著者
紅粉 美涼 中井 寿雄
出版者
一般社団法人 日本災害医学会
雑誌
日本災害医学会雑誌 (ISSN:21894035)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.13-17, 2022-01-13 (Released:2022-01-14)
参考文献数
15

東京都をモデル地区として、2017年6–9月に高齢者がエアコン未使用で熱中症を発症し救急搬送され2日間入院した場合の費用と、暑さ指数25°C以上の時間にエアコンを使用した場合の電気料金の推計値との差を求めた。医療費の1割負担額と電気料金の差は6月8,067円、7月−3,840円、8月−2,625円、9月6,528円、2割負担額との差は、6月16,917円、7月5,010円、8月6,225円、9月15,378円、3割負担額との差は6月25,766円、7月13,859円、8月15,074円、9月24,227円と推計された。負担額内のエアコン利用のカットオフ時間値は1割が305.2時間、2割が655.5時間、3割負担者が915.5時間だった。高齢者にエアコン使用を促す際は、入院を契機をとした基礎疾患の悪化のリスクや、入院期間の延長の可能性を合わせて情報提供する必要がある。経済的に余裕がない者は、カットオフ時間数を参考にした過度な節約に注意が必要と考えられる。
著者
白石 淳
出版者
一般社団法人 日本災害医学会
雑誌
日本災害医学会雑誌 (ISSN:21894035)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.77-83, 2023-08-27 (Released:2023-08-27)
参考文献数
11

医学研究が行うことは、科学の探求や社会の要請から生まれる医学の問いを受け、科学的手法を通じて定式化し、その結果を導き、問いに答えることである。定式化には主にPatient, Intervention, Comparison, and Outcome(PICO)の枠組みが用いられ、Introduction, Methods, Results, and Discussion(IMRAD)の形式で書かれた論文で問いから答えまでの流れが示される。Introductionでは背景と問いの意義が、Methodsでは問いをPICOに基づいた具体的な研究手法が、ResultsではMethodsに対応した結果が、それぞれ示される。最後にDiscussionで既存の研究との対比が考察され、問いへの答えが明らかにされる。医療者と医学研究者にはこの構造を理解し、論文を効果的に読み、書くことが求められる。
著者
鶴本 一成 林 洋克 伊野 匠 山本 大樹
出版者
一般社団法人 日本災害医学会
雑誌
日本災害医学会雑誌 (ISSN:21894035)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.5-11, 2023-03-20 (Released:2023-03-20)
参考文献数
15

2015年4月25日に発生したネパール大地震に対し、手術等が可能な国際緊急援助隊医療チームが派遣された。1次隊はバラビセ村で診療を行っており、2次隊は1次隊の活動を引き継いで活動を開始した。医療調整員はこれまでの派遣同様の診療受付・バイタルサインの測定などの他、転院搬送が必要な患者を、現地救急車にて搬送する際に同乗し患者管理を行った。5月12日に発生した余震によりバラビセ村から撤収し、カトマンズ市内の病院で支援を行った。病院では救急車などで来院した患者の搬入、独歩で来院した患者のトリアージの他、他国医療チームがフィールドクリニックの展開準備をしていたため、配置・設営などの助言および補助、さらに臨床工学技士・臨床検査技師が行う治療・医療機器のメンテナンスの補助を行った。医療調整員は機能拡充チームとしての活動および病院支援を行った。今後の機能拡充チームとしての活動は、他職種のより一層の理解と現地ニーズに応えるための柔軟性が求められる。
著者
中井 寿雄 福島 健一郎 西 聡士 松岡 遼太郎 能勢 佳子 中窪 悟 武部 秀人
出版者
一般社団法人 日本災害医学会
雑誌
日本災害医学会雑誌 (ISSN:21894035)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.35-41, 2022-01-28 (Released:2022-01-28)
参考文献数
16

本研究の目的は、K-DiPSアプリを用いて、鹿児島県肝付町における医療機器・処置や薬剤などを要する要支援者を把握し、GISを用いて津波と土砂災害の被災リスクを明らかにすることである。58人の年齢の中央値(範囲)は、86.5(1–100)歳で、女性34人(58.6%)、医療機器を4人が使用していた。内服薬は243、内服以外は51種類だった。津波浸水想定区域に5人、土砂災害警戒区域に6人が居住し1区域は特別警戒区域だった。浸水想定区域の要支援者の避難準備時間を5分、時速1.66 kmで避難した場合に、5人全員が時間内に浸水想定区域外、もしくは近接の津波避難タワーに退避が可能と推定された。タワーへ避難した場合、津波流入方向に向かって移動する者が2人だった。アプリを用いることで詳細かつ最新の状態を把握できる可能性がある。GISによる可視化は、要配慮者と具体的な避難行動を検討する際に有効である。
著者
宮川 明美 谷川 攻一
出版者
一般社団法人 日本災害医学会
雑誌
日本災害医学会雑誌 (ISSN:21894035)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.89-100, 2023-12-02 (Released:2023-12-02)
参考文献数
22

【目的】双葉郡は2011年の福島第一原子力発電所事故の影響を最も受けた地域である。我々はこの地域における医療体制の再整備に関する課題を把握するために、事故後の医療ニーズの変化と医療体制の変遷について調査した。【方法】福島県と地方自治体からの報告、双葉消防署からの救急搬送データ、ふたば医療センター(FMC)での患者データの分析を行った。【結果】事故後、2014年からの避難指示解除に伴い、救急搬送件数は年率約10%で増加した。事故後早期には労働関連事故や交通事故による外傷の割合が30%以上増加した。住民の帰還に伴って内因性疾患(呼吸器疾患が最多)の割合が増加した。2018年にFMCが開設されたが、60歳代の患者が多く、2019年には80歳代の患者の割合が著しく増加した。【考察と結語】事故後、継続して行われた除染事業や復興事業、および住民の帰還による人口統計の変化は観察された外傷や疾病構造と関連していた。なお、本論文は以下の原著論文の和訳である。Miyagawa A, Tanigawa K: Health and medical issues in the area affected by Fukushima Daiichi nuclear power plant accident. Int J Environ Res Public Health 2022; 19: 144.
著者
岩元 英輔 矢津田 善仁 仲嶋 隆史
出版者
一般社団法人 日本災害医学会
雑誌
日本災害医学会雑誌 (ISSN:21894035)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.181-187, 2022-10-22 (Released:2022-10-22)
参考文献数
8

新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)クラスターが発生した病院の医療従事者に身体症状が続発し、災害支援鍼灸マッサージ師合同委員会(Disaster Support Acupuncture Masseur Joint Committee:以下DSAM)に対して鍼やマッサージが要請された。7日間の支援で63名(延べ人数72名)が利用し、40歳代(30.2%)・看護職(87.3%)・女性(77.8%)、首肩部の主訴(54.7%)が最も多かった。このうち、COVID-19発生からDSAM介入までの11日間で健康被害が生じたのは34名(39.5%)で、施術前のNumeric Rating Scale(以下NRS)7点以上16名(47.1%)から施術後は0名に改善傾向を示し、早期介入による医療従事者の身体症状の緩和が図れた。
著者
山﨑 達枝 桑原 裕子 松井 豊
出版者
一般社団法人 日本災害医学会
雑誌
日本災害医学会雑誌 (ISSN:21894035)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.80-88, 2022-04-13 (Released:2022-04-13)
参考文献数
11

【目的】東日本大震災を体験した看護管理職が、災害にどのような点で苦労したのかを把握し、看護管理職の退職意向との関係を探索的に検討する。【方法】同震災発生から4年後に、被災地域内13医療施設77名の看護管理職を対象に個別配布・郵送回収による質問紙調査を実施した。調査期間は2015年6–7月であり、68名から有効回答(88.3%)を得た。【結果】多くの看護管理職が業務多忙による苦労を経験していた。退職したいと思った人は61.8%であり、退職意向に影響する要因として、震災後の職場の雰囲気の悪化や職場の人間関係の板挟みになることによる苦労が影響していた。しかし、看護管理職に行われた心理支援は11.8%にとどまっていた。【考察】被災した看護管理職の苦労として「人間関係の問題」があり、この問題が退職意向に結びついていた。
著者
服部 友紀 平川 昭彦 坪内 希親 宮崎 ゆか 山岸 庸太 笹野 寛
出版者
一般社団法人 日本災害医学会
雑誌
日本災害医学会雑誌 (ISSN:21894035)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.123-128, 2022-05-01 (Released:2022-05-01)
参考文献数
7

災害現場への緊急出動では情報が曖昧な場合が多く、適切に状況把握し行動することが重要である。今回、事前情報が詳細不明の火災現場での活動を経験した。某日曜日深夜「住宅火災が発生し1名救出、何人か取り残されている」とドクターカー出動要請があった。4分後に到着すると現場指揮所から気道損傷を疑う2名の診療・搬送を依頼された。2名の状態は安定しており、依頼通り自院ERへ搬送・診療するか、新たな救出者のため現場に残るか考えた。15分間を上限と設定し、救急科医師のER招集を手配しつつ現場活動を継続した。10分後にスタッフ招集の目処がついたため現場活動に専念した。その後は搬出された2名の死亡確認と別エリアの待機者19名の診療を行い1時間後に帰院した。本事例では、到着前のブリーフィング、到着後の状況把握、現場を離れるか活動継続かの選択、スタッフ・指揮所との意思疎通、実際の診療など難しい局面が多く大変貴重な経験であった。
著者
咲間 彩香 斉藤 久子 勝村 聖子 熊谷 章子 岡 広子 本村 あゆみ 岩瀬 博太郎
出版者
一般社団法人 日本災害医学会
雑誌
日本災害医学会雑誌 (ISSN:21894035)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-10, 2021

<p>東日本大震災では多くの歯科医師が身元確認作業に従事したが、体制の不備による数々の問題が指摘され、歯科所見による身元判明例は総身元確認数の7.6%にとどまった。日本は多くの災害を経験し、災害時の身元確認体制について度々改善が求められてきたにもかかわらず、本震災でも身元確認作業における混乱を避けられなかった。本研究ではその要因を追求し、身元確認体制の在り方を考究することを目的に、過去の災害と東日本大震災における歯科身元確認の問題点を比較、再検証した。その結果、記録方法の全国的な不統一や、歯科所見採取に必要な装置や備品の不足、不明確な命令系統など、いずれの災害においても共通した課題が繰り返し挙げられていたことが明らかになった。死因究明先進国と比較すると日本は平時から身元不明遺体が多く、大規模災害時の歯科身元判明率も格段に低い。過去の反省を活かし、身元不明遺体数の減少に向けた対策を早急に講じるべきである。</p>