著者
丸山 茂徳 小宮 剛
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.869-876, 2011-10-25 (Released:2012-01-17)
参考文献数
13
被引用文献数
4 12

グリーンランド・イスア地域は緑色片岩–角閃岩相程度の広域変成作用を受けてはいるが,見事な枕状溶岩の構造を普遍的に残している。枕の形,急冷縁,マトリックスの構造などが明瞭に残存している。枕状溶岩の存在は38億年前に海洋がすでに存在していたことを示すが,さらに付随する岩石との関係から,典型的な付加体の存在が認められる。海洋プレート層序は付加体が現在の西太平洋地域のような海洋内島弧の一部として形成されたことを示す。付加体の形成は北から南側にプレートが沈み込んだことを示す。さらにCA系列の花崗岩帯が付加体を貫く。これらは太平洋型造山運動が38-37億年前に機能していた証拠である。玄武岩の化学組成から,起源マントルの組成と温度が推定される。海洋の温度を100℃以下とみなすと,38-37億年前の海洋プレートの剛性度とプレートの厚さが求められ,プレートテクトニクスが38億年前にすでに機能していたことがわかる。
著者
小宮 剛
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
日本地質学会学術大会講演要旨 第128学術大会(2021名古屋オンライン) (ISSN:13483935)
巻号頁・発行日
pp.050, 2021 (Released:2022-05-31)

日本地質学会では、2019年に日本鉱物科学会と共同で、大型研究マスタープラン2020に『地球惑星研究資料のアーカイブ化とキュレーションシステムの構築』というタイトルで、国内に地球惑星試料や資料を大規模かつ系統的に保管し、キュレーションをするシステムを構築することを申請しました。大型研究マスタープランとは、科学者コミュニティの代表としての日本学術会議が、各学術分野が必要とする学術的意義の高い大型研究計画を網羅・体系化することにより、学術の発展や学術の方向性に重要な役割を果たす我が国の大型研究計画のあり方について一定の指針を与えることを目的とするものです。 これまで、3年毎に見直しされてきており、2023年に見直しされる可能性があるので、学会では現在次期マスタープランに向けて準備を進めています。 ところで、2020年に日本学術会議において「オープンサイエンスの深化と推進に向けて」と題した提言がされました。そこでは、「研究成果をもたらした第1次物質的試料の永久保存体制の構築やそれらの背景となった第0次試料の選択的保存について、基本方針を確立する必要性」が説かれております。このように、研究試料のアーカイブ化は今や早急に取り組むべき課題となっています。そこで、25期においても、大型研究計画の施設整備に地球惑星研究資料のアーカイブ化とキュレーションシステムを早急に構築することを申請する予定です。本発表では大型研究マスタープラン2020で申請した内容を紹介するとともに、現在進行形ではありますが、次期申請に向けた準備状況を報告し、みなさんのご意見を伺いたいと考えております。大型研究マスタープラン2020で申請した『地球惑星研究資料のアーカイブ化とキュレーションシステムの構築』の概要は以下の通りです。http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t286-1.htmlでも見られますので、そちらもご確認ください。 『日本で近代科学が産声をあげて150年、日本の研究者は公的な研究費を用いて国内外から多くの岩石・化石試料や隕石、地質・地形情報等(以下、地球惑星研究資料または資料)を集めてきた。しかし、博物学が重要な位置付けを占める欧米と異なり、日本では研究資料のキュレーション施設の整備が大きく立ち遅れている。そのため、学術的価値の高い資料や科学的遺産にあたる資料でさえ維持するのが難しい。加えて各国の土地開発や紛争及び試料の採取・持出制限によって、新たな外国産資料の確保がますます困難になりつつある。そこでキュレーションがますます重要となる。既存資料の保管による科学的貢献の例として、近年のアポロ試料の再分析による月の水の存在の新証拠の発見やカンブリア爆発の概念を創出したバージェス頁岩の研究等がある。どちらも30年以上、公的機関に保管された試料の研究から始まった。さらに、近年の急速な研究技術の進歩を考えると、現在不可能とされる化石の超微量分析、古代ゲノム、地震時に形成された断層岩の超微小領域解析も将来可能となろう。本計画は、現在分散保管されている資料のデジタル・オープンアクセス化とアーカイブ化、それらを網羅する統合データベースの構築、そうしたデジタルデータと実試料の保管・提供を統括する『地球惑星研究資料アーカイブセンター』の新設を提案する。その体系を早急に構築することで、短期には現在日本の地球科学において国際競争力のある岩石・化石試料を基盤とした研究分野を支え、長期では未来の研究者との共同研究として研究技術が高度に発達した30~100年後を見据えた科学の発展に寄与する。また、古地形や地盤データのオープンアクセス化、資源試料の提供及び研究資料の博物館、初等教育機関及びマスメディアへの貸出の一括管理は日本の産業、国土開発、領土管理、生涯学習及び初等教育にも貢献することが期待される。』 今後進めていく項目として、(1)本申請内容がより広範な科学者コミュニティから支持される内容であり、かつ多くの科学者が切望しているものであることを示すために、他の学会からの賛同を得ることを進めています。6月の時点では、日本鉱物科学会、地球環境史学会、日本堆積学会、日本地球化学会などから共同提案者や賛同者として、賛同を得ることができ、この取り組みは現在も続けられています。(2)地球惑星研究資料アーカイブセンター設立の準備委員会を立ち上げ、設立に向けた議論を関係する学会や機関の関係者と開始します。(3)日本学術会議地球惑星科学委員会地球・惑星圏分科会に学術資料共有化小委員会が設立されました。両委員会には共通の委員も多くいることから、それらの委員会を両輪として、本計画の準備を進めていきたいと考えています。
著者
小宮 剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日本で近代科学が産声をあげて約150年、この間、日本の研究者は公的資金を用いて国内外から、非常に多くの地球試料や隕石、地質・地形情報など(宇宙・地球研究資料)を集めてきた。しかし、博物学が重要な位置付けを占める欧米と異なり、日本では研究のために資料を保管し、キュレーションするといった設備の整備が極めて立ち遅れている。そのため、学術的価値の高い試料や大きな発見につながった科学的遺産試料でさえ放置・紛失・廃棄されてきた。さらに、開発や紛争などによって試料採取が不可能になるケースや各国で岩石・生物・化石試料の採取や輸出が制限されるケースが年を追うごとに増加し、研究試料の確保の困難が浮き彫りになってきた。 しかし、カンブリア爆発を創出したバージェス頁岩や最近注目を集める希土類元素に富む深海泥の研究は、30〜50年もの長い間、公的機関に保管された試料の研究から始まっている。さらに、現時点では不可能な古代ゲノム研究、岩石・化石試料の超微量分析、東日本地震を引き起こした断層岩の極微量・微小解析なども、急速に進歩する研究技術の進展を考えると、近い将来可能となることが期待されるが、その時には対象の試料を確保することがもはやできないといった問題に直面することが危惧される。 また最近、科学の社会的還元や信頼性の保証のため、論文やデータのオープンアクセス化やデータの元となった資料の保管の必要性がヨーロッパ諸国から強く唱えられ、今や中国さえもそのような国際的な取り組みに主体的に参加する大きな潮流が生まれている。しかし、日本では、このような世界的動向に主導的に参画するための基盤的設備が立ち遅れてしまっている。 我々は、現在、分散保管されている宇宙・地球研究資料を一つのプラットフォームでアーカイブし、公開・キュレーションすることと、それらを保管する施設を建設することを提案する。過去に採取した試料を保管することは一見、生産性が無く、浪費と見なされがちであるが、上述の深海泥を採取するには30以上の航海を必要とし、多大な費用がかかり、今や現実的でない。さらに、基本記載の済んだ資料は研究の進展を迅速にする。つまり、将来の研究のために資料を保管することは金銭的にも十分見合う投資となる。そこで、我々はそのような保管・頒布体系を早急に構築することで、100年後を見据えた科学の発展に寄与することを目指す。 実施主体:産総研・地質調査所。提案・支援機関:地質学会、国立極地研究所、国立科学博物館、海洋研究開発機構、神奈川県立博物館、各大学の地球惑星関連専攻、各自然史系博物館など。事業期間は10年間で、その後は地質調査所の敷地内で保管する。費用は、施設費に100億円、アーカイブ化のため、各大学に人員を配置する人件費として200億円を見込む。
著者
小宮 剛 山本 伸次 下條 将徳 青木 翔吾
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2013年度日本地球化学会第60回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.242, 2013 (Released:2013-08-31)

太古代初期のテクトニクスと表層環境を解読する為にラブラドル・ネーン岩体の地質と出現する堆積岩の化学分析を行った。本地域に産する最古の表成岩は海洋プレート層序と覆瓦状構造によって特徴付けられ、最古の付加体であることが分かった。その存在はプレートテクトニクスが機能していたことを示唆する。また、本地域には深海成と浅海成の二種の縞状鉄鉱層が産する。Zr濃度との相関を用いて砕屑物の混入の影響を除去した結果、特にその影響の小さなものには希土類元素パターンなどに海水と熱水との混合水の特徴が見られる。そのことは最古の堆積物でありながら、その縞状鉄鉱層には当時の海水の情報を残すことを示す。また、砕屑性堆積岩には炭質物が残されている。
著者
石川 智子 上野 雄一郎 小宮 剛 吉田 尚弘 丸山 茂徳
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2009年度日本地球化学会第56回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.41, 2009 (Released:2009-09-01)

後期原生代エディアカラ紀から顕生代初期カンブリア紀にかけて、生物進化と地球化学の両面で大規模な変動が起きたと考えられいる。特に先カンブリア紀/カンブリア紀境界(Pc/C境界)前後において海洋の無機炭素同位体比は大きく変動しており、当時の海洋の炭素循環の著しい変化が予想される。一般に、海洋の炭素循環の定量化には当時の海洋の有機炭素同対比の情報も必要不可欠であるが、Pc/C境界前後の有機炭素同対比が無機炭素同位体比と共に一地域で報告された例はほとんどない。そこで我々は、南中国・三峡地域において掘削により採取された連続試料を用いてPc/C境界前後の高時間分解能の有機炭素同位体比化学層序を求めた。得られた無機・有機炭素同位体比の関係性を基に、数値計算を行い当時の海洋の炭素循環について定量的に議論する。
著者
石川 晃 下條 将徳 鈴木 勝彦 Collerson Kenneth D. 小宮 剛
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2012年度日本地球化学会第59回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.55, 2012 (Released:2012-09-01)

マントル中の親鉄元素の過剰を説明するレイトベニア仮説は広く知られるが、真偽のほどは未だ研究者間で異論がある。最近のタングステン同位体比を用いた研究から、現在の地球マントルに含まれる親鉄元素の大部分が40-38億年前の「後期隕石重撃期」にもたらことが提案されているが、本研究によると、38億年前の超苦鉄質岩は太古代以降のマントルとほぼ同程度の強親鉄性元素を含んでいることがわかった。この事実はレイトベニア成分が「後期隕石重撃期」よりかなり以前に地球に付加し、その後均質化したことを示唆するため、タングステン同位体比による考察と明らかに矛盾している。
著者
渋谷 岳造 上野 雄一郎 小宮 剛 西澤 学 北島 宏輝 山本 伸次 齋藤 拓也 松井 洋平 川口 慎介 高井 研 吉田 尚弘 丸山 茂徳 ラッセル マイケル
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2015年度日本地球化学会第62回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.49, 2015 (Released:2015-09-03)

原生代前期には赤道域まで海洋が凍結したという全球凍結イベントがあったとされている。全球凍結の原因については、様々な仮説が提唱されているが、地質記録に基づく大気CO2分圧の推定からはCO2がそれ自体で地球を温暖に保つために不十分だったのかどうかが明らかになっていない。そこで、本研究では南アフリカ、トランスバール超層群のオンゲレック累層 (全球凍結時に海水中に噴出した玄武岩質安山岩) の地質調査・試料採取を行い、海洋底玄武岩の空隙を埋める熱水性石英に含まれている流体包有物の分析を行った。その結果、初生的流体包有物のCO2濃度は5.5 mmol/kg以下であることが明らかになった。また、計算の結果、大気CO2分圧は現在の約21倍以下であり、海水温を氷点温度以上に維持するのに必要なCO2分圧よりも低いと推定された。したがって、原生代前期全球凍結時の大気CO2分圧はCO2の温室効果だけで地球を温暖に保つには不十分であったことが地質記録から初めて明らかになった。
著者
田畑 美幸 上野 雄一郎 石川 智子 澤木 佑介 小宮 剛 吉田 尚弘 丸山 茂徳
出版者
日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.387-387, 2008

マリノアン全球凍結(約630Ma)後が、初めて多様な多細胞生物が出現し、ガスキアス氷河期といわれる大規模な氷河期があった (Myrow .1999)生命史の中で最も重要なエディアカラ紀である。本研究では、環境変動と生物進化の関連性を解明するため、多くの化石の報告のある南中国の掘削試料の炭素・酸素同位体比を高解像度で分析し、当時の連続的かつ詳細な環境変動を解読した。本研究ではGasBench II & DELTA plus XLを用いて、掘削試料の分析を行った。分析の結果より、南中国のエディアカラ紀に相当する層には最下部、中部と上部の三つの大きな負の炭素同位体比変動が存在した。それぞれの負異常の最低値は最下部で約-10‰、中部で約-6‰、上部で約-10‰であった。また、酸素同位体比は平均-3‰で先行研究より非常に高い値であった。酸素同位体比は一般に変質を受けた場合大きく低下する。よって、得られた酸素同位体比はより初生的な酸素同位体比を残していると考えられる。以上の結果より、エディアカラ紀の炭酸と酸素の完全な地球化学層序を初めて復元した。エディアカラ紀中期に寒冷化が起きた定量的証拠を発見した。炭素同位体比の負異常はその寒冷化に伴い生物活動が低下した事を示している。この後、エディアカラ生物群が出現する事から、寒冷化という環境変動が動物の出現に大きな役割を果たした事を示唆する。
著者
昆 慶明 平田 岳史 小宮 剛 安間 了 丸山 茂徳
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2008年度日本地球化学会第55回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.300, 2008 (Released:2008-09-06)

『生命』、『海』、『プレートテクトニクス』と並んで、『花崗岩質大陸地殻』の存在は地球を特徴付ける要素であり、その生成プロセスを明らかにすることは地球史を解明する上で非常に重要である。 本研究では、LA-MC-ICPMSを用いてタイタオ半島花崗岩から分離したジルコンの局所Hf同位体比測定を行った。その結果ジルコンの177Hf/176Hfは、現在沈み込む海洋地殻の値と誤差範囲で一致し、およそ0Maのモデル年代が得られた。このモデル年代は花崗岩マグマの原岩がマントルから分離した年代を反映することから、タイタオ半島花崗岩マグマの原岩は古いモデル年代を持つ下部地殻ではなく、沈み込む海洋地殻であることが確かめられた。