水分に及ぼす影響は顕著ではなかったが、抗酸化性、特にスーパーオキシドアニオン (O2-) ラジカル消去能は顕著であった。考察 O2-ラジカルは生体内で最初に発生する活性酸素で、その抑制が活性酸素による様々な損傷から細胞を保護すると考えられている。今回示されたカジメ風呂濃度でも十分にその機能が期待できることから、今後、表皮における O2-ラジカル消去能が実際の肌および身体全体の健康に及ぼす影響について検討する必要がある。