著者
中川 武子
出版者
九州看護福祉大学
雑誌
九州看護福祉大学紀要 (ISSN:13447505)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.109-123, 2014

本学の東日本大震災復興支援ボランティアは、2011年8月に第1回の学生を福島県いわき市に送り出し、2014年3月までの3年間に6回の活動を継続した。本ボランティアには3年間で、学生延べ59人、教員延べ12人、合計延べ71人が参加した。現地では、いわき市のNPO法人ザ・ピープルの協力のもと、被災地の視察、現地学生との交流、各種事業への協力、交流サロンや仮設住宅の集会場や公民館などでの薬草足湯・薬草茶などの提供を行った。活動に参加した学生達からは、「現地に行かなければわからないことがある」「現地でしか感じることができないことがある」という声がきかれた。 現地での活動終了後に毎日行われたミーティングは、学生自身の不安な気持ちを仲間と共有できる大事で必要な時間となった。また、自分自身のもやもやとした気持ちや行き場のない思いを仲間に話すことによって、気持ちを整理すると同時に、仲間の話を聞くことで自分自身が気づかなかった思いや感情を知る機会になった。このボランティアは、大学をはじめ後援会などの全面的な支援により継続することができた。本ボランティアの第1回から第6回までの活動をまとめた。
著者
Stherland Allan J.
出版者
九州看護福祉大学
雑誌
九州看護福祉大学紀要 (ISSN:13447505)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.297-312, 1999-03

This paper challenges the commonplace view of improvisation and composition as disparate music making procedures, whereby improvisation, unlike composition, is a free, less-rational, and creative music making procedure; here, such is contended to be the consequence of explanatory failure. This is done by examining developments in jazz in the first half of the twentieth century, suggesting that creative changes ensued from internal consistencies and inconsistencies in the rational logic of both music theory and particular jazz practices, specifically from jazz musicians' attempts to resolve such problems to expand available musical resources, thereby expressive capacities. 当論文では「作曲」と「即興演奏」が相対する音楽創作手順だとする既成概念、つまり即興演奏はフリーで合理性が薄く、創造性に富んでおり、作曲はその逆であるとする見解に異議を唱え、このような誤認は解釈の間違いに所以するということを示す。具体的には20世紀前半のジャズの発展を考察し、独創性豊かな変化をもたらしたのは音楽理論およびジャズのスタイルにおける内在論理や合理的論理による整合性・不整合性であり、またミュージシャンが音楽における手法の幅を広げる上でそのような問題にどう挑戦したかである、と主張する。
著者
Sutherland Allan J.
出版者
九州看護福祉大学
雑誌
九州看護福祉大学紀要 (ISSN:13447505)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.17-50, 2002-03

本研究では、現代社会学が説明困難な問題を抱える中、どのようにしてアイデンティティーの概念が生まれたかを考察する。アイデンティティーはこれらの問題を解決するのではなく、表出する。問題の表出は段階的であり、まずアイデンティティーは問題のある概念を補い、次にアイデンティティー間の差異がアイデンティティー内の差異に取り替えられ、さらにアイデンティティーはそれ自体から差異を生み出す手段でしかないとされ、最終的には、自らの再生条件さえ作り出せないような不毛かつ全く私的な自己同一性へと成り下がるのである。本論文では、ジャズ・即興ミュージシャンという特定集団のアイデンティティーに焦点を絞る。ミュージシャンとのインタビュー結果を報告し、この中ではジャズ・即興音楽を生業として選択した理由やそれに対する思い入れ、(特に金銭的に)成功するかがほとんどわからない中でキャリアを積み上げる苦闘、演奏およびレコーディングの機会を広げるための人脈形成、そしてレコード業界との関係について言及する。ここから得られた結論は、上記のアイデンティティー理論に異議を唱えるものであり、社会現実を説明できる理論・概念の必要性を指摘する。This paper examines the way that the concept of identity has emerged out of explanatory difficulties in modern sociology. Rather than resolve these difficulties, identity expresses them. They are expressed as a process whereby, first, identities are supplemented to problematic concepts, second, inter-identity differences are supplanted by intra-identity ones, third, identity is proposed solely as a means to generate differences from itself, and, lastly, identity becomes an arid, privatised self-identity not even capable of generating the conditions of its own reproduction. This paper focuses on a specific group identity, that of improvising jazz musicians. It reports on interviews with musicians concerning their selection of, and commitment to, jazz improvising music as a career, their struggle to establish that career despite little certainty of success, especially financial success, the construction of social networks to expand performance and recording opportunities, and the relationships with the recording industry, The conclusions reached challenge those of the above identity theories, pointing to a need for theory and concepts to account for social reality.
著者
久佐加 眞理 宮本 聖子 田上 民子〔他〕
出版者
九州看護福祉大学
雑誌
九州看護福祉大学紀要 (ISSN:13447505)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.113-126, 2004-03

平成15年から開始した熊本県有明地域の町の保健室「イコイバ」は町の一角にあり、大人と若者が協働し、思春期の子ども達に出会いの場を提供すると共に、ワークショップや学習会を開き、情報や自分自身を見つめる機会を提供している。 この論文の目的は、イコイバ活動にピア・カウンセラーとして参加している7名の大学生の活動開始後半年間を振り返り、彼らの変化とその要因を活動との関連から明らにし、思春期保健の方向性を考察する事である。 方法は、7人のピアの自己評価をもとにインタビューを行ない、活動後の変化項目と変化に影響を及ぼした要因、イコイバの特徴的な4つの活動領域との関連を明らかにした。 その結果、ピアの変化は、対自己に対する変化と対他者に対する変化に二分され、対自己に対する変化は、「自分を振り返る力」「疑問を持ち深く考える力」に、対他者に対する変化は「聴く力」「言う力」「出会いへの積極性」に見られた。それらの変化をもたらした要因には、「出会いと交流」「聴いてくれる雰囲気やルールのもとでの安心した語り合い」「心と心の深いつながり」が上げられた。活動領域別に見ると、専門職との協働は「出会いと交流」の機能を果たし、ピアが現在と未来を結びつけて考える機会を提供していた。ワークショップは「聴いてくれる雰囲気やルールのもとでの安心した語り合い」の機能を果たし、自分を見つめる時間と空間を提供していた。さらに高校生の相談活動は、ピアが学び発見した事を実践する場となっていた。 以上のことから、大人との協働による居場所作りは、ピアの内面を広げ、対人能力を変化させ、未来への方向性を考えさせる活動である事が示唆された。Ikoiba, a youth health center, located in down town of the Ariake area in Kumamoto Prefecture, has been offering a flee space for the adolescents since 2003, where they can meet people, or sometimes participate in workshops and study meeting to get useful information and to raise self-awareness. This paper aims to analyze the past six month activities of seven students as peer counselors in Ikoiba and to clarify the relationship between their changes and its factors, and to get perspectives about the future health promotion for the adolescents. Through the interview survey using cards about each peer's self-evaluation, it was clarified how four specific function areas of Ikoiba relate to the peer students' changes and its factors. As a result, their changes were categorized into two types; one is intractive change against themselves, and the other is interactive change against other people. The former includes self-reflection skill and critical thinking skill and the latter includes listening skill, expressing skill and the positive attitude to meet other people. The factors of such changes are thought to be "meeting and exchanging", "talking together under the safe atmosphere with the rules of listening" "deep communication from the heart". Co-operation with the nurses made Ikoiba a space for meeting and exchanging, and facilitated peers to think of their present and their future. Workshops functioned as an opportunity to talk together without fear under a safe atmosphere with rules of listening. It also offered them time and space to raise self-awareness. Counseling activity for the senior high students became an opportunity for the peers to put into action what they already learned and found in Ikoiba. Such results suggest us that youth gathering space building in cooperation with adults facilitated peers to expand their inner mind, grow their human relationship building skill and to think of their future life.
著者
久佐賀 真理 俵 恭子 大草 理美子
出版者
九州看護福祉大学
雑誌
九州看護福祉大学紀要 (ISSN:13447505)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.117-127, 2003-03

思春期・青年期保健対策の有効な手段として推奨されているピア・カウンセリング活動の育成と、ボランティアの主体的活動に向けた支援のあり方を検討するために、1年間仲間(ピア)共育活動を行ってきた6人の若者(男性3 女性3/平均年齢21歳)を対象に、活動の継続理由を調査した。その結果、継続理由は二つに分類され、「活動を通じての自己実現」「出会いと目標の発見」「社会的スキルの学習」という学びと自己の成長がもたらす活動動機と、「対話」「日常的な関わり」「仲間意識」という仲間とのつながりがもたらす継続の力で、両者は「成長への確信」を生み出していた。 今後ピア活動が主体的になっていくためには、傾聴や対話の力を若者同士の関係の中で実感し、自分や仲間の他に社会に目を向け実践され深められていく必要があることがわかった。The purpose of this study was to investigate why youths continue their peer activities taking initiative and leadership. By analyzing interviews of six youths (3male, 3female;the average age is 21), 8components were discovered;4related to motivation, which are 'self-realization through the activities,' 'dialogue,' 'encounter with other people and discover goal,' and 'social skill acquisition'; and 4related to the power of promotion, which are the 'opportunity for learning,' 'daily relationships,' 'peer connectedness,' and 'potentiality for self-development'. Those took effect of 'affirmation of development'. To initiate effective peer activities in the future it is recommended that the following components be used, 'encounter with other people,' 'dialogue,' and 'skill and opportunities for social participation,' and that the use of 'the learning opportunities,' and 'interactive relationships,' should be considered, and practice and experience in the society.
著者
山本 孝司 久保田 治助
出版者
九州看護福祉大学
雑誌
九州看護福祉大学紀要 (ISSN:13447505)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.79-90, 2012-03

「大人になる」というテーマは、今日の日本の若者問題を論じる際のキーワードともなっている感さえある。「大人になる」ということは、他方で「子どもではなくなる」という意味合いを含んでいる。つまり「大人になる」ということ自体が、ある種の子ども性の否定のうちに成り立っている。 近代以前、こうした「大人化」については、制度としてシステム化されていなくとも、子どもたちは共同体の一員として、無意識的に社会教育を受ける機会が多々用意されていたのである。近代以降、「大人化」のプログラムは学校教育が中心的な場となり、そうしたコミュニティのなかでの「大人化」の取り組みは姿を消してしまった。それどころか、今ではコミュニティそのものが解体され消滅してしまっている。 このような時代を背に、「大人化」の問題は、社会教育の分野を筆頭に「市民性」(citizenship)の問題として再浮上している。もっとも、言葉として「市民性」は頻繁に耳にするようになったものの、その内実についてはいまひとつ定かになっていない。 そこで本稿の目的とするところは、近代以降「市民性」がどのように論じられてきたかをレビューした上で、あらゆる位相でボーダレス化している今日にあって、「大人化」という視点からあらためて「市民性」を捉え直すことである。There are a variety of remark theories about "Grow up" in not only the field of education but also various fields. The theme "Grow up" becomes a key word when the young person problem of Japan of today is discussed. "Grow up" It is a meaning "It is not child and become it". The chance to receive Social Education unconsciously had been prepared for childrena lot as a member of the community before modern ages. The school training came in a center place as for the program of "Change to the adult" since it was modern. And the approach of "Change to the adult" in the community has disappeared. On the contrary, the community is dismantled now and it disappears.. The problem of "Change to the adult" has surfaced again as a problem of citizenship with the field of Social Education at the top against the backdrop of such an age. It is not clarified though "Citizenship" is frequently heard as a word of the contents. The purpose of this text is to try to catch "Citizenship" again from the aspect "Change to the adult" in today.
著者
山本恵子 宮川健治 野々佳子 原口輝美 松永あけみ
出版者
九州看護福祉大学
雑誌
九州看護福祉大学紀要 (ISSN:13447505)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.103-111, 2006-03

日本の高齢者施設は、高齢化・重度化・認知症の増加が問題視されている。そのような状況で、施設利用者の安全を確保するのには、職員の協働は不可欠であるといえる。また多くの文献で職員数や知識の不足が、転倒要因として列挙されている。しかし、その実態や対策について研究したものは少ない。そこで本研究では、自身で危険回避が困難な方が多い高齢者施設における転倒予防策のうち、多職種の協働による転倒予防の必要性を先行研究より明らかにすることを目的とした。 文献検索の結果、連携の実態と転倒予防効果については、国内外問わず数は少なく、実態調査が殆どであった。それによると多職種が情報共有・アセスメント・評価の過程で協働することは、転倒予防に効果的であると報告している。海外文献では、情報共有の有効性や、リスクマネジメントの視点で協働の重要性をあげ、医療事故のエラーの原因として高齢者自身の問題以外に環境要因をあげ、その中に職員の知識・技術の差や、情報伝達の不備なども指摘されていた。 職種間協働の不備は、業務の問題点でありかつ、高齢者の転倒要因であることは言われているが、望ましい協働の方法やその効果について具体的に研究されたものは殆どなかった。職種間協働は、転倒予防の視点で重要であり、今後、増加する認知症高齢者の安全を守る上でも職種間協働の研究は不可欠であるといえる。高齢者施設での転倒予防では、協働の方法やその効果の検証は急務であり、重要な研究テーマとなることが示唆された。The purpose of this research is making the necessity for the fall prevention by collaboration of many occupational descriptions clear from precedence research. Because, by dementia, many of users are difficult to avert a risk by themselves. Most researches which did not ask domestic outside but were concretely verified about the method of desirable collaboration or its effect suited. As for the research verified concretely, about the method of desirable collaboration, or its effect, in and outside the country was very slight. lt being able to say at present is that the defect of communication of information causes an accident. Moreover, there were also two or more reports that it was effective for fall prevention that many occupational descriptions collaborate in the process of an information share, assessment, and evaluation. It was suggested from these things that maintenance of collaboration between occupational descriptions is pressing need