- 著者
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鳥居 フミ子
- 雑誌
- 日本文學
- 巻号頁・発行日
- vol.67, pp.1-15, 1987-03-15
中将姫説話が江戸時代にどのように演劇化されていったかを、土佐浄瑠璃「中将姫」を中心にして考えてみたい。中将姫は当麻寺の曼陀羅の制作者として鎌倉時代以来喧伝されてきた女性である。その説話は、縁起・絵解き・絵巻などとなって、当麻寺の宣伝に一役を担って、大衆の間に根を下ろしていった。中世においては、物語化されてお伽草子となり、さらにこれが劇化されて、能にも作られている。江戸時代を迎えて、中将姫説話は、歌舞伎や浄瑠璃に仕組まれて、変貌しながら大衆の中に浸透していったのである。その変貌の様相に、中世説話の近世演劇化の実態を跡づけることができるように思われる。