著者
笠井 純一 笠井 津加佐 Kasai Junichi Kasai Tsukasa
出版者
金沢大学大学院人間社会環境研究科
雑誌
人間社会環境研究 = Human and socio-environmental studies (ISSN:24360627)
巻号頁・発行日
no.42, pp.245-261, 2021-09-30

本稿は、北の新地で行われた春の踊や温習会に関わる、大正期から昭和初期の書信を紹介するものである。全て北の新地の経営者であった佐藤駒次郎が受信したものであり、大阪大空襲で湮滅したと考えられてきた大阪花街の史料として希少価値を持つだけでなく、築地小劇場、花柳舞踊研究会、新舞踊運動など全国規模で展開された文化・芸術活動と花街の関りを伝えるものとしても貴重である。演劇・舞踊・文学・美術・音楽などの文化と、社会との関係を考えるための史料として、広く公開したい。紙数の関係から二回に分載し、本稿(下)では、北陽浪花踊と直接関係しない発信者の書信を翻刻・紹介する。
著者
白石 佳和 SHIRAISHI Yoshikazu
出版者
金沢大学大学院人間社会環境研究科
雑誌
人間社会環境研究 = Human and socio-environmental studies (ISSN:24360627)
巻号頁・発行日
no.42, pp.49-65, 2021-09-30

季語は日本の自然を詠むための詩語であり,和歌以来の伝統的な詩的感覚・文化的記憶の産物である。そのため,自然・言語・文化が異なる国際ハイク(注:国際化した俳句を「ハイク」とカタカナで表記)では季語があまり重視されてこなかった。しかし,季語がなければハイクはただの短詩になる可能性がある。本論文では,国際ハイクにおける季語の問題を検討する。その考察材料として,ブラジルハイカイ(ブラジルではポルトガル語の俳句を「ハイカイ」と呼ぶ)における増田恆河の活動を取り上げる。ブラジルハイカイで有季ハイカイを提唱した増田恆河の論考とポルトガル語歳時記を分析し,それを国際ハイクのオーセンティシティの一例として考察する。増田恆河は,季語を詠むハイカイこそが本格的ハイカイであると主張し,有季ハイカイを推奨した。日本と同じ季語もブラジル特有の季語も,ブラジルの自然を詠むならすべてブラジル季語である,という論を展開し,理論に沿って兼題の句会の開催や有季ハイカイ句集の刊行を行なった。また,『NATUREZA』というポルトガル語歳時記の作成では,理論通りブラジルの感覚の季語を選定し,「詩情」や「感覚」などのポイントに基づいて解説を行なっている。ただ,日本的な解説やブラジル的でない解説も交じることから,季語解説の苦労が読み取れる。このような彼の理論と実践がブラジルハイカイのオーセンティシティを形成している。ブラジルハイカイの例からもわかるように,北米・南米には日系俳句という日本語の国際ハイクの存在がある。国際ハイクをすべて一様に扱うのではなく,日本俳句,日本語ハイク,国際ハイクをスペクトラムとして捉える視点も必要である。また,季語のオーセンティシティを語る要素の一つとして,俳句の起源である連句が指摘できる。
著者
高橋 律子 TAKAHASHI Ritsuko
出版者
金沢大学大学院人間社会環境研究科
雑誌
人間社会環境研究 = Human and socio-environmental studies (ISSN:24360627)
巻号頁・発行日
no.41, pp.33-47, 2021-03-31

This cultural sociological study analyzes the meaning of "sewing" as a technique of expression in contemporary art from a gendered perspective. Sewing has been regarded as a technique mainly used by women. This study explored the relationship between gender bias and femininity, rather than looking at sewing. There are three types of techniques: three-dimensional soft sculpture, two-dimensional embroidery, and collage, which is a patchwork-like technique of sewing cloth to cloth. As a result of its incorporation into the context of sculpture, soft sculpture was often created by male artists, while embroidery tended to be a female habitus and was often created by female artists or with gender considerations in mind. The analysis of cloth as a "collage" is an issue for future work in terms of its relevance to clothing and the affinity of the collage technique with women, which is not limited to cloth. In addition, as the concept represented by sewing, this study highlighted four important themes as art that confronts contemporary society: gender, community/communication, time and memory, and life and death. By examining contemporary art with the sewing along the vertical axis, I was able to see the sawing as a technique that women were able to acquire as a predominantly women's work or hobby as well as from the perspective of the socially vulnerable. Sewing is highly flexible and has both two- and three-dimensional qualities. It is a primitive technique that is close to our daily life, and the technique itself contains various messages. It seems to me that the failure to look at sewing as a handicraft objectively has been a matter of criticism, not for the creator. While accepting the fact that it was a woman's handicraft and hobby, I feel the need to explore more of its potential as an art technique.
著者
白石 佳和 SHIRAISHI Yoshikazu
出版者
金沢大学大学院人間社会環境研究科
雑誌
人間社会環境研究 = Human and socio-environmental studies (ISSN:24360627)
巻号頁・発行日
no.42, pp.49-65, 2021-09-30

季語は日本の自然を詠むための詩語であり,和歌以来の伝統的な詩的感覚・文化的記憶の産物である。そのため,自然・言語・文化が異なる国際ハイク(注:国際化した俳句を「ハイク」とカタカナで表記)では季語があまり重視されてこなかった。しかし,季語がなければハイクはただの短詩になる可能性がある。本論文では,国際ハイクにおける季語の問題を検討する。その考察材料として,ブラジルハイカイ(ブラジルではポルトガル語の俳句を「ハイカイ」と呼ぶ)における増田恆河の活動を取り上げる。ブラジルハイカイで有季ハイカイを提唱した増田恆河の論考とポルトガル語歳時記を分析し,それを国際ハイクのオーセンティシティの一例として考察する。増田恆河は,季語を詠むハイカイこそが本格的ハイカイであると主張し,有季ハイカイを推奨した。日本と同じ季語もブラジル特有の季語も,ブラジルの自然を詠むならすべてブラジル季語である,という論を展開し,理論に沿って兼題の句会の開催や有季ハイカイ句集の刊行を行なった。また,『NATUREZA』というポルトガル語歳時記の作成では,理論通りブラジルの感覚の季語を選定し,「詩情」や「感覚」などのポイントに基づいて解説を行なっている。ただ,日本的な解説やブラジル的でない解説も交じることから,季語解説の苦労が読み取れる。このような彼の理論と実践がブラジルハイカイのオーセンティシティを形成している。ブラジルハイカイの例からもわかるように,北米・南米には日系俳句という日本語の国際ハイクの存在がある。国際ハイクをすべて一様に扱うのではなく,日本俳句,日本語ハイク,国際ハイクをスペクトラムとして捉える視点も必要である。また,季語のオーセンティシティを語る要素の一つとして,俳句の起源である連句が指摘できる。
著者
小西 洋子 木越 隆三 黒田 智 室山 孝 吉田 航志 Konishi Yoko KIGOSHI Ryuzo Kuroda Satoshi MUROYAMA Takashi YOSHIDA Kazushi
出版者
金沢大学大学院人間社会環境研究科
雑誌
人間社会環境研究 = Human and socio-environmental studies (ISSN:24360627)
巻号頁・発行日
no.42, pp.227-243, 2021-09-30

小松称名寺所蔵『烏兎記』は、小松勝光寺十一代住職周好による、明和六年(一七六九)一年分の日記である。特に「小松寺庵騒動」に関する史料として知られている。また、周好が日々伝え聞いた話が書き留められており、小松町周辺のみならず、大聖寺・越前の出来事など、その内容は多岐にわたる。 本史料の従来の翻刻は誤脱もあるため、改めて全文を翻刻し、紹介する。翻刻により、多くの研究者の利用に資したい。本稿は六回目であり、今回をもって完結となる。
著者
KASAI Junichi KASAI Tsukasa
出版者
金沢大学大学院人間社会環境研究科
雑誌
人間社会環境研究 = Human and socio-environmental studies (ISSN:24360627)
巻号頁・発行日
no.43, pp.133-147, 2022-03-31

本稿は、阪口祐三郎(一八八四~一九六一)が残した「大和屋技芸学校」の稽古帳を翻刻・紹介するものである。祐三郎は大阪市南区(現中央区)の芸妓扱店(置屋)大和屋の経営者であったが、明治四三年(一九一〇)、妻のきみと共に五年制の「大和屋芸妓養成所」を設立し、武原はん他の優れた芸妓を育てた。大和屋が属した大阪南地五花街では、すでに明治三〇年に芸妓の技能試験を始めていたが、祐三郎の企画は花街の近代化を一層推進するものであった。 「大和屋技芸学校」は大阪府の認可を受け、戦前の衣鉢を継いで昭和二五年(一九五〇)から生徒を募集した。この「稽古帳」は戦後の芸妓教育の実情を示すだけでなく、戦前期「大和屋芸妓養成所」のそれを髣髴させるが、芸妓教育のカリキュラムとして他に類を見ない貴重な史料である。現所蔵者・阪口純久氏(祐三郎長女)の許可を得て、ここに公開する。