著者
高嶋 真之 大沼 春子 尹 景慧 淡路 佳奈実 川村 睦月 杉谷 真実 田宮 弘貴 松尾 奈緒 篠原 岳司
出版者
北海道大学大学院教育学研究院 教育行政学研究室・学校経営論研究室
雑誌
公教育システム研究
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-27, 2019-09-30

本稿は、北海道奥尻高等学校(以下、奥尻高校)の「町立化」に伴う変化を、教職員、生徒、地域住民へのインタビューより明らかにし、考察を加えた調査研究報告である。北海道南西部の奥尻島にある奥尻町は、町内の北海道立奥尻高校を2016年4月に町立移管した。この奥尻町の決定は、わが国において急激に進行する過疎化と人口減少、そしてそれに伴う郡部の高校の小規模化と存続の危機に対し、地元の自治体(主に町村)が高校経営の主導権を持ち、その存続と変革の道筋を拓くものと捉えられる。一方、奥尻高校が町立移管されたことに伴い、その高校教育にいかなる変化が起きるのかは、町の教育行財政および高校の学校経営の観点から追究されたい間いである。 今日の研究動向を概観してみると、高等学校の学校設置者移管に伴う当該自治体と学校経営の変化に焦点を当てた研究は、事例が稀少であることも重なり、決して多いとは言えない。「移管」という地方教育行政の政策選択について奥尻や他の事例に基づき検討したもの(小入羽・本多 2018、国立教育政策研究所 2019:104-115)や、高校を核とする今日的な地方創生のあり方として奥尻高校を事例に検討するもの(徳久 2018)が見られるが、それらは主として地方自治体ならびに教育行財政の観点で研究されたものであることから、高校の学校経営のリアリティについては焦点があたらないままである。 一方、小規模高校や町村立高校の研究は、島根県や鹿児島県の離島、そして北海道の郡部において小規模化する高校をその地域の持続的な発展や地元人材の育成と今日的な地方創生施策との関連で論じる研究(宮ロ・池・山本 2014、山内・岩本・田中 2015、樋田・樋田 2018)が見られる他、北海道大学の研究チームでも北海道北西部の天売島に存立する羽幌町立北海道天売高等学校と天売島の地域おこし実践との関係について調査研究をおこなってきた(高嶋・大沼・篠原他 2017)。島根県の海士町と島根県立隠岐島前高校の歩みを紹介する山内・岩本・田中による『末来を変えた島の学校』(岩波書店、2015年)は、研究としてまとめられたものではないが、町と高校が島留学生を迎え入れ変革の道を歩む過程を実際の生徒たちの学習と生活の様子から詳細に描かれており、本調査研究を進める上でも特に参考となったものである。 ただし、過疎地域の小規模高校とその存立自治体が抱える事情は多様であり、それぞれに固有の文脈を有していると考えられることから、上記の図書や文献等に留まらず複数の事例に視野を広げ、質的調査によって教職員や生徒らの声に基づく事例研究を積み重ねていく必要があるだろう。なにより、今日のわが国においては、人ロ減少社会における地域の持続的発展と学習権保障の課題を検討することは喫緊の課題であり、本調査は、奥尻島と奥尻高校が経験する高校の町立化が地方創生と高校教育にいかなる影響をもたらしたかを問うことで、国内の共通問題に対する一定の示唆をもたらせるものと考えている。 そこで本稿では、町立移管の後に様々な取り組みが進められていく奥尻高校の教職員、生徒、地域住民へのインタビューを行い、奥尻高校と奥尻町の変化の実態に迫ってみることにしたい。なお、町立移管の政策選択とその行財政の過程は別稿で著すこととする。 なお、本稿では、町立移管と「町立化」を次の意味で使い分ける。町立移管は、移管決定後から実際に移管が行われた時点までの過程を表し、「町立化」は町立移管後の町立高校としての歩みを含めた町立奥尻高校の末完のプロジェクトの総体を表している。
著者
横井 敏郎
出版者
北海道大学大学院教育学研究院 教育行政学研究室・学校経営論研究室
雑誌
公教育システム研究
巻号頁・発行日
no.18, pp.127-135, 2019-09-30

2018年11月21日、北海道大学大学院教育学研究院において公開研究会「高校内居場所カフェ実践は学校に何をもたらすか―2つのカフェ運営の事例から―」を開催した。この研究会は、科研費「拡散・拡張する公教育と教育機会保障に関する国際比較研究」(18H00970、代表:横井敏郎)のメンバーである高橋寛人氏(横浜市立大学)がこの間、NPO や高校教員、行政職員等の方々とともに進めてこられた研究活動を基礎として提案いただいた企画である。 高橋氏には、過去の科研費研究会で高校内居場所カフェについて研究報告をしていただいていたが、今回、高校内居場所カフェの中でも先導的な役割を果たしている2つの運営団体の方々を招いて講演をいただき、議論を行う公開研究会を開催した。スピーカーとしてお招きしたのは、一般社団法人officeドーナツトークの田中俊英氏、NPO法人パノラマの石井正宏氏・小川杏子氏である。田中氏は大阪府立西成高校で「となりカフェ」を、パノラマの石井氏と小川氏は神奈川県立田奈高校の「ぴっかりカフェ」を運営されている。現在、高校内居場所カフェは全国で50ヶ所に上るが(朝日新聞 2019年8月19日)、その最初が西成高校の「となりカフェ」であり、次いでそれを参考に開設されたのが田奈高校の「ぴっかりカフェ」であった。今回、居場所カフェをスタートさせた2つの団体の方を招くことができたわけである。そのせいもあって、本研究会には学外者含めて30名ほどの参加を得た。 3人のスピーカーには、高校内居場所カフェの活動内容や理念、そして活動の運営上の課題や行政との関係に焦点を当てて話をしていただいた。小川氏にはふんだんに写真を用いながら、「ぴっかりカフェ」が開設された経緯とカフェの様子や役割、居場所カフェのソーシャルワーク等へのつながりなどについて話していただいた。田中氏には、「となりカフェ」が開設された経過を行政とのやり取りや高校教員との関係づくりなどの点から話していただいた。最後に石井氏には、居場所カフェを作るに当たって高校内における居場所カフェ(運営団体)の立ち位置のポイントについてお話しいただいた。その内容は、本誌の研究会記録の通りである。 高校内居場所カフェに対する関心は少しずつ高まってきているようであり、数も増えてきている(『朝日新聞』2019年8月19日)。本研究会の後になるが、高校内居場所カフェを実践してきたり、応援してきた人々の手になる書籍も刊行された。居場所カフェ立ち上げプロジェクト編『学校に居場所カフェをつくろう! 生きづらさを抱える高校生への寄り添い型支援』(明石書店、2019)には、その成り立ちからコンセプトや活動の内容、居場所カフェを作るためのポイントなどが分かりやすく書かれている。 しかし、高校内居場所カフェは始まって間もない取り組みであり、まだ十分な社会的認知を得ていないし、その実践の特質や社会的あるいは教育的な意味についてはこれから議論が本格化していくであろう。ここでは本研究会の記録の解題を兼ねつつ、高校内居場所カフェに対する認識を深めるため、それはいったいいかなるものか、その意義はどのように捉えられるのかを考えてみることとする。
著者
淡路 佳奈実
出版者
北海道大学大学院教育学研究院 教育行政学研究室・学校経営論研究室
雑誌
公教育システム研究
巻号頁・発行日
vol.19, pp.1-24, 2020-11-30

本稿は、企業主導型保育事業における立入調査の状況分析を通して、企業主導型保育事業の指導監査の実態を明らかにし、そのあり方について考察したものである。
著者
張 頔
出版者
北海道大学大学院教育学研究院 教育行政学研究室・学校経営論研究室
雑誌
公教育システム研究
巻号頁・発行日
vol.20, pp.1-25, 2021-08-31

本研究では、「自校昇任」に着目し、校長の経営行動にどのような影響を与えるかについて明らかにしたい。また、現行校長人事システムの改善を考える上で、自校昇任の可能性と条件についても検討していきたい。
著者
横井 敏郎
出版者
北海道大学大学院教育学研究院 教育行政学研究室・学校経営論研究室
雑誌
公教育システム研究
巻号頁・発行日
vol.18, pp.127-135, 2019-09-30

2018年11月21日、北海道大学大学院教育学研究院において公開研究会「高校内居場所カフェ実践は学校に何をもたらすか―2つのカフェ運営の事例から―」を開催した。この研究会は、科研費「拡散・拡張する公教育と教育機会保障に関する国際比較研究」(18H00970、代表:横井敏郎)のメンバーである高橋寛人氏(横浜市立大学)がこの間、NPO や高校教員、行政職員等の方々とともに進めてこられた研究活動を基礎として提案いただいた企画である。 高橋氏には、過去の科研費研究会で高校内居場所カフェについて研究報告をしていただいていたが、今回、高校内居場所カフェの中でも先導的な役割を果たしている2つの運営団体の方々を招いて講演をいただき、議論を行う公開研究会を開催した。スピーカーとしてお招きしたのは、一般社団法人officeドーナツトークの田中俊英氏、NPO法人パノラマの石井正宏氏・小川杏子氏である。田中氏は大阪府立西成高校で「となりカフェ」を、パノラマの石井氏と小川氏は神奈川県立田奈高校の「ぴっかりカフェ」を運営されている。現在、高校内居場所カフェは全国で50ヶ所に上るが(朝日新聞 2019年8月19日)、その最初が西成高校の「となりカフェ」であり、次いでそれを参考に開設されたのが田奈高校の「ぴっかりカフェ」であった。今回、居場所カフェをスタートさせた2つの団体の方を招くことができたわけである。そのせいもあって、本研究会には学外者含めて30名ほどの参加を得た。 3人のスピーカーには、高校内居場所カフェの活動内容や理念、そして活動の運営上の課題や行政との関係に焦点を当てて話をしていただいた。小川氏にはふんだんに写真を用いながら、「ぴっかりカフェ」が開設された経緯とカフェの様子や役割、居場所カフェのソーシャルワーク等へのつながりなどについて話していただいた。田中氏には、「となりカフェ」が開設された経過を行政とのやり取りや高校教員との関係づくりなどの点から話していただいた。最後に石井氏には、居場所カフェを作るに当たって高校内における居場所カフェ(運営団体)の立ち位置のポイントについてお話しいただいた。その内容は、本誌の研究会記録の通りである。 高校内居場所カフェに対する関心は少しずつ高まってきているようであり、数も増えてきている(『朝日新聞』2019年8月19日)。本研究会の後になるが、高校内居場所カフェを実践してきたり、応援してきた人々の手になる書籍も刊行された。居場所カフェ立ち上げプロジェクト編『学校に居場所カフェをつくろう! 生きづらさを抱える高校生への寄り添い型支援』(明石書店、2019)には、その成り立ちからコンセプトや活動の内容、居場所カフェを作るためのポイントなどが分かりやすく書かれている。 しかし、高校内居場所カフェは始まって間もない取り組みであり、まだ十分な社会的認知を得ていないし、その実践の特質や社会的あるいは教育的な意味についてはこれから議論が本格化していくであろう。ここでは本研究会の記録の解題を兼ねつつ、高校内居場所カフェに対する認識を深めるため、それはいったいいかなるものか、その意義はどのように捉えられるのかを考えてみることとする。