著者
石光 真
出版者
会津大学短期大学部
雑誌
会津大学短期大学部研究年報
巻号頁・発行日
vol.68, pp.27-49, 2011-03-25

ドイツでは日本におけるマクロ経済スライドと軌を一にして、2004 年に持続性係数という年金スライド率抑制装置を導入した。これがうまく機能すれば、年金給付の抑制により、年金純債務はかなり削減されるはずなのだが、議会制における政治的現実としては、日独ともに年金給付抑制機能は全く、あるいはほとんど発動していない。複雑なメカニズムを持つ給付抑制装置は、国民にほとんど理解されていないがゆえに、導入時に反対も少なかったが、同じ理由で政権担当者が執行をサボタージュすることも容易である。その点では年金受給開始年齢引上げのほうが、導入時の抵抗も大きい一方、いったん導入されれば引き返すことは難しいのではなかろうか。給付抑制につぐ年金改革の論点は、税財源の投入、空洞化の克服である。ドイツの公的年金は、所得再配分機能の低い報酬比例型社会保険方式の典型である一方で、税財源の投入率は高い。一方で保険料の徴収率は高い。低所得被用者のカバーなど、給付抑制以外の諸論点について概観し、今後の研究課題を模索した。
著者
外崎 紅馬
出版者
会津大学短期大学部
雑誌
会津大学短期大学部研究年報
巻号頁・発行日
vol.64, 2007-03-25

近代国家の成立期に形成された自然権を基礎として、個人は自由かつ平等であり生命、自由および財産等についての権利を権利章典により保障しているアメリカによって、日本の憲法改正草案は起草された。また、資本主義社会の発展にともない発生した社会問題を背景として、国家による積極的な介入による保障規定がGHQ の人権委員の主張により草案に盛り込まれた。さらに、それらの保障規定を、人たるに値する生活を保障する権利として明確化するため、日本側の憲法審議により、現行憲法第25 条に重要な項目として第1項、生存権が追加された。本稿では、現在の日本国憲法の成立に影響を与えた背景として、権利思想と戦後の占領政策を概観し、社会福祉が主として法的根拠としている現行憲法第25 条について、アメリカが起草した日本国憲法草案との関係を中心にその制定過程を考察した。
著者
柴崎 恭秀
出版者
会津大学短期大学部
雑誌
会津大学短期大学部研究年報
巻号頁・発行日
vol.69, pp.113-132, 2012-03-25

本研究は、平成23 年3 月11 日に発生した東日本対震災に起因して福島県内で建設された木造による応急仮設住宅の、特に類型に関する考察を行ったものである。東日本大震災により東北3県、関東3県及び長野県では、12 月12 日現在までに53,013 戸の応急仮設住宅が建設された。福島県では当初14,000 戸の応急仮設住宅のうち、4,000 戸を公募により地元施工者を選定し施工するに至ったが、そのほとんどが木造による応急仮設住宅の建設となった。バリエーションも十数種類の木造応急仮設住宅が登場することとなるが、実際にはプレハブ建築協会が施工した応急仮設住宅のなかにも木造仮設住宅が多く含まれ、またその後、2,000 戸以上の仮設住宅が追加建設され、それについてもほとんどが木造で建設されている状況にあり、現在その調査を行っている状況にある。本研究では当初公募によって建設された4,000 戸のうちの筆者が関わった1,300 戸のなかで展開された木造応急仮設住宅を比較研究する。
著者
外崎 紅馬
出版者
会津大学短期大学部
雑誌
会津大学短期大学部研究年報
巻号頁・発行日
vol.67, pp.169-179, 2010-03-25
被引用文献数
1

学校教育における福祉教育は、1977(昭和52)年度にスタートした「学童生徒のボランティア活動普及事業」(福祉教育協力校制度)によって全国的に展開された。現在、「総合的な学習の時間」の創設により、学習課題としての社会福祉への取り組みを行う学校も多くみられるようになった。しかし、そこで取り組まれている学習活動は、募金活動や清掃・美化活動、車いすやアイマスクなどを使っての疑似体験や、高齢者・障害者施設への訪問、交流活動などが中心となっており、学習内容としては、体験から得られる児童生徒の感想まかせで、必ずしも合理性のある意図的な教育活動とはいえない状況である。一方、小・中・高の現職教員そのものの社会福祉についての理解の不足から、福祉教育についての必要性は感じながらも、教育実践について戸惑いがあり、その教育内容にも確信をもてずにいることも事実である。そこで本研究では、現在の小中高等学校の福祉教育の実際について検討を行った。
著者
郭 小蘭 郭 麗虹
出版者
会津大学短期大学部
雑誌
会津大学短期大学部研究年報 (ISSN:13406329)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.83-91, 2006-02-28

本論文は中学校のカウンセリング活動の中でよく見られる女子生徒のリストカットの事例からスクールカウンセラー(以下SCと略す)の学校全体に対する支援活動の実際を紹介し、支援方法について検討する。この実践的研究事例の提供の意義は、この領域に関する研究方法の開拓につながること、また、現場で活躍している教師、保護者にとっても参考になることにある。本論文の中ではまず第1部分では、筆者の出会ったリストカット事例を通じてリストカットって何だろうか。リストカットはなぜ起きたのだろうか。起きた時の対応及び今後の課題は何だろうかについて実践的な報告をする。そして、第2部分では学校でリストカットが起きた場合はどのように対応するだろうか、(具体的には第一の発見者、発見者の対応、SCへつなげていく、生徒の周囲の環境との必要な部分に関する情報共有と連携)について、実践的な報告を通じて学校全体に対する支援方法を検討していく。さらに女子生徒のリストカットの3事例を通じて、思春期という難しい時期の女子の心理、生徒に対する大人のかかわり方について何か提言することができれば子育て支援に貢献することができるのではないかと思われる。
著者
宮下 朋子
出版者
会津大学短期大学部
雑誌
会津大学短期大学部研究年報 (ISSN:13406329)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.139-145, 2006-02-28

〔目的〕短期間の学習において、減塩という食育が成り立つかどうかを検討するため、本学学生を対象に、調理学実習I・IIの授業において塩分濃度差識別教育を行い、その結果を確認したので報告する。〔調査の条件と設定〕塩分濃度差識別能力を見る官能調査を実施するにあたり、試料温度を実際の調理で用いる温度である70℃付近に調整して実施した。〔調査対象および調査方法〕平成15年度の食物栄養学科1年に在籍した学生を対象に、訓練前の前期調理学実習Iの第1回目の授業と、訓練後にあたる後期調理学実習IIの授業の最終日に行った。調査は、塩分濃度0.5〜1.0%の範囲で濃度差0.1w/v-%に調整し、品温70℃±3℃に保持した試料をランダムに配置し、順位法による弁別試験と、その6試料の中から自分が最も好ましいと思う塩分濃度の試料を選ぶ選択法による嗜好濃度試験を実施した。〔結果および考察〕Kendallの一致性の係数W、Spearmanの順位相関係数γs、は、いずれも有意に高く、塩分識別能力が上がったことを示した。また、訓練の効果を見るコクランによるQ検定でも、学習効果があったことを示していた。しかし、選択法による嗜好濃度試験では、前期と後期では大きな差は見られなかった。これらの結果から、1年間の授業を通して行った減塩教育は、学生の塩分を知覚する能力を高める効果は認められたが、嗜好塩分濃度には大きな変化は見られず、文化的に手に入れた味覚は、1年間という学習期間では変化しない事を示していた。一方で、パネルは、前期より後期において塩分濃度を識別できるようになっていた。このことは、味覚識別能力の獲得は、訓練と環境によって可能である事を裏付ける結果となり、1年間という短期間の学習でも可能であることを示していた。塩分濃度差を識別する能力の獲得は、自らの食生活の中で塩分をコントロール出来る能力の獲得である。減塩を目的とし、塩分濃度を見分ける能力を培うとともに、意識的に料理の塩分を捉える習慣を持つことで、食生活の中での塩分摂取量をコントロール出来るものと考える。