著者
由利 素子
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究
巻号頁・発行日
vol.43, pp.31-38, 2012-01-31

最近のタイツは防寒用としてだけでなく、柄や色などが豊富で、おしゃれを演出する一部として着用されている。そこで、20 代の女子学生を対象に、柄と肌の露出程度が異なる5 種のブラックタイツを用いて印象評価を行い、タイツの印象に及ぼす柄と肌露出度の影響について13 の評価項目を用いて調査することにした。印象評価は、タイツを脚型に着装させ、SD 法で行った。その結果、タイツの評価要因は、露出度の影響を受けて評価が行われる評価項目と柄の印象で評価される評価項目、柄と露出度両方の影響によって評価される評価項目に分かれることがわかった。各13 評価項目の評価値について主成分分析を行った結果、『魅力』と『品の良さ』の2 成分が抽出できた。5 種のタイツともに『魅力』あるタイツではあるが、露出度が小さすぎるもの、あるいは大きすぎるものは『魅力』が低くなる。また、網柄タイツより花柄タイツの方が『魅力』があると評価されている。『品の良さ』に関しては、柄に関係なく露出度が大きくなるに従い、上品から下品に変化することが判った。
著者
福田 博美
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.47-61, 2013-01

江戸時代中期、鈴木春信(?-1770)は多色摺による錦絵を草創させた浮世絵師である。本論文は春信の「初摺」と「後摺」の相違および「後摺」の多様性に着目し、摺りの比較から服飾描写の特色を考察し、その背景を交友関係より捉え、当時の服飾文化の一面を解明することを目的とする。『浮世絵聚花』を主要図版資料とし、摺りの重なる絵暦・見立絵・揃物に注目した。錦絵は明和2(1765)年の絵暦交換会で好事家・画工を中心に創案され、高級な奉書紙に技法が凝らされた。春信の高価な初摺は、富裕な購買層を中心に、特に三井家では京都本店への土産として重宝された。一方、再版となる後摺は、安価なため急速に庶民層へ広まり、春信の画工名を記すことで価値付けられた。幕府の禁令下、春信の錦絵制作の背景には巨川や莎雞らの工案者をはじめ、画工を学んだ西川祐信や近所の住人で親交のあった平賀源内と有力なパトロンであった三井高美との交友関係がみられた。春信の服飾描写における摺りの違いは小袖・帯・羽織等の模様に表れた。そこに鶴の丸・雪・源氏香・市松模様や空摺による布目模様がみられ、特に多様な雪模様は春信の独自性を示した。
著者
深田 雅子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.75-80, 2015-01-31

現存するアイヌの衣服の多くには、アツシなどの植物衣や木綿衣の襟ぐり、袖口、裾周りに藍染めの木綿布が使われている。それらは内地で染めたもので、貴重だったと言われている。本研究では、アイヌの衣服に使用された藍染めの木綿布に着目し、なぜ藍染めが多用されたのか、その染色方法と役割、象徴性について明らかにすることを目的とする。研究方法は文献調査と、北海道白老町、登別市、沙流郡二風谷において聞き取り調査を行った。これらの調査から、江戸時代、アイヌは和人との交易や労働の報酬として藍染めの木綿布を手に入るようになり、樹皮衣アツシの補強や、着物に刺繍を施すための土台として切伏せ(アップリケ)のように使用し、その刺繍には魔除けや家族の健康を願う様々な思いが込められていることがわかった。また、藍色そのものも除魔力を持つと考えられており、裾や袖口などの縁に細く切った藍染めの木綿布を縫い付け、悪い神が入らないようにした。布を染めた藍については、内地で染められたという考えのほかに、エゾタイセイ(蝦夷大青)で染めた可能性と、藍以外の草木で彼ら自身が染めた可能性があることがわかった。
著者
尾形 恵
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
no.44, pp.125-130, 2013-01

本論文は、日本人の洋装化がどのような経緯で普及したか、また日本人女性が着用した洋装に和服地が使われていたのかについて調査することを目的とする。日本の洋装化は江戸時代に始まっていたが市民に普及することはなく、明治時代に外交問題解決や社交場などとして造られた鹿鳴館で、上層階級の人々が欧米のバスルスタイルを取り入れた洋装化をきっかけとして、一部の市民への洋装化の浸透を促したといえる。このバスルスタイルのドレスは海外からの輸入に頼るだけではなく、洋裁技術を日本人が習得、着用する姿が浮世絵に残されていた。浮世絵に描かれる日本女性の着装しているドレスの柄と、きものの文様について関係性を調べた結果、鹿鳴館スタイルのドレスの柄には植物の柄が多く、梅や牡丹といった日本人に親しみ深い花や、蔦を図案化した唐草文様が描かれていた。唐草文様は中国より伝来し日本独自に発展した文様である。また、幾何学文様では菱文が多く見られ、発生は縄文時代と古いものである。いずれも日本のきものの柄の中にも取り入れられてきた文様である。このことからもバスルドレスを日本人が作るにあたり、和服地を利用してきたことが分かった。
著者
大石 さおり 北方 晴子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.63-73, 2013-01

本稿では、現代日本における男性役割観について、次の2点を目的として調査を行った。(1)現代日本社会における男性役割観を測定する尺度の作成、(2)男性役割観についての考えが性別や年代によって異なるのかについての検討、である。予備調査で収集した186の特性が現代男性にとって重要な程度について、関東1都3県在住の男女419名(10〜50代)の回答を対象として分析を行った。(1)尺度の作成については、最終的に55項目からなる尺度を作成した。尺度の因子構造は、5因子とすることが妥当であった。第1因子より"社会的望ましさ"、"見た目のよさ"、"個性"、"豪快さ"、"精神的強さ"と命名し、これらを現代日本における男らしさ測定尺度の下位概念とした。(2)については、現代の男らしさの概念には、性別によって考え方が異なる下位概念と年代によって考え方が異なる下位概念が含まれていることが明らかとなった。具体的には、女性は男性より、男性に対し社会的望ましさや豪快さを求めている傾向がみられた。一方で、10代の男女は男性により外見的なよさや個性を重要視しているということがわかった。
著者
菊田 琢也
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.37-45, 2014-01-31

現代社会において、「自分らしさ」の表示や自己形成は無数に存在する商品をいかに取捨選択するかといった消費行動と大きく関係している。アンジェラ・マクロビーらは、少女たちが自分の部屋や身体といった私的領域を雑多なアイテムによって装飾することを通じて独自の文化を形成していく様子について言及しているが、その際に注目されたものの1 つが「雑貨」である。購入しやすく、所有しやすいという特徴を持つ雑貨は、「自分らしさ」を表現する上で容易に選択することができる消費対象として位置付けられる。本稿は、雑誌『オリーブ』における雑貨の取り上げられ方を考察することで、少女たちの自己形成と消費行動との関係について論じたものである。誌面のなかで「おしゃれ小物(おしゃれ生活小物)」として取り上げられる雑貨は、『オリーブ』が80 年代に「リセエンヌ」なる少女像を通して積極的に提案していた「チープ・シック」というスタイルを象徴するものとして位置付けられていた。そしてそれは、『オリーブ』の主要な読者層である中高生の女子という経済的に自立する前段階の「少女」という状況下と結びついた価値の創出でもあったのだ。
著者
北方 晴子 大石 さおり
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
no.44, pp.63-73, 2013-01-31

本稿では、現代日本における男性役割観について、次の2点を目的として調査を行った。①現代日本社会における男性役割観を測定する尺度の作成、②男性役割観についての考えが性別や年代によって異なるのかについての検討、である。予備調査で収集した186の特性が現代男性にとって重要な程度について、関東1都3県在住の男女419名(10~50代)の回答を対象として分析を行った。①尺度の作成については、最終的に55項目からなる尺度を作成した。尺度の因子構造は、5因子とすることが妥当であった。第1因子より“社会的望ましさ”、“見た目のよさ”、“個性”、“豪快さ”、“精神的強さ”と命名し、これらを現代日本における男らしさ測定尺度の下位概念とした。②については、現代の男らしさの概念には、性別によって考え方が異なる下位概念と年代によって考え方が異なる下位概念が含まれていることが明らかとなった。具体的には、女性は男性より、男性に対し社会的望ましさや豪快さを求めている傾向がみられた。一方で、10代の男女は男性により外見的なよさや個性を重要視しているということがわかった。
著者
千葉 悦子
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究
巻号頁・発行日
vol.43, pp.11-20, 2012-01-31

ベルベットの特徴である添毛によって作られる毛並方向と裁断時の布目方向に着目し、黒、青、緑、赤、白の5 色のレーヨンベルベットに「格子の四隅をすくっていく方法」のラティススモッキングを用いた場合の装飾模様の形状観察と装飾効果の有効性について検討した。装飾模様の形状の観察結果から、逆毛方向に構成された装飾模様は、なで毛方向より濃く見えていた。布目方向がたて方向に裁断された試料に施された装飾模様の花弁の形状は、花弁が形成される方向と布の剛軟度の硬いたて方向が一致するため、装飾模様は立体的できれいな形状に保たれ、高い評価が得られた。同じ色の試料について毛並方向・布目方向の組み合わせが異なる設定の7 種について、順位法を用いて模様を評価した結果、青、緑、赤、白の4 色は共通して、逆毛方向・たて方向の試料に対して装飾効果の有効性が高いと評価された。しかし、低明度の黒は、逆毛方向バイアス方向の試料が高く評価された。逆毛方向・たて方向の試料について、色の違いによる装飾模様の印象と装飾効果について順位法を用いて評価した結果、赤は装飾模様の装飾効果の有効性で最も高い評価が得られた。
著者
深田 雅子
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.75-80, 2015-01-31

現存するアイヌの衣服の多くには、アツシなどの植物衣や木綿衣の襟ぐり、袖口、裾周りに藍染めの木綿布が使われている。それらは内地で染めたもので、貴重だったと言われている。本研究では、アイヌの衣服に使用された藍染めの木綿布に着目し、なぜ藍染めが多用されたのか、その染色方法と役割、象徴性について明らかにすることを目的とする。研究方法は文献調査と、北海道白老町、登別市、沙流郡二風谷において聞き取り調査を行った。これらの調査から、江戸時代、アイヌは和人との交易や労働の報酬として藍染めの木綿布を手に入るようになり、樹皮衣アツシの補強や、着物に刺繍を施すための土台として切伏せ(アップリケ)のように使用し、その刺繍には魔除けや家族の健康を願う様々な思いが込められていることがわかった。また、藍色そのものも除魔力を持つと考えられており、裾や袖口などの縁に細く切った藍染めの木綿布を縫い付け、悪い神が入らないようにした。布を染めた藍については、内地で染められたという考えのほかに、エゾタイセイ(蝦夷大青)で染めた可能性と、藍以外の草木で彼ら自身が染めた可能性があることがわかった。
著者
田中 里尚
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.149-158, 2013-01

1921(大正10)年に創刊された『青木時報』は、長野県小県郡青木村の青年会員たちによって、1961(昭和36)年まで刊行され続けた地域誌である。これは、国内外の政治情勢を村内に知らしめるとともに、村内の諸問題を自立的に追及・解明する目的をもつ興味深い地域史料である。本研究ノートでは、『青木時報』における青年団運動が戦後においてとりあげた問題として、生活改善要求に注目し戦後経験の一つを描いた。すなわち、生活改善の希求は、単に経済的な次元の問題として捉えられたのではなく、若者が嫌悪する農村の因習性に対する改善欲求として現れた。そのため、表層的な経済的復興のみならず、生活文化を向上させるための内面的運動と相補的に結びついて進めることが目指された。その中心的センターとして誘致されたものが公民館であった。1950年代後半に、若者の流出が運動を解体させる危機に陥る中で、文化運動と生活改善運動は公民館を基点として雁行しながら進められた。最終的に、これら青年団運動のいくつかは公民館に吸収され、公民館運動の一つとして再編成された。この『青木時報』に描かれた経験は広域的地域における公民館運動史の前史として理解しうることを明らかにした。