著者
角 美弥子
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編 (ISSN:13442562)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.65-74, 2020-02

都道府県では文化財保護法に基づき,文化財保護条例が定められている。無形の文化財は無形文化財と無形民俗文化財に分類され,都道府県間で指定数に差があり,無形文化財については指定がない都道府県もある。この原因について,都道府県の無形文化財の指定状況及び文化財保護条例からの検討を試みた。条例の差異を比較したところ,指定件数との関連性は特に見られなかったが,都道府県における無形文化財と無形民俗文化財の違い及び国の指定文化財との関連性が判明した。また,包括的な保護の必要性に言及し,現在取り組まれている指定文化財以外の文化財の保護の重要性,加えて文化財指定の解除を受けた文化財の視覚化などが今後の文化財保護の方向性として有効であると判断した。2018年に文化財保護法が改正され,文化財のさらなる活用が求められている。今後は無形有形の別に関わらずより包括的かつ効果的,また動的な保護が求められることとなるだろう。
著者
阿部 二郎 レティホンヴァン
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編 (ISSN:13442562)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.1-16, 2021-02

本稿は日本語とベトナム語に見られる謝罪表現及び謝罪言語行動を対照し,その特徴を明らかにすること,およびその応用としてベトナム人日本語学習者に対する謝罪の指導法を考案することを目的とする。日本人とベトナム人を対象とした調査から,日本人は相手によらず謝罪表現を使用する傾向があるのに対し,ベトナム人は相手によって謝罪表現の使用率やストラテジーが大きく異なるという結果が得られた。この結果に対しポライトネス理論の枠組みから,日本人が相手のフェイスを優先するのに対し,ベトナム人は相手との関係に応じて自分と相手いずれのフェイスを優先するかが変化するという説明をおこなった。さらに,このような両言語の特徴を学習者が意識化できるような日本語の授業案を作成した。
著者
百瀬 響
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編 (ISSN:13442562)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.93-108, 2020-08

本稿は,近代以前にアイヌ-和人間に行われていた様々な物資の交換に関し,余市場所を例に検討したものである。資料は『余市町史』資料編1収録の「林家文書」の解読済み文書を用い,特に1857(安政4)年におけるアイヌ-和人間の交換レートについて分析した。さらに,アイヌによる漁場労働に対し,威信財を含む「物々交換」として支払われる対価を試算したほか,和人が和人に対し売却した価格と比較した。その結果,対アイヌ,対和人間の各交換レートには,大きな相違はほぼ見られなかったものの,アイヌ-和人間交易において,対価として支払われた食料(米)と嗜好品(煙草)との交換レートに,いわゆる二重レートが存在する可能性が判明した。この二重レートの存在と運用実態は今後解明する必要があるが,このような近世の商習慣を通して,近世末から近代初期にかけてアイヌ-和人間で行われた交換の実態とその関係性を明確化しようと試みた。
著者
角 一典
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編 (ISSN:13442562)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.33-45, 2020-08

本稿は,ジブリ映画,主に宮崎作品における,象徴としての四元素(風火水地)の意味について考察を加えたものである。本稿では,宮崎作品においては,風は自由・孤独,火は産業文明・近代国家・科学技術・武器等,水は,女性原理・自由奔放さ,地は生命を支える基礎でありながら,強度に汚染されてむしろ生命を脅かす存在と化しているものとして,象徴的に表現されていることを確認した。また,四元素は,風・水・地が相互に密接に関わりあいながら均衡を保っているが,唯一火だけがこれらに敵対する関係となっていることをみた。