著者
小泉 康一 コイズミ コウイチ Koizumi Koichi
雑誌
大東文化大学紀要. 社会科学 (ISSN:09122338)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.276(1)-254(23), 2014-03-31

在日ビルマ人の多くは、首都圏に住む。特に、東京都新宿区に集まっている。同区の推定で、ビルマ人の約60%が難民・難民申請者である。彼らは20~40代の単身男性である。多くのビルマ人は難民申請をし、仮放免中と不安定な立場である。彼らは就労を禁止されているが、生活のため厳しい労働条件化で長時間働いている。"不法就労"のため、入管、警察の摘発に怯えて暮らしている。入管からの呼び出しは恐怖である。元々、ビルマ人は民主化したらビルマに帰る気持ちが強い。一方、米、加、豪に再定住の気持ちを持つ人もいる。日本には、短期ビザで入国しやすいから来ている。しかし帰国か、米等への再定住かという二つの選択肢に、"揺らぎ"が出ている。将来の展望が見えない中で、日本での長期滞在、定住化が進んでいる。ビルマ人は、日本の出入国管理制度・難民認定制度と、母国の政治状況の間で浮遊している。
著者
呉 栽喜 オウ ジエヒ Oh Jaehee
雑誌
大東文化大学紀要. 社会科学 (ISSN:09122338)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.53-67, 2014-03-31

子どもの貧困は、経済的困難を表すだけでなく、子どもの成長過程における様々な体験からの剥奪を意味する。日本では貧困研究は1970年代までは盛んであったが、その後の経済成長とともに貧困の問題は注視されずにいた。特に、子どもの貧困に関する社会福祉研究は乏しく、地域社会や家族における「子ども貧困」という捉え方としての研究はあまり蓄積されてないのが現状である。貧困状況が顕著な母子家庭において母親の就業率が他の世帯より高い状況にも関わらず多くの母子家庭の子ども達において貧困率が高くなっており、その原因として、日本における教育関係の公的支出が少ないことや、貧困のリスクを抱える層の税・社会保障負担が大きすぎることも子育て家庭における高い貧困率の原因であることが明らかになった。子ども期の貧困状況を改善することは、子育てを「家庭の責任」から「社会の責任」へと捉え直していくことが求められる。
著者
川床 靖子 カワトコ ヤスコ Kawatoko Yasuko
雑誌
大東文化大学紀要. 社会科学 (ISSN:09122338)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.69-82, 2014-03-31

徳島県の中山間地、上勝町で葉っぱビジネスに従事する60歳代から90歳代の高齢女性の実践をエスノグラフィー(生き生きと詳細に描くという意味)し、「高齢者」あるいは「高齢女性」に関するカテゴリー化への反証事例を提示した。かつて、上勝の女性たちは「高齢者」あるいは「高齢女性」についてのカテゴリー化、例えば、"年寄りはPCやスマホに関心がない。触ろうともしない""年寄りは流行やお金儲けに疎い""年寄りが自分で生きがいを見いだすことはむずかしい"といった"存在のあり方"、つまり、"エージェンシー"をそのまま体現していたという。そのような女性たちが葉っぱビジネスへの参加を通して、情報技術との関係はもとより、当該文化における他のメンバーとの関係、自己の生き方への自信を再構築している。人、もの、装置のどのようなコンフィグレイションのもとで、彼女たちは変化したのか。そのいきさつを科学技術社会論的アプローチによって分析した。
著者
鄭 新培
出版者
大東文化大学
雑誌
大東文化大学紀要. 社会科学 (ISSN:09122338)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.171-176, 2003-03-31

中国社会はこの二十年間大きく変化した。80年代から改革開放政策を押し進め、自由経済体制への転換をはかったことによって高度成長が続き、国際間の経済、文化、人的な交流が盛んになり、かつての中国社会の面影も見えなくなるほど大きく変わり、かつ新しい社会が完成しつつある。これには、香港、台湾、マカオ、東南アジアを中心とする華人経済が大きな役割を果たした。それと同時に新しい社会に対応するための華人は、海外での独有の文化、言語も中国に伝入した。中国の社会変化に大いに影響を与えた。勿論、世界各国、とくにアメリカや日本の影響も大きかった。たとえば、生活様式、服装、居住、生活用品、芸術文化、音楽とくにロック、流行歌などがある。その上言葉も影響を与えた。たとえば、日本語の「人气」、「料理」、「〓拉OK」、「写真」、「独身貴族」、英語の「媽〓」、「OK」、拜拜」、香港、台湾などの華人圏の「超級市場」、「發廊」、「巴士」、「的士」、「買単」などがある。これらの新しい社会現象の変化につれて、中国自身も沢山の新しい言葉が生れた。例えば、「小皇帝」(わがまま甘い子)、「灰色收入」(不正収入)。さらに解放後、使われなくなった言葉が復活した。例えば、「老板」(オーナー、主人)、「小姐」(お嬢さん)。ある意味で、中国は今新しい文化と言語の開花の時代を迎えているどころだ。ここでは近年来、社会現象を反映する新しい語言についていくつか代表的なものを挙げて中国の社会問題の一端を見ることにする。言語と社会生活の密切な関係を検証しようと思う。