著者
橘 信
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成29年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.19, 2017 (Released:2017-06-30)
参考文献数
2

はじめに ルビーやサファイアの結晶育成法にはいろいろあるが、合成宝石として一番価値がでるのはフラックス法であろう。フラックス法でつくられた結晶は表面が鏡のように平らになるので、カットや研磨をしなくても芸術的な作品になることがある。事実、みごとな Ramaura ルビーや Knischka ルビーの写真は宝石学のいろいろな本や雑誌で使われており[1,2]、これらの結晶の特徴はこまかく調べられている。ただし、育成方法や育成条件の詳細は公開されていない。本講演者の専門は物性物理であり、測定試料を得るためにこれまでいろいろな結晶をフラックス法によって育成してきた。ある時、何かのきっかけで宝石学の本を読み、はたして自分も Ramaura ルビーや Knischka ルビーのような芸術作品がつくれるのか、という疑問が沸いてきた。そこで、物性研究用の酸化物結晶をつくるのと同じ要領で、 ルビーやサファイアのフラックス結晶育成を始めた。実験結果 実験を始めた当初は薄い板状の結晶ばかりが得られ、結晶を厚くしようとすると表面が粗い結晶やフラックスの内包が顕著な結晶ばかりが成長した。いろいろな試行錯誤の末、 Ramaura ルビー[1]と同じ晶癖をもつ結晶の育成に成功した(Fig.1)。ただし、結晶の完全性という点では Ramaura ルビーにまだ遠く及ばない。この他にもサファイアや他の晶相をもったルビーについても育成実験を行ったので、本講演では結晶成長論に基づいて実験結果を議論する。
著者
林 政彦 高木 秀雄 安井 万奈 山崎 淳司
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成29年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.10, 2017 (Released:2017-06-30)

はじめに 1962 年に, 東京芝浦電気株式会社 中央研究所(現東芝研究開発センター)で合成ダイヤモンドが製造さ れた.これはスウェーデンのASEAで 1953 年に,米国のGEでは 1954 年に製造されてから僅か数年後の事である.この頃に東芝で造られたとされる合成ダイヤモンドが,早稲田大学の鉱物標本室に収蔵されていたので,その特徴について報告する.特 徴 この標本は,ほぼ無色の色調を呈し,表面に見られる成長模様から{100}で囲まれた結晶と見られる(Fig.1).その外観は,コンゴ産の天然ダイヤモンドに似ている.この標本の成長の様子を調べるために RELION Industries 製 RELIOTRON を使いてカソ―ドルミネッセンス(CL)像を観察したところ, 小さなセクターに分かれた組織が認められた(Fig.2).
著者
山田 篤美
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成29年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.6, 2017 (Released:2017-06-30)

今日、宝石の王者はダイヤモンドである。しかし、人類 5000 年の歴史を俯瞰すると、長い間、宝石の世界に君臨してきたのはダイヤモンドではなく、真珠であったことが明らかになる。本講演では最上の宝石だった真珠の歴史をダイヤモンドと比較しながら解説する。正確を期すると真珠は鉱物ではなく、有機物の一種である。しかし、真珠は伝統的に宝石と見なされてきた。たとえば、 古代ローマのプリニウスは『博物誌』の中で真珠を最高位の宝石のひとつと位置づけている。一方、プリニウスはキュウリの種ほどのダイヤモンドも貴重視していたが、それらは工具としての実用性が評価されたもので、「宝石」としての評価ではなかった。古代ローマ人憧れの真珠であったが、その産地は多くはなかった。自然界では海産真珠貝、淡水産真珠貝が多種多様の真珠を生み出してきたが、丸く美しく光沢のある真珠を生み出す貝は、海産のピンクターダ属(genus Pinctada)の真珠貝などに限られていた。ピンクターダ属の真珠貝の中でも、真珠採取産業を成立させるアコヤ系真珠貝(Pinctada fucata/martensii/radiata/imbricata species complex)の生息地は、古代・中世においては、ペルシア湾、インド・スリランカの海域、西日本の海域ぐらいしか知られていなかった。つまり、ヨーロッパ人にとってアコヤ系真珠は、コショウ同様、オリエント世界でしか採れない貴重な特産品だった。その状況が一変したのが 16 世紀の大航海時代である。 1492 年、コロンブスはカリブ海諸島に到達し、その 6 年後、南米ベネズエラ沿岸で真珠を発見する。実はベネズエラ沖はもうひとつのアコヤ系真珠貝の産地であった。オリエントに代わる真珠の産地となったベネズエラには征服者、航海者が押し寄せ、略奪と虐殺が繰り広げられた。 16 世紀のヨーロッパは真珠の時代であり、南米の真珠がヨーロッパ王侯貴族のジュエリー、ドレスを飾ったが、その真珠はブラッド・ダイヤモンドならぬブラッド・パールであったのである。一方、ダイヤモンドについても、大航海時代になると、インドの王侯の独占が崩れ、流通が増加。 17 世紀以降のヨーロッパではブリリアント・カットが発明され、ダイヤモンドと真珠が二大宝石となっていく。しかし、 19 世紀の南アフリカのダイヤモンドの発見でダイヤの値段が暴落、真珠は再びダイヤモンドよりも希少になった……。 真珠の歴史をダイヤモンドとの関係性の中で考察すると、小さな真珠がもたらした壮大で壮絶な歴史が浮かび上がるのである。
著者
南條 沙也香 矢崎 純子 松田 泰典 小松 博
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成29年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.26, 2017 (Released:2017-06-30)

真珠は、主に炭酸カルシウムとタンパク質からなる多層薄膜構造である。文化財において古墳から出土した真珠は白濁化しており、タンパク質が分解などにより大部分が消失した結果との報告がある(1987 年、「鳥浜貝塚」調査報告)。このことはタンパク質が保存環境により変質する場合があることを示し、タンパク質シートが真珠の結晶層の維持に重要な役割を果たしていると考えられる。現在流通している真珠は加工されているものが多く、その工程の中に行われる溶液に浸漬、加熱乾燥などで真珠層内部の有機物を多く含む稜柱層などの脆弱な箇所から、層われ、ヒビ、剥離などの劣化が起こる場合もある。さらにこれらの劣化現象は保管時の温湿度変化などでさらに顕在化する。これらの真珠の欠陥は真珠の品質に大きく関係しているため、流通の際には注意する必要がある。今回はこれらの劣化現象のうち加工キズの劣化現象について、見え方、構造、原因などで体系化することを目的とした。特に加工キズの中のひびについて断面の構造を観察し、その成因について考察した。また、温度サイクルによる加速実験を行い、どのように顕在化するかを検証した。