著者
冨安 卓滋 井村 隆介
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

桜島は日本有数の活火山であり、桜島及びその周辺地域の土壌はこれまでの爆発で放出された火山性堆積物によって、過去の噴火の歴史を記録している。一方、火山活動によって放出される水銀は、ほとんど金属水銀蒸気であり、火山灰等の噴出物は高温下で一度mercury freeの状態になった後、これら金属水銀蒸気を吸着しつつ降下すると考えられる。すなわち、火山性堆積物は土壌中の存在期間及び水銀の元々の化学形が明快な試料になり得る。この点に着目した著者らは、水銀の環境中での動態変化を追跡する第一段階として、桜島及びその周辺地域、7箇所において、表層からlcm毎に深度約1mまで土壌を採取し、総水銀濃度、水分含有量、有機物含有量及び粒度分布の測定を行った。それぞれの垂直分布及びそれらの相関についても検討した。その結果、水銀濃度と有機物含有量及び水分含有量の間に高い正の相関が見出され、土壌への水銀の供給に植物が重要な役割を持っていることが示唆された。しかし、明らかな火山性堆積物の層では、有機物含有量はほとんどが1%以下で、植物の影響をほとんど受けていないことがわかった。また、土壌中の水銀は上下方向へはほとんど移動しないことを実験的に明らかにし、本フィールドの火山性堆積物が、水銀の土壌中の経時変化を追跡するのに有用であることを確認する事ができた。また、年間を通じて大気中水銀(金属水銀蒸気)の測定を行ってきたが、気温-水銀濃度の間に温度-蒸気圧と同様の関係式が成り立つことを見出した。このことは、土壌表面と大気との間に蒸着発散機溝が存在することを示唆している。さらに、その関係式は桜島が気中水銀採取地点の風上になるときには成立せず、桜島から放出される水銀の影響を評価するのに有用な知見であることを見出した。
著者
川端 訓代 渡部 真衣 北村 有迅 中野 亮典 冨安 卓滋
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
日本地質学会学術大会講演要旨 第128学術大会(2021名古屋オンライン) (ISSN:13483935)
巻号頁・発行日
pp.148, 2021 (Released:2022-05-31)

ラドンは不活性のガスとして存在し水に対する溶解度が高く岩石の間隙流体や地下水に容易に溶け込むことが知られている.そのため,水中ラドンは地下の岩石種のトレーサーや地下水の帯水層の情報を得るために測定されてきた.また,岩石から放出されるラドンは亀裂の増加や,岩石・水比の変化,間隙率変化をもたらす地殻歪変化によって濃度が変化するため,地震などの地殻変動検との関係についても調査されてきた.(例えばUlmov and Mavashav, 1971; Wakita et al., 1980; Igarashi et al., 1995; Kuo et al., 2006; Tsunomori and Tanala, 2014).鹿児島県には活断層や断層が多く存在し,温泉施設も多い.本研究では特に鹿児島市近辺の温泉・地下水中のラドン濃度を測定し,市内に分布する活断層・断層と水中ラドン濃度の関係について考察を行う.鹿児島市内の温泉水は現在の一般的な地温勾配に従って温度が高くなることから,マグマや火成岩の熱的な影響を受けていないことが明らかとなった.また酸素水素同位体分析結果から,断層近傍の温泉でマグマに関係した水の混入が認められた.水中ラドン濃度測定の結果,基盤岩である四万十累層群とその上位に堆積する火砕流堆積物の帯水層から得られる水中ラドン濃度に顕著な差が認められた.これは帯水層が多孔質であるか否かという岩石の性状に起因している可能性が高く,多孔質の火砕流堆積物ではラドン濃度が高くなり,間隙が少ない四万十累層群では低くなるためと考えられる.温泉水中ラドン濃度分布から,活断層や基盤岩中に発達する断層付近においてラドン濃度が高い温泉が認められた.これらの温泉は岩石中の比表面積や間隙が大きい断層を流路としている可能性が考えられる.特に鹿児島市下の基盤岩グラーベン構造を作る断層近傍の温泉は,マグマの影響を受けた水が断層を流路として上昇している可能性が考えられる.また,鹿児島市内には,ヒ素が検出される井戸が確認されている.これらの井戸の深度は不明なことが多く,汚染源が特定されていない.本発表では,上記のラドン濃度と地質の関係から,深度不明井戸の地下水中ラドン濃度を測定し,汚染源深度を推定する試みについても発表を行う.Igarashi et al., Science, 269, 1995 Kuo et al., Ground Water, 44, 2006Tsunomori and Tanaka, Radiat. Meas, 60, 2014 Wakita et al., Science, 207, 1980 Ulmov and Mavashav, Akad. Nauk Uzbek, 1971
著者
北川 俊輝 河西 大悟 下内 良平 児玉谷 仁 神﨑 亮 冨安 卓滋
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2019年度日本地球化学会第66回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.259, 2019 (Released:2019-11-20)

水俣湾は1977年~1990年にかけて25 mg kg⁻¹以上の水銀を含む底質は浚渫・埋め立てが行われたが、未だにバックグラウンドの数十倍の水銀を含む底質が存在する。本研究では2013年~2018年に採取された底質中の総水銀濃度及び底質化学組成の測定を行い、排出された水銀の拡散について検討を試みた。八代海表層底質中総水銀濃度は、水俣湾に近いほど高く、遠ざかるほど低くなる傾向が見られた。底質化学組成を見ると主要成分はSiO₂、Fe₂O₃、Al₂O₃であった。SiO₂に対しFe₂O₃及びAl₂O₃をプロットすると、八代海底質ではともに正の相関が見られ、水俣湾沿岸に近い程それらの割合が高くなる傾向が見られた。水俣湾、袋湾の底質では、SiO₂に対するFe₂O₃、Al₂O₃の割合は八代海底質に比べて高く、SiO₂に対するこれらの値は八代海底質とは明らかに異なる領域にプロットされた。
著者
冨安 卓滋 松山 明人 井村 隆介 宮本 旬子 大木 公彦 穴澤 活郎 赤木 洋勝
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

イドリヤ川では鉱山地域周辺において、無機水銀の濃度は、鉱山からの距離に伴って減少するが、メチル水銀濃度は、流下に伴い一度上昇した後に低下することが明らかとなった。また、河川底質からの溶出実験により、河川水と底質を一緒に保存すると水中の総水銀濃度は数倍になる一方で、メチル水銀濃度は数百倍にまで上昇する現象が見られた。これは、河川水中メチル水銀の起源として、底質が重要な役割を担うことを示唆するものであった。また、周辺地域への水銀の拡散状況を調べるために、河川底質、川岸土壌、草原土壌、森林土壌表層中の水銀濃度を測定した結果、水銀鉱山に最も近い地点では、河川底質中の総水銀濃度が最も高かったが、下流地点では、草原土壌の総水銀濃度が最も高く、また、メチル水銀濃度は、川から離れるに連れて高くなる傾向が見られた。河川底質、周辺土壌に関して、蛍光X線分析をおこなった結果、河川沿岸土壌、周辺草原土壌は、森林土壌と河川底質の混合層として存在することが明らかとなってきている。これらをふまえて、今年度は水銀の周辺地域への拡散における川による運搬の影響、また、水銀の化学形を明らかにするために、水銀鉱山付近とその約2km下流の2地点において、川岸から山へ向かって約20mおきに各4点、採土器を用いて土壌を柱状に採取した。採取した試料は柱状図を記載し、層ごとに切り分け、石、根などを取り除いた後、チャック付きビニール袋に保存し日本に持ち帰った。現在下流地点の総水銀濃度の測定が終了、水平方向では川岸から2点目に最高水銀濃度が観察され、また、鉛直方向には層毎に大きく水銀濃度が変動することが確認された。これらは、河川の氾濫によって運搬された水銀汚染底質の堆積によるものと考えられる。