著者
成木 弘子
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 = Journal of the National Institute of Public Health (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.47-55, 2016-02

超高齢社会を迎える2025年問題に対応する為に地域包括ケアシステムの構築が開始されている.地域包括ケアシステムは,英語ではCommunity-based integrated care systemsと表記され,ケアの統合を目指している.また,多職種および多機関の連携が重要であるが,統合や連携,および,システムのとらえ方は様々である.そこで本稿では,包括地域ケアシステムの構築における "連携"の課題と"統合" 促進の方策について,II.地域ケアにおけるシステムアプローチの基本,III.ケアシステムの連携と統合の概要,IV.地域包括ケアシステムを構築する為の統合(integration)の方法を整理した上で,V. 5 年後まで達成する課題をふまえながら対応方法を探求することを目的とした.その結果,「調整・協調(coordination)」レベルに統合した地域ケアシステムの構築が急務の課題であると考えられ, 5 年後にこの課題を達成する為には,(1)混乱している情報の整理と適切な情報の発信,(2)「調整・協調(coordination)」の統合レベルの地域包括ケアシステムへの推進方法の開発,(3)人材の育成が必要であると結論づけた.
著者
戸次 加奈江 稲葉 洋平 内山 茂久 欅田 尚樹
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 = Journal of the National Institute of Public Health (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.460-468, 2015-10

2005年,世界保健機関(WHO)はたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO Framework Convention on Tobacco Control; WHO FCTC)を発効し,本条約により締約国は,たばこ消費の削減に向けた広告・販売への規制や密輸対策をはじめ,たばこによる健康被害防止のためのヘルスコミュニケーションの実施が要求されている.「第11条:たばこ製品の包装及びラベル」では,締約国に対して,喫煙を主な要因とする疾病の警告表示の義務付けや,各国でのたばこ政策の実施へ向けた国内法制定のための実践的な支援対策としてMPOWER政策が提示されている.こうしたFCTCの発効により,各国でのたばこ対策は飛躍的に進められ,2010年には,画像警告ラベルの表示を実施する国が34ヶ国であったのに対し,2015年には77 ヶ国までにも増加し,その他,禁煙者の増加を目的に実施される,包装上に禁煙電話相談サービス(クイットライン)の連絡先を表示する対策や,たばこ製品特有の色使い・画像・マークなどの使用が禁じられた「プレーンパッケージ」の導入により,オーストラリアでは喫煙率が2010年から2013年の間に15.1%から12.8%に減少するなど,たばこ対策の実施による着実な効果が伺える.一方,日本国内の喫煙率は,今現在も他の先進国と比較して非常に高い水準にあり,喫煙による有害性が社会的にも広く認識されているアメリカやカナダ等の先進国と比較すると大きな差が生じている.また,日本国内では,FCTCに対応すべく「たばこ事業法施行規則」による警告表示,規制が定められているものの,それらはFCTCで求められる最低限の条件を満たすのみである.この様に,他国と比べてもFTCT第11条に関連した日本国内のたばこ対策は大きな遅れを取っている状況にある.これらのことから,今後,わが国のFCTCに基づいたたばこ対策による喫煙率低下へ向けた効果,また社会的影響等について国際的なたばこ対策の動向を踏まえた総合的な見直しを行い,将来的なたばこ対策全体の方向性を示す必要がある.
著者
佐藤 元
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 = Journal of the National Institute of Public Health (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.292-296, 2015-08

医薬品の開発段階また新薬承認(上市)後の有効性・副作用監視においては,患者・一般国民の医薬品開発過程に関する理解,また臨床研究(試験)への参加・協力が不可欠である.そのため,臨床研究の公正確保,また出版バイアスの防止を主目的として,これらの事前登録制度が導入された.さらに,臨床研究(試験)に関する情報公開・普及啓発は重要な政策課題とされ,臨床研究(試験)登録情報の一般公開,さらに情報検索システムの利便性向上が求められるようになった.試験登録機関のみならず,先進医療の研究開発において大きな役割が期待されている国立高度専門医療センターや国立病院機構,各種研究・教育機関,製薬企業(団体),患者団体など多岐にわたる機関の取り組みが望まれている所以である.本稿は,我が国の臨床研究(試験)登録制度の歴史,情報の公開・利用促進が求められる背景を概説し,今後の課題を論ずる.