著者
佐藤(佐久間) りか
出版者
独立行政法人国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.45-57, 2002-09-30

本稿は,マスメディアによって形成された"強く自由な主体"としての<女子高生>イメージが,同年代の少女たちのセルフ・イメージにどのような影響を及ぼしているのかを,1999〜2000年に杉並区と浜松市で実施した質問紙調査とインタビュー調査の結果をもとに分析したものである。少女たちは,マスメディアの<女子高生g&t;イメージが,一部の「ギャル系」と呼ばれる少女たちによって代表されていると見ており,「女子高生=ギャル系」「ギャル系=援助交際」といった画一的・一面的な捉え方に不満を抱いている者が多い。しかし「ギャル系」の強さ,個性,仲間意識に対する肯定的な意見も多く,「ギャル系」に対する共感の存在も確認された。さらに今の時代に「女子高生であること」にどんなよい点があるかを聞いたところ,「自由気ままで楽しく,流行発信などを通じて社会に対して強い影響力を持てる」という回答が多く見られ,そうした"強く自由な"セルフ・イメージの背景に「ギャル系」への共感があることが示唆された。そこで「ギャル系」情報に特化した雑誌3誌の購読者を非購読者と比較したところ,「ギャル系」へのアイデンティフィケーションが強いと思われる購読者の方が,「女子高生であること」をより肯定的に捉える傾向があり,成人男性に声をかけられたり,お金で誘われたりする率も高く,援助交際をより普遍的な現象と捉えていることが明らかになった。しかし,少女たちは自分たちが謳歌している自由や力を,高校時代だけの期限付きのものとして自覚しており,女性として真に"強く自由な"主体形成には必ずしもつながっていない。彼女たちに「今が人生で-番いいときであとは下り坂」と思わせてしまうジェンダーのありようを問題化していくためにも,これまで成人男性と思春期女子が作り上げてきた<女子高生>言説の生成装置に,成人女性がより積極的に介入していく必要があろう。
著者
石崎 裕子
出版者
独立行政法人国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要
巻号頁・発行日
vol.8, pp.61-70, 2004-08

1998年版『厚生白書』で紹介された「新・専業主婦志向」は、「男は仕事と家事、女は家事と趣味(的仕事)」という新たな性別役割分業意識に基づいた20、30代の女性を中心とした専業主婦志向である。パートタイマーとして補助的労働に従事したり、いわゆるキャリアウーマンとして男性に伍して働きながら、家庭と仕事を両立させるくらいなら、経済力のある男性と結婚し、専業主婦として、経済的、時間的に余裕のある生活を送りたいという若い女性たちの選択肢の一つとしての専業主婦願望が、この調査結果から読み取れる。本論では、女性雑誌『VERY』を資料に用いて、女性の生き方の選択肢が曲がりなりにも多様化する中で浮かび上がってきた若い女性たちの専業主婦志向が、どのように描かれているかを明らかにしていく。家庭の経済的基盤を夫に支えてもらい、ランチやお稽古事を満喫する『VERY』に登場する幸福な専業主婦たちの姿は、「新・専業主婦志向」を見事なまでに体現している。
著者
南茂 由利子
出版者
独立行政法人国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要
巻号頁・発行日
vol.8, pp.71-80, 2004-08

アメリカ合衆国の著名な法学者キャサリン・A・マッキノンの提起するフェミニズム理論を検討する。まず、彼女の最重要課題が、セクシュアリティにおける平等であることを明らかにする。マッキノンは、現在のセクシュアリティ概念自体が男性優位社会の構築物であるとして、新たなセクシュアリティ概念の構築を主張するが、その具体的な内容は示さないままである。本稿は、それがマッキノン理論の根本的問題に由来すると捉えて、その克服方法を考察するものである。根本的問題とは、生殖の社会性という視点の欠落と、性別以外の社会的関係の無視である。それらを土台とするマッキノン理論は、「人種」、民族、階級等々の社会関係に規定されているセクシュアリティの現実を変革する具体的ヴィジョンを示すこともできない。男女平等をめざすにあたり、性別を理由とする不公正を正すうえで、セクシュアリティ追究の平等を中心に据える彼女の姿勢は、性別以外の人間の社会的諸関係を捨象したセクシュアリティ中心主義ともいうべきものである。それは、性別に限られない諸関係の中に位置づけられて生きている女性達の現実を打破する思想・運動の中心課題にはなりえない。マッキノンは、私的領域が女性抑圧の温床となることが避けられないとしてその廃止を提起する。それが誤った現状認識に立つ危険な提起であることを、本稿は論じている。ファリダ・アクターを主たる参照先としながら、公・私二領域論によっては社会の構造と人の営みを捉え得ないことと、マッキノンの提起が人の営みを国家が統括する法の監視にさらす危険を孕むことを明らかにする。近代以降広範に浸透した公・私二領域論を克服するためには、人間存在の二重性を再認識し、「個」を社会的に埋没させることのない民主的な社会関係の創造とともに、従来の公・私二領域という二元論を超える新しいイデオロギーの創造が必要とされる。
著者
楊 善英
出版者
国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要
巻号頁・発行日
no.9, pp.95-105, 2005

日本キリスト教婦人矯風会(以下、矯風会と略記する)は、近代日本における廃娼運動を担った女性団体である。矯風会は1893年に全国的な組織となり、支部の新設や会員の増加に力をいれる一方、地域の女性団体との連帯を模索していく。矯風会は当時において、女性ネットワーク運動の先駆的なものであったといえる。さらに1923年の関東大震災に際しては、女性団体を糾合し震災救援活動を行い、東京婦人連合会の結成に至るまで、中枢的な役割を果たしていくことになる。また、焼失した遊廓の再建に反対する運動を繰り広げるとともに、東京連合婦人会の研究部を母体とする公娼廃止期成同盟会を組織し、多様な活動家や参加者を吸収しながら、廃娼運動の全国的な展開を図ったのである。かくして、廃娼をめぐる世論が急速に高まり、その反響は国内にとどまらず、朝鮮にも波及していくことになる。日本の廃娼運動記事や廃娼論が朝鮮の日刊紙やキリスト教関連新聞・雑誌に取り上げられ報道されるとともに、芽生えつつあった朝鮮の廃娼運動を刺することになったのである。本稿は、矯風会の機関誌『婦人新報』を主な資料として実証を行うと同時に、従来研究においてほとんど使用されていなかった『婦人公論』『婦女世界』や朝鮮で発行された『毎日申報』『基督新報』などの新聞・雑誌をも参考資料として扱い、関東大震災直後、女性間に活発化していったネットワークを背景にして、社会運動かつ政治運動へと発展していく廃娼運動に着目し、その展開過程で見られる廃娼運動に対する反応や世論、そしてその反響を検討したものである。
著者
安達 一寿 青木 玲子 尼川 洋子 大西 祥世 森 未知
出版者
独立行政法人国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要
巻号頁・発行日
vol.9, pp.133-146, 2005-08
被引用文献数
1

「女性情報ポータル再構築プロジェクト委員会」は、使い勝手が良く信頼性の高い「女性情報ポータル」を再構築するために、女性情報提供の現況調査や国立女性教育会館(以下NWEC )の保有する各データベースへのニーズ調査などを行い、「女性情報ポータル」として備えるべき内容、機能、仕様、運用について検討を行った。初めに、インターネット、女性関連施設などから提供されている女性情報の現状調査と利用者に対する現状の情報提供に関する評価をモニター及びアンケート方式で行い、今後のポータル利用想定者とそのニーズに関する分析を行った。次に、ナショナルセンターとしてのNWEC が提供する「女性情報ポータル」の役割として、グローバルな女性情報ネットワークのフォーカルポイントとしての役割、多様な利用者に対する操作性の確保、既有データベースと情報検索システムの改良による資源の活用などの再構築方針を決定した。同時に、「女性情報ポータル」の持つべき機能を、分析結果より抽出し、「女性情報ポータル」に必要な要素として、アクセス支援、情報検索、ナビゲーション、コミュニティーなどの観点から検討を行った。それらの結果より、「女性情報ポータル」が持つべき機能仕様が策定でき、サイト構成の原案、並びにポータル再構築に必要な設計を行うことができた。この「女性情報ポータル」を構築することにより、多くの利用者に対して有効な情報提供が可能になると考えられる。
著者
武藤 裕子
出版者
独立行政法人国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要
巻号頁・発行日
vol.9, pp.85-94, 2005-08
被引用文献数
2

本論は婦人保護施設利用者の変化を通して、施設の存在意義と今後のあり方を検討するものである。戦後成立した売春防止法において、婦人保護施設は「都道府県は、要保護女子を収容保護するための施設(以下「婦人保護施設」という。)を設置することができる」(第36条)と謳われ、公私の別なく各地に設置された。しかし高度経済成長期を過ぎると新規施設利用者数は減少し、平成に入るころには障害を持っているために社会復帰が困難とされる女性たちが施設に残り、利用者は高齢化していった。それゆえ、一時期には「婦人保護施設廃止論」が取りざたされたが、今日では「配偶者からの暴力の防止および被害者の保護に関する法律」の中で被害者の避難場所としての機能を併せ持つようになり、施設に対する関心は高まりつつある。利用者の変化に伴ってニーズは変化しつつあり、複雑な問題を抱えた利用者を援助するためには、ワーカーはより高い専門性が求められている。また男女共同参画社会が謳われる今日、女性だけを対象とした婦人保護施設の存在意義はもう一度確認される必要があると思われる。本稿では売春防止法制定以前に検挙された女性を対象に行われた調査、法制定後の婦人相談所と婦人保護施設の調査、そして平成7年から10年にかけて行われた調査結果をもとに、それぞれの時代の女性の特性をつかみ、どのように変化していったかを考察し、今後の婦人保護施設の在り方とサービスを考える一石としたい。
著者
中野 波津巳
出版者
独立行政法人国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要
巻号頁・発行日
vol.9, pp.107-114, 2005-08

1999年に男女共同参画社会基本法が施行され、男女共同参画を推進する動きが一気に加速すると思ったのも束の間、多くの自治体で男女共同参画推進条例の制定にクレームがつくなど、昨年頃からバックラッシュの動きが勢いを増している。また、男女平等を目指した法的整備が進んでも、人々の意識の中には依然としてジェンダーによる固定観念が根強く残っている。こうした状況の中で男女共同参画を着実に推進していくには、女性のエンパワーメントこそが重要な意味を持つと考える。本稿では、女性のエンパワーメントが社会を変える原動力となった事例として、鶴ヶ島市ひまわり会(以下「ひまわり会」と記述)の16年間の足跡を追う。埼玉県鶴ヶ島市で農業を生業とする女性たちのグループ「ひまわり会」は、1988年9月に会を結成して以来16年間にわたり、家族や地域にさまざまな影響を与えながら活動を続けてきた。農家の嫁としての苦労や悩みを打ち明け合うことから次第に関心を広げ、生産者と消費者との交流イベントに取り組んだり、審議会などの委員として公の場で発言の機会を得るなど活動の幅を着実に広げてきた。最近では、女性農業者の地位の確立や農業後継者を育てることを目指す「家族経営協定」の締結にも積極的に取り組んでいる。こうした「ひまわり会」のエンパワーメントの過程を踏まえた上で、「ひまわり会」と行政とのかかわりを検証しながら、女性のエンパワーメントのために行政が果たすべき役割について考察する。
著者
中村 彰
出版者
独立行政法人国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要
巻号頁・発行日
vol.9, pp.57-67, 2005-08

メンズリブの市民活動を始めて十数年、男たちの語りの場を提供してきた。活動の主たる目的は、男女共同参画社会の実現をめざす男性側の取り組みである。男性が「男らしさ」に縛られることなく、また女性を抑圧することなく、いきいきと生活できる社会環境づくりを訴えてきた。といっても、これまでの十数年のあゆみは、社会へのメッセージの発信よりも、私たちと出会いのあった人たちに癒しの場、リフレッシュして自分探しができる場を提供することが主たる活動だった。男たちだけの場にこだわったのは、女性にエエカッコをみせたい男たちが、ふだんは晒してはいけないと自己規制している自分の内面、多くは「強く、たくましくあれ」という男らしさのしばりとは対極の自分のもろさや弱さと向き合う機会にしたかったからである。