著者
由利 素子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.31-38, 2012-01

最近のタイツは防寒用としてだけでなく、柄や色などが豊富で、おしゃれを演出する一部として着用されている。そこで、20 代の女子学生を対象に、柄と肌の露出程度が異なる5 種のブラックタイツを用いて印象評価を行い、タイツの印象に及ぼす柄と肌露出度の影響について13 の評価項目を用いて調査することにした。印象評価は、タイツを脚型に着装させ、SD 法で行った。その結果、タイツの評価要因は、露出度の影響を受けて評価が行われる評価項目と柄の印象で評価される評価項目、柄と露出度両方の影響によって評価される評価項目に分かれることがわかった。各13 評価項目の評価値について主成分分析を行った結果、『魅力』と『品の良さ』の2 成分が抽出できた。5 種のタイツともに『魅力』あるタイツではあるが、露出度が小さすぎるもの、あるいは大きすぎるものは『魅力』が低くなる。また、網柄タイツより花柄タイツの方が『魅力』があると評価されている。『品の良さ』に関しては、柄に関係なく露出度が大きくなるに従い、上品から下品に変化することが判った。
著者
鹿島 和枝
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.13-25, 2013-01
被引用文献数
1

衣服の作品製作において、デザインに合ったシルエットを表現するためには、素材に適した縫製が求められる。その縫製方法を選択する指針を得るため、パニエを使用するAラインのウェディング・ドレスの裾上げ方法について検討した。3 種類の布地ごとに縫製方法の異なる6 種の試料を製作し、官能検査による裾の仕上りを評価した。(1)シノンウールは、裾部分の剛軟度が高い方法は評価が高く、ホースヘアブレードをヘムに入れる方法やダブルオーガンジーのバイアスの別見返しで始末する方法、共布の別見返しで始末する方法は評価が高い。(2)サテンクレープはドレープ性があり、ヘムに張りがないと垂れてまつりのひびきが大きくなることから、ホースヘアブレードをヘムに入れる方法やハイモで裏打ちする方法は評価が高い。(3)シルクタフタはドレープ性がなく、布地が平坦でヘムやまつり目が表面にひびくため、オーガンジーで裏打ちする方法が最も評価が高い。以上の官能検査による評価と裾部分の物性との相関性を分析した結果、厚さと剛軟度の計測から縫製方法を選択すると良いことがわかり、学生へ縫製指導上の指針が得られたので報告する。
著者
深田 雅子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.75-80, 2015-01-31

現存するアイヌの衣服の多くには、アツシなどの植物衣や木綿衣の襟ぐり、袖口、裾周りに藍染めの木綿布が使われている。それらは内地で染めたもので、貴重だったと言われている。本研究では、アイヌの衣服に使用された藍染めの木綿布に着目し、なぜ藍染めが多用されたのか、その染色方法と役割、象徴性について明らかにすることを目的とする。研究方法は文献調査と、北海道白老町、登別市、沙流郡二風谷において聞き取り調査を行った。これらの調査から、江戸時代、アイヌは和人との交易や労働の報酬として藍染めの木綿布を手に入るようになり、樹皮衣アツシの補強や、着物に刺繍を施すための土台として切伏せ(アップリケ)のように使用し、その刺繍には魔除けや家族の健康を願う様々な思いが込められていることがわかった。また、藍色そのものも除魔力を持つと考えられており、裾や袖口などの縁に細く切った藍染めの木綿布を縫い付け、悪い神が入らないようにした。布を染めた藍については、内地で染められたという考えのほかに、エゾタイセイ(蝦夷大青)で染めた可能性と、藍以外の草木で彼ら自身が染めた可能性があることがわかった。
著者
尾形 恵
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
no.44, pp.125-130, 2013-01

本論文は、日本人の洋装化がどのような経緯で普及したか、また日本人女性が着用した洋装に和服地が使われていたのかについて調査することを目的とする。日本の洋装化は江戸時代に始まっていたが市民に普及することはなく、明治時代に外交問題解決や社交場などとして造られた鹿鳴館で、上層階級の人々が欧米のバスルスタイルを取り入れた洋装化をきっかけとして、一部の市民への洋装化の浸透を促したといえる。このバスルスタイルのドレスは海外からの輸入に頼るだけではなく、洋裁技術を日本人が習得、着用する姿が浮世絵に残されていた。浮世絵に描かれる日本女性の着装しているドレスの柄と、きものの文様について関係性を調べた結果、鹿鳴館スタイルのドレスの柄には植物の柄が多く、梅や牡丹といった日本人に親しみ深い花や、蔦を図案化した唐草文様が描かれていた。唐草文様は中国より伝来し日本独自に発展した文様である。また、幾何学文様では菱文が多く見られ、発生は縄文時代と古いものである。いずれも日本のきものの柄の中にも取り入れられてきた文様である。このことからもバスルドレスを日本人が作るにあたり、和服地を利用してきたことが分かった。
著者
菊田 琢也
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.37-45, 2014-01-31

現代社会において、「自分らしさ」の表示や自己形成は無数に存在する商品をいかに取捨選択するかといった消費行動と大きく関係している。アンジェラ・マクロビーらは、少女たちが自分の部屋や身体といった私的領域を雑多なアイテムによって装飾することを通じて独自の文化を形成していく様子について言及しているが、その際に注目されたものの1 つが「雑貨」である。購入しやすく、所有しやすいという特徴を持つ雑貨は、「自分らしさ」を表現する上で容易に選択することができる消費対象として位置付けられる。本稿は、雑誌『オリーブ』における雑貨の取り上げられ方を考察することで、少女たちの自己形成と消費行動との関係について論じたものである。誌面のなかで「おしゃれ小物(おしゃれ生活小物)」として取り上げられる雑貨は、『オリーブ』が80 年代に「リセエンヌ」なる少女像を通して積極的に提案していた「チープ・シック」というスタイルを象徴するものとして位置付けられていた。そしてそれは、『オリーブ』の主要な読者層である中高生の女子という経済的に自立する前段階の「少女」という状況下と結びついた価値の創出でもあったのだ。
著者
北方 晴子 大石 さおり
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
no.44, pp.63-73, 2013-01-31

本稿では、現代日本における男性役割観について、次の2点を目的として調査を行った。①現代日本社会における男性役割観を測定する尺度の作成、②男性役割観についての考えが性別や年代によって異なるのかについての検討、である。予備調査で収集した186の特性が現代男性にとって重要な程度について、関東1都3県在住の男女419名(10~50代)の回答を対象として分析を行った。①尺度の作成については、最終的に55項目からなる尺度を作成した。尺度の因子構造は、5因子とすることが妥当であった。第1因子より“社会的望ましさ”、“見た目のよさ”、“個性”、“豪快さ”、“精神的強さ”と命名し、これらを現代日本における男らしさ測定尺度の下位概念とした。②については、現代の男らしさの概念には、性別によって考え方が異なる下位概念と年代によって考え方が異なる下位概念が含まれていることが明らかとなった。具体的には、女性は男性より、男性に対し社会的望ましさや豪快さを求めている傾向がみられた。一方で、10代の男女は男性により外見的なよさや個性を重要視しているということがわかった。
著者
田中 里尚
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.69-82, 2016-01-31

戦中・戦後期におけるアメリカ文化受容の様相について、服飾雑誌『装苑』という史料を軸にして、その表象の変容を追った。1936 年創刊の『装苑』は、太平洋戦争が始まるまでの間、アメリカの服飾流行を好ましく思い、その「合理性」や「経済性」について、パリ・モードよりも高く評価していた。戦争が泥沼化する中でアメリカの服飾流行は否定されていくが、論者の中には一定の評価を与えるものもあった。戦後において、『装苑』は、論説内においてはアメリカ服飾流行に対して一定の距離を置くが、グラビア表現はアメリカンスタイルそのものであり、論説と画像の方向が乖離していた。1949 年ごろから、それらの乖離を埋める努力が始まったが、洋裁教育自体がパリを向きつつあったため、アメリカ服飾流行の意味づけで議論となった。1952 年には、「アメリカンスタイル論争」が開始され、アメリカ服飾流行への批判が強まった。その結果、アメリカ服飾流行は若者向きで、物質的な力を背景とした既製服製造に最も適合したスタイルとしてのみ描かれるようになった。したがって、日本の戦後において、アメリカ衣料が若者・既製服向けとされるに至った経緯は、服飾雑誌における表象の推移にも見て取ることができよう。
著者
深田 雅子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.75-80, 2015-01

現存するアイヌの衣服の多くには、アツシなどの植物衣や木綿衣の襟ぐり、袖口、裾周りに藍染めの木綿布が使われている。それらは内地で染めたもので、貴重だったと言われている。本研究では、アイヌの衣服に使用された藍染めの木綿布に着目し、なぜ藍染めが多用されたのか、その染色方法と役割、象徴性について明らかにすることを目的とする。研究方法は文献調査と、北海道白老町、登別市、沙流郡二風谷において聞き取り調査を行った。これらの調査から、江戸時代、アイヌは和人との交易や労働の報酬として藍染めの木綿布を手に入るようになり、樹皮衣アツシの補強や、着物に刺繍を施すための土台として切伏せ(アップリケ)のように使用し、その刺繍には魔除けや家族の健康を願う様々な思いが込められていることがわかった。また、藍色そのものも除魔力を持つと考えられており、裾や袖口などの縁に細く切った藍染めの木綿布を縫い付け、悪い神が入らないようにした。布を染めた藍については、内地で染められたという考えのほかに、エゾタイセイ(蝦夷大青)で染めた可能性と、藍以外の草木で彼ら自身が染めた可能性があることがわかった。
著者
米田 紀子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.47-56, 2014-01

棒針編みを学ぶ初期段階の課題として、編み図の読み取り方と構造理解が挙げられる。初学者は編み地を裏面に返す際に必要な、記号の読み替え作業が分かりにくい傾向が認められる。初学者がよりスムーズに編み図の読み取り方を理解するために、文章表現による解説方法を導入した教授法を提案する。本稿では次の手順で研究を行った。まず、英語の文章による編み方の解説方法を取り上げ、編み図とどのような違いがあるのか比較し、双方の長所・短所をまとめた。その結果、これらは互いの欠点を補い合う特性を持っていることが分かった。次に、これまで文化学園大学現代文化学部国際ファッション文化学科における編み物の授業において、編み図および文章解説、双方の表記を経験した学生へのアンケート調査を実施した。その結果、編み図を支持した学生においても文章による解説を分かりやすいと感じていることが分かった。それとともに英語への苦手意識がある学生も多いことが分かった。以上の結果から、編み図の理解を助けるための教授法の提案において、文章による解説を学習のどの段階に導入することが望ましいか判断するための指針を得たので報告する。
著者
矢中 睦美
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.11-19, 2014-01

現在、クールビズ対応商品として、吸水速乾性、撥水性、通気性、接触冷感、消臭機能などの糸や布地を使用した製品開発が進み、様々な機能性衣料が市場に並んでいる。本研究では、夏物機能性肌着が、実際に吸水・速乾機能、接触冷感などを体験でき、快適であるのかを検証することを目的とし、スポーツウェアや綿肌着と比較しながら検討した。①疎水性で水分率の低いポリエステルを混用し、放水性をよくしたもの、②繊維や糸を細くし、肌と布地表面の接触面積を増やし、接触冷感と風合い評価(手触り感)、吸湿性、放水性をよくしたもの、③糸の表面に水分率の高い扁平形状のキュプラを用い、肌表面に接触することで接触冷感に優れ、なめらかで吸水性のよいものなど様々であった。また洗濯処理を行うことで、糸が乱れ、布地表面が毛羽立ち、風合いが変化するため、各種の評価に影響を及ぼしている。しかし、ポリエステル、あるいはポリエステルが混用されているものは、洗濯処理による機能性の低下が少ない。接触冷温感評価値(q-max)と手触り感による風合い評価に一致性が見られ、ひんやり、なめらかな感触のものが好みだと感じていることが示唆された。
著者
吉田 昭子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.141-152, 2016-01

日本人の読書離れが指摘され,特に大学生の読書離れが繰り返し論議されている。大学生の読書はどのような状況にあるのだろうか。大学生は実際にどのような作品や著者を好み,読んでいるのか。学生が読書好きや読書嫌いになるきっかけとは,果たしてどのようなものか。本研究では既存の読書調査類を比較して大学生の読書状況を概観するとともに,文化学園大学の授業の中で大学1 年生が執筆した読書体験記に基づいて,その読書傾向や状況に関する考察を行った。読書体験記から見ると,幼少期における読書環境の状況にかかわらず,受講者は成長につれて本と接する機会が減少している。しかし,読書離れや不読は,読書嫌いを意味するわけではなく,読書体験を振り返る中で多くの受講者がどちらかと言えば,読書好きであると述べている。受講生は一貫して読書好き,読書嫌いな場合と,中高校生の時期に読書好きから読書嫌いへ,読書嫌いから読書好きへと変化している場合がみられることが明らかになった。変化のきっかけや理由として,「本との出合い」,「読書環境の設定」,「人との出会い」の3 つの場合が見られることが確認された。
著者
佐藤 百合子 昼間 行雄 牧野 昇 岩塚 一恵 北岡 竜行 近藤 静香
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.37-45, 2016-01

このインスタレーション作品は各専門分野の教員がそれぞれの素材を制作した共同制作による作品であり、音響を含めた空間を制作したインスタレーションである。 プロジェクション・マッピングでスクリーンとなりベースデザインとなる① . 着物の制作では日本文化を鑑賞できるよう、日本人に最も愛された桜の樹を①-1. デザインし、照明やプロジェクターの点灯していない暗転時間でも作品として鑑賞できるよう①-2. 蓄光顔料の使用を試みた。投影する② . 映像制作の②-1.3D グラフィックスでは桜の花びらが咲き散る様をダイナミックに演出し、着物のデザインと組み合わせ③ . アニメーションは学生の描いた女子高生のイラストを使用し、花札はコマ撮り方法でアナログ的な表現になるようまとめた。そして② -2. プロジェクション・マッピング技術により暗い空間に着物が光り浮かぶようセッティングした。④ . 音響制作は映像を鑑賞し映像に合わせたイメージと音調を考慮し④-1. 音源を制作し④-2. 正12 面体スピーカーにより効果的に演出した。 このインスタレーション作品はIFFTI2015 の公募企画で採択されサンタクローチェ聖堂で展示をした。
著者
角谷 彩子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.9-16, 2016-01

衣服において、スクリーンプリント技法はよく用いられるプリント技法の一つである。「スクリーンプリント」とは、インク(色料)を紗(スクリーン)の張った枠上に置き、スキージーという刷り道具でインクをスクリーンの表面に押し当てて一定方向へと動かすこと(Squeezing)でプリントする、孔版画の一種である。孔版とは、版となる膜(この場合はスクリーン)の表面にインクが通過する穴(孔)と通過出来ないよう塞いだ部分があり、この版上の穴だけを通過したインクが下の対象物に印刷される仕組みのことをいう。同様の仕組みのものとしては、ステンシルや紗張りをした型紙などが挙げられる。スクリーンプリントのインクは、液体(微粉体)の顔料(色素)と溶剤(塗膜形成要素)を混合したものが一般的である。顔料は化学的に合成されたものと、鉱物・動植物を加工した天然のものと2 種類あるが、スクリーンプリントでは前者の化学顔料のみ使用されている。本研究は「粗粉体」であり、天然顔料と化学顔料の両方ある「岩絵具」に着目し、スクリーンプリントで使用可能か、またどのような使用条件・方法があるか、プリントした布地で衣服制作が出来るかを検証した。
著者
深田 雅子
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.75-80, 2015-01-31

現存するアイヌの衣服の多くには、アツシなどの植物衣や木綿衣の襟ぐり、袖口、裾周りに藍染めの木綿布が使われている。それらは内地で染めたもので、貴重だったと言われている。本研究では、アイヌの衣服に使用された藍染めの木綿布に着目し、なぜ藍染めが多用されたのか、その染色方法と役割、象徴性について明らかにすることを目的とする。研究方法は文献調査と、北海道白老町、登別市、沙流郡二風谷において聞き取り調査を行った。これらの調査から、江戸時代、アイヌは和人との交易や労働の報酬として藍染めの木綿布を手に入るようになり、樹皮衣アツシの補強や、着物に刺繍を施すための土台として切伏せ(アップリケ)のように使用し、その刺繍には魔除けや家族の健康を願う様々な思いが込められていることがわかった。また、藍色そのものも除魔力を持つと考えられており、裾や袖口などの縁に細く切った藍染めの木綿布を縫い付け、悪い神が入らないようにした。布を染めた藍については、内地で染められたという考えのほかに、エゾタイセイ(蝦夷大青)で染めた可能性と、藍以外の草木で彼ら自身が染めた可能性があることがわかった。
著者
福田 博美
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 服装学・造形学研究 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.33-45, 2015-01

鳥居清長(1752-1815)は江戸時代中期に活躍した浮世絵師である。清長は八頭身の姿態を描いた美人画が代表的であり、鳥居派4代目絵師として歌舞伎役者絵を描いた。本論文は、清長の浮世絵に見る服飾描写を分析し、当時の洒落本・随筆等の記述と照合して、同時期の絵師の作品との比較からその独自性を捉えることを目的とする。清長の画業は、明和期に鈴木春信(?-1770)、安永期に磯田湖龍斎(1735-90)を範とした。天明期は全盛期で、浮世絵が中判から大判へ変わり、長身の美人群衆を描いた。また、役者の舞台絵と共に彼らの日常の姿も描いた。寛政から文化期は、肉筆画を手掛けた。清長の独自性は「姿態美」に見られ、女性の後姿や前垂姿に表現され、男性の装いは通人の流行を先導した。次に、清長の染織表現の独自性は2点挙げられる。まず、女性の薄物に赤みをおびた「藍さび色」を用いた点である。藍さびは当時の流行で黒の絣を主とし、喜多川歌麿(?-1806)の美人画も黒であった。次に、三井親和(1700-82)の篆書を染め出した「親和染」を着物や帯、前垂や団扇に表した点である。最後に清長の描いた広幅帯に留め具がなかった要因は芸者の帯結びの方法によることが解明できた。