著者
岡田 重文 森川 尚威 佐藤 幸男 土屋 武彦 酒井 一夫 二階堂 修
出版者
京都大学
雑誌
エネルギー特別研究(核融合)
巻号頁・発行日
1985

本計画研究は、トリチウム各種化学形の中、ヒトに最も取り込まれ易く、障害の主役と考えられるトリチウム水に絞り、それによる障害の研究をヒトを念頭におきながら推進しようとするもので、本年度は3ケ年計画の第2年度となる。1.トリチウム安全取り扱い法:トリチウム実験においてインベントリィ(回収トリチウム/使用トリチウム比)を取るには手間がかかるが、システムさえ作ればルーチンで行え、トリチウムのR工管理の鼎ともなる。トリチウム水の廃棄は、コンクリート・バーミキュライトによる固化法を開発し始めた。2.障害のメカニズムの研究:トリチウム水による細胞死のRBEはDNAの修復不能切断で説明できそうである。ハムスター胚細胞のがん化及びそのRBEは、染色体異常中の染色体異数性(トリソミイ、モノソミイ)と関連を示している。低濃度トリチウムによる前処理はハムスター細胞を放射線誘発SCE、小核形成に対し修復系を活性化し低抗性にする。マウス個体ではトリチウム水前処理により、免疫能の増加が見られた。3.RBE:ヒト細胞;繊維芽細胞、1.4,甲状線細胞、1.7-2,末梢血淋巴球では線量率依存性を示し1.8-4以上。個体のRBEについては雌マウスで、卵母細胞が線量率依存性を示し1.1-3以上、胞胚形成、胎盤形成及び胎児形成の障害のRBEはいづれも約1、ラットの奇形発生では、1.3-3以上。4.進捗中の研究・マウスのトリチウム水およびガンマ線による発癌実験では早期に胸線型淋巴性白血病が発生、後期になると9種類以上の固形腫瘍が見つかっている。放射線治療患者で末梢血中で、赤血球系幹細胞BFU-Eの減少が見出され、これは将来ヒト障害のモニターとなるかもしれない。
著者
一政 祐輔 岡田 重文 東郷 正美 上野 陽里 松原 純子 石田 政弘
出版者
茨城大学
雑誌
エネルギー特別研究(核融合)
巻号頁・発行日
1986

本年度の研究成果を以下に述べる。1.トリチウムガス・トリチウム水の生体内代謝・排泄促進の解明研究では、(1)トリチウムガスのラットへの取り込みは、雰囲気の水蒸気濃度や軽水素濃度には殆んど影響されない。(2)トリチウムガスの酸化はラット腸内の嫌気性菌によるところが多いので、サルおよびヒトの糞便でも調べたところ、サルおよびヒトの糞便もトリチウムガスをラットと同程度に酸化することを見出した。(3)トリチウムガスをラットに投与する前に、嫌気性菌に作用スペクトラムを持つ抗菌剤や抗生物質を前もってラットに投与しておくと、トリチウムガスの体内酸化が顕著に抑制されることを見出した。(4)体内に取り込まれたトリチウムを排出促進するには、リンゲル液,グルコース液,KN補液の静脈内投与、およびリンゲル液と利尿剤の同時投与が効果的であり、組織結合型トリチウム濃度を著しく低下させることを明らかにした(以上、一政・秋田)。2.食物連鎖によるトリチウムの体内取り込み研究では、(1)トリチウムで標識したアミノ酸をラットに投与して組織の細胞核内および核外の蛋白質当りのトリチウムの比放射能を測定すると、両者とも略1に近い値である。(2)経口投与実験で確認する必要があるが、食品中のトリチウムで標識されたアミノ酸成分に関する限り、体内に取り込まれたトリチウムによる細胞内の線量は組織の平均トリチウム濃度に略比例することを明らかにした(以上、石田・斉藤)。3.ヒトのトリチウム代謝研究では、(1)人体および動物の組織を200〜300g焼却し組織中のトリチウム濃度を測定し得る前処理装置が完成した。(2)40献体の脳,肺,肝,腎,脾臓がサンプリングされ、その内の20献体の臓器の平均トリチウム濃度は76.6±78.9pC/l,2.83±2.92Bq/lであることを明らかにした(以上、上野)。飲料水のトリチウム濃度の測定用に約300サンプルが準備された(東郷)。