著者
広田 知良 古賀 伸久 岩田 幸良 井上 聡 根本 学 濱嵜 孝弘
出版者
北海道農業研究センター
雑誌
北海道農業研究センター研究資料 (ISSN:13478125)
巻号頁・発行日
no.69, pp.1-13, 2011-09

2010年の気象の特徴は,これまでの北海道の夏季冷涼で梅雨がないという気候条件とは異なり,夏季(6~8月)の統計開始以来の記録的高温(全道平均で+2.3℃)と併せて7~8月の多雨,さらに春先の低温が重なった点にあった。平年より2℃以上の記録的な高温は,作物の生育を過度に促進し,収穫までの生育期間を大きく短縮するとともに,多雨による多湿条件が病害を助長した。さらには春先の低温・多雨による播種の遅れや初期生育の不良の影響が重なったため,多くの畑作物(小麦,ばれいしょ,てんさい,大豆を除く豆類)の収量が大きく低下した。北海道において夏季の高温条件による畑作物の不作は,北海道開拓以来はじめてのことである。また水稲も作況指数が98と極端な高温年では初めて平年を下回った。気象庁温暖化予測情報第6巻による温暖化予測シナリオ(SRES-A2)と比較すると 2010年の夏季気温は,2100年頃,またはそれを上回っていた。これからは4年に1度程度で生じる冷害と併せて,4~6年程度毎に生じる高温,および今後の北海道の夏季に梅雨の発生が頻発するかについては, 異常気象が北海道農業に及ぼす影響を考える上で,重要な研究・技術開発課題となると考える。したがって,寒地にある北海道といえども冷害のリスクに備えながらと温暖化に対しても適切に対応するための技術開発が必要である。
著者
西尾 善太 伊藤 美環子 田引 正 中司 啓二 長澤 幸一 山内 宏昭 広田 知良
出版者
北海道農業研究センター
雑誌
北海道農業研究センター研究資料 (ISSN:13478125)
巻号頁・発行日
no.69, pp.15-21, 2011-09

北海道では,2010年の夏季に統計開始以来の高温を観測し,秋まき小麦の収量が平年の65%に低下する大きな被害を受けた。このため,秋まき小麦品種「ホクシン」(軟質小麦)および「キタノカオリ」(硬質小麦)の収量構成要素と,生育温度の関係について,1997~201O年の14年間の結果を解析した。登熟期間の平均気温と,登熟日数(出穂から成熟までの日数)および千粒重の間には,強い負の相関が見られ,気温1℃の上昇によって,登熟日数は,両品種とも約2.6日短縮し,千粒重は,「ホクシン」が約2.2g,「キタノカオリ」が約1.9g減少した。5月下旬の平均気温と穂長の間には,両品種とも有意な負の相関が見られ,気温1℃の上昇によって,穂長は,「ホクシン」が約2.6mm,「キタノカオリ」が約4.3mm減少した。1997~201O年の月別平均気温の解析の結果,3月と6月および4月と8月の平均気温の間に有意な負の相関が見られ,4月の平均気温と,秋まき小麦の登熟期間の平均気温との間にも有意な負の相関が認められた。近年の北海道の春季と夏季の気温の間には,有意な負の相関が認められることから,今後も同様の気象パターンが継続すると仮定すると,春季が低温の年は,夏季の高温に対する警戒が必要となる。