著者
狩野 浩二
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.145-155, 2018-03-24

斎藤喜博を起点とする学校づくり運動において、教材解釈やそれにもとづく授業の最大の特徴は、授業において子どもの上に美を創造するという課題に挑戦し続けたということである。この場合の美は、集中という言葉をキーワードとして先行研究において捉えられてきたものであり、何を美と捉えるかによって、授業のあり方が大きく異なってしまうものである。近年沖縄の学校においてこの運動が継続しており、筆者はその動向に注目してきた。その結果、子どもの上に美を創造するという授業観により展開する学校づくりのなかで、いきいきと自己を表す子どもが育ち、学力の向上が見られた。今後、この原則の下での学校づくりを継続していくことにより、斎藤喜博の教育思想を解明するための手がかりを得ることにつながっていくと考えられる。
著者
狩野 浩二
出版者
十文字学園女子大学
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.89-98, 2015

筆者は,1995年から沖縄における「授業研究を"核"とする学校づくり運動」に関して調査研究を継続してきた。その成果の一部はすでに公表してきている* 。 沖縄では,1975年5月に斎藤喜博,林竹二が那覇市立久茂地小学校を訪ね,同校の校長であった安里盛市との交流が始まった。その後,教授学研究の会の会員が沖縄の学校を訪ねたり,沖縄の教師たちが会の活動に参加をするなど,長期間にわたって教育研究運動が展開してきている。他の地域においては,斎藤喜博の没後,次第に学校づくり運動そのものは衰退し,現在では,ほとんど運動の展開をみないのに対して,沖縄の場合は,特異である。現在において,研究会である「沖縄第三土曜の会」が継続し,若い教師たちがその活動に参加するなど,学校づくり運動がしっかりと根付いているのである。本研究では,この展開について考察するとともに,いかにして沖縄の学校づくり運動が維持され,今日において,その成果が蓄積されているのか,という実態に迫ることが目的である。 沖縄県沖縄市立泡瀬小学校・幼稚園は,沖縄本島の中部,沖縄市の東海岸に位置する公立学校・園である。「沖縄第三土曜の会」において実践的な研究を続けてきた宮城和也校長が2014年度から学校づくりを開始した。その特長は群馬県島小学校(以下「島小」と略記)以来の学校づくり運動を継承するとともに,"表現活動"によって,子どもの心をひらき,子どもの集中力を育てる教育実践にある。 筆者は,2014年度において,10月から12月までの間,延べ15日間,2015年度において10月から12月まで延べ10日間にわたって入り,共同研究を行ってきた* 。
著者
赤間 恵都子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.259-266, 2017-03-24

国風文化が花開いた平安時代、文学の中心は和歌であり、勅撰和歌集が次々と編纂されていった。そんな時代に歌人の家系に生まれた清少納言は、『枕草子』という新しい形式の文学作品を生み出した。最初の勅撰和歌集として権威的存在だった『古今和歌集』と、それを意識して生み出されたに違いない新しい形式の文学と、二つの作品にはどのような違いがあるのか、両作品が取り上げる四季の景物の扱い方を比較検討することで明らかにしようと試みた。その最初の題材として、本稿では春の代表的な景物である「桜」を取り上げ、両作品の「桜」の用例をすべて抽出し、その内容を比較検討した。その結果、散る桜を詠う『古今集』に対して、散らない桜を演出する『枕草子』という対照的な様相がとらえられた。『枕草子』は『古今集』の文学的価値を認める一方で、『古今集』に対抗した独自の世界を創り上げたと考える。『枕草子』においては、桜は后の象徴として用いられており、清涼殿と二条邸(中宮定子の里邸)に設置された満開の大きな桜は、決して散らせてはいけないものだった。したがって、『古今集』が散る桜をどんなに賞美しても、『枕草子』は散らない桜の世界を描きとめたのである。両作品の四季の景物について、さらに検証をつづけていく予定である。
著者
石川 敬史 木原 正雄 渡辺 哲成
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.161-172, 2016-03-28

十文字学園女子大学司書課程では,各学科の専門的学びを活かしながら,図書館の現場とのつながりを重視した学科横断的な教育プログラムを構築している。こうした教育プログラムを司書課程単独で実践することは難しく,図書館関係企業や,地域に位置する書店,公共図書館などと連携を図ることにより可能になる。図書館現場が生きた教材として位置されることにより,学生の学びの成果が図書館の現場に還元され,同時に図書館関係者(図書館員,図書館関係企業社員等)の現場力の向上と,地域における図書館種をこえた図書館関係者同士の関係性構築につながる。こうした視点に立脚し,本稿では2013年度より進めている産学連携による2つの教育実践を報告する。第一は,利用者参画型の「図書館システムづくり」概念の構築を視野に入れ,日本事務器株式会社と連携した図書館システムを活用する教育実践である。第二は,図書館という「館(やかた)」を越えた「移動」する「図書館活動」の現代的意義の分析を視野に入れ,キハラ株式会社と連携したオリジナルブックトラックの制作である。これら企業との産学連携による教育実践を通して,学生と企業社員の学びを考察する。
著者
井上 久美子 向後 朋美 阿部 史 角田 真二 泉 直子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.109-116, 2016-03-28

【はじめに】情報機器の急速な普及に伴って多数の社会問題や健康問題が表出している。これらの問題解決のために,効果的な健康教育プログラムの立案に用いられるプリシード・プロシードモデルの枠組みが有効であるか,検討を試みた。【方法】本研究では,疫学アセスメントの項目である「行動とライフスタイル」として,女子大学生の情報機器の使用頻度と,通常授業日の1日の生活行動の流れに沿った使用状況をアンケート調査した。【結果と考察】対象者101人の90%以上はスマートフォン(以下,スマホ)を高い頻度で使用し,無料通話アプリであるLINEのチェックと書き込みを,起床時から就寝時に及んで行っていた。アルバイト時には使用が少ないのに対し,授業時間内,あるいは帰宅後から就寝前までの学習すべき時間帯での使用が顕著に見られ,プリシード・プロシードモデルの前提要因である,女子大学生のスマホ使用に対する意識や態度をアセスメントする必要性が明らかになった。また,食事時にスマホを使用する傾向は,特に友人と一緒の昼食時に多く観察され,食行動への直接の影響だけでなく,友人との人間関係の構築にも影響を及ぼすことが懸念された。【まとめ】プリシード・プロシードモデルは,段階的なアセスメントの結果から因果関係を推察し,課題を明確にするために用いるものである。今後は,「環境;疫学アセスメント」として社会環境がスマホ使用者に及ぼしている影響を,「健康;疫学アセスメント」として睡眠障害や心身の健康問題を,さらに「QOL;社会アセスメント」として,スマホを介したコミュニケーションによる人間関係とQOLとの関わりをアセスメントし,解決すべき優先課題の抽出とプログラムの立案をすすめるものである。